かしゃんと言う無機質な音で落ちていった首輪。

幸村の首にはもう嵌っていないそれ。

青年はそれを拾い上げ、机の上へ置いた。




「ところで、どうやってを誑かしたの?」

「誑かす?」

「僕のは、あんな風に負けたりしない。君が誑かしたんでしょう?」

「そんなことしていません」




その瞬間、青年の微笑みは消えた。

張り付いたような微笑とは打って変わって、

脆い仮面がぽろぽろと外れていくようにつり上がって行く眉。




「君以外に誰がいるの!!僕のをあんな!!」

「なっ・・・・・」

「返してよ!!僕のを!!」




言い寄る青年の手の中の拳銃は、幸村のこめかみ当てられた。

それは、なんの余興だろう。

はっきりしている事は、青年が幸村を殺そうとしているという事だけ。




「殺してやる。お前なんか死ねばい・・」




がらりっ




叫び声を遮って開かれた扉。

そこに立っていたのは、右手を押さえ、息を切らしている

青年の見開かれた眼は、を凝視していた。




「ヤメテ・・・・」

!!僕の!!生きてるって判ってたよ!どうしてコイツを生かしておいたの?」

「もう・・・・イヤなの」

「どうした・・」




バババババババッ




に駆け寄り、抱きすくめた青年。

青年は、顔をあげないに声をかけ続けていた。

鳴り響いた銃声。




「っな・・・・・・・・」

「マシンガンだとは思わなかったでしょ?」

「ぐっはっ・・」




開いた傷口から溢れる血。

今まで一発づつ打ってきたのは、青年にマシンガンだと悟られない為。




「彼方がいなくなれば、しばらくBRは出来なくなる」

「どっ・・・・どうして!!ボっク・・は・・・・」

「私の兄だから?だから何?彼方は家族を売った。そんな人、兄なんかじゃない」

「お兄・・・さん・・・・だって」

「そう。でも、彼方の狗でいるのも今日でお終い」




もう一度、青年に銃を向け、放とうとしたその瞬間だった。

大勢の足音が部屋の中へと雪崩れ込んできたのは。




「・・・・・・もう、感ずかれたんだ」

「離れろ。お前等に逃げ道は無い」

「どうしてそんな事判るの?ココには武器が沢山あるのに?」

「武器を下ろせ」




入ってきた軍服の男達。

それぞれマシンガンを持っている。

と幸村に向けられた銃口。




「イヤ。私は政府を出る。私を縛るものは誰もいない」

「・・・・・っ・・・・・・」

「彼方は死ぬ。それだけの出血があれば、止めを刺さなくても」

「ココからどう出るつもりだ?観念して檻に戻れ」

「イヤ」




自分のマシンガンを構え、幸村の首輪を放り投げた

それと同時に幸村の腕を掴み、窓へと突進した。




がしゃん




窓を割って外に出た2人は、全力疾走。

勿論、向こうも打ってくるわけで、は幸村を守りながら銃を撃ち続けた。

滝から奪った防弾チョッキがあるとはいえ、右手が使えず、守る者もある。

幾度と無く銃弾はの肌をかすり、穴を開けていった。




「走って!!港まで早く!!!」

「でも君は!!」

「早く走って!!!」




幸村の背中を押し、いまだ勢いの衰えない銃弾達と向き合った

留まる事がないと思った銃弾が、急に飛んで来なくなった。

不審に思って少し木々を開けてみる。

そこに拡がっていたのは、信じることの塊。




「リョーマ!!」

「何グズグズしてんの!!」

「だっだって・・・・」

「俺らに生きろって言ったのに、死んだら怒るよ!!」




後ろに手榴弾を投げながら出てきたのは、忍足・リョーマ・ジローの3人。

手榴弾を投げ続けている忍足も、こちらに向かって走ってきていた。




ちゃん!!」

「芥川さん・・・・」

「逃げよう。そして生きよう?」

「はい」




駆け出した5人。

の服は紅く染まり、傷の痛みも尋常ではないだろう。

だが走った。どんなに足が痛くても走り続けた。

たった一つの希望目指して。






「どうですか?」

「まだ見えないよ。出発の準備は?」

「大丈夫だ」

「手塚、お前ホントに操縦できんのかよ」

「ああ」

「見えた!!」




港では、既に準備は整えられ、後は5人を待つのみ。

その5人が今、こちらに向かって走ってくる。

だが、左手から走ってくる人影も見える。

迷彩柄の服を着た団体。




「おい!!」

「私達で応戦するしかありませんね」

「これがある!!足止めくらいは・・・・」




菊丸が持ち出したのは縫いぐるみ。

それが何か判らない輩は唖然。

だが、迷彩服の群れに向かって投げたそれが爆発した瞬間に、

何がその中に入っていたのかを悟った。




「だしてくれ!!」

「手塚!!」




走り出した船。

もう誰も、彼等を追う事は不可能。

出来るのは、人を殺す冷たさを掲げ、

血で染められた土を踏み、

ただ呆然と、汚れた瞳で彼らを見据えることだけ。




ちゃん、大丈夫?」

「えっええ。なんとか・・・・・あちこち動きませんが」

「骨は折れてないみたいだね。菌も心配なさそうだよ」

「無茶するからや」

「どうして私は・・・・・あの人と一緒に死ななかったんですかね・・」




ばちんっ



「・・・・・え?」

「何言ってるの?僕らを生かしておいて、ちゃんはそのまま逃げる?」

「誰もそんな事望んでいませんよ」

「何の為にココまでやったと思ってんのさ」

「努力が水の泡になるんわゴメンやで」

「考えれば判るだろう」

ちゃんは俺たちの希望なんだよ!!」

「それぐらい、その良すぎる頭で考えろ」

「本当に救われたと思ったんだ」

「君が死ぬ事が罪の償いじゃないよ」




朱くなった頬。

周りを囲む、18の瞳。

私は、生きていてもいいのだろうか。

あんなに罪を犯したのに。

ただ、今は、初めてそう、生きたいと想った。




「ゴメンナサイ」

「違うよ、ちゃん?」

「・・・・・・・・アリガトウ」




初めて見せた笑顔。

輝くそれに救われた9人の命。

物語は始まったばかり。

そう、まだ始まったばかりなのだ。




覚醒者=脱走者壱拾名。