あれから1年の月日が流れた。

あの不幸なバスの転落事故から・・・・

どこの学校でも進級・入学・卒業。

時を止められた者にとっては、何の価値もないもの。



微笑む人達。

聞こえるテニスボールの弾む音。

真実を知らず、のうのうと生きている愚かな者達に、



復讐を・・・・。




「竜崎先生」

「どうした?」

「いえ、貴女に会いたいという人が・・・・」

「だれだい全く。忙しい時に」

「1年前の転落事故の事でって」

「もう、話す事はないって言っておくれ。思い出したくないんだ」

「はい」




青春学園中等部。

去年の事故で亡くなったレギュラー陣達を継いで、テニスをしている生徒。

職員室に座っていたのは、もちろん顧問の竜崎スミレ。

今しがた入ってきたのは部長の荒井だ。







「思い出したくない。話せる事は話したそうです」

「思い出したくないのは当然だろう」

「クスクスっ。そうだね」

「でも----怒るっすよ?」

「幕開けだって言ってたしね」




頭にターバンらしきもの巻いて、長ズボンに長袖。

しかもそれらが、ドロドロである。

そんな怪しい4人組。

いや、正確には5人組だが・・・。

こんのクソ暑い、炎天下の中でそんな格好をしていれば、自然と人目を引き付けるもので。




「帰ってもらえますか?部外者は立ち入り禁止ですし」

「乗り込む?」

「あまり面倒を起こすな。後々面倒になってくる」

「でも、それが一番手っ取り早いっすけど」

「手っ取り早くても、それはダメ」

「おっかえり!!向こうは上手く行ってた?」

「はい。で、まだ来てないんですか?」

「お引取り下さい!警察呼びますよ!!」




荒井の存在を無視して会話を進める4人。

その後ろからもう一人。そいつ等と同じ格好で、声からして女性だろうというヤツ。

怪しいにも程があるぞという感じの5人にとうとうキレタ荒井が叫んだ。




「はぁ。手荒な事したくなかったけど、これからするんだし、同じかな」

「んじゃあ・・・」

「弾を無駄にしないで下さいね?」

「叫ぶ・・・・とか?」

「メガホンなんてあったらいいんですけど・・・・」

「ココに用意してあるぞ」

「さっすが!オレ言ってもイイ??」

「どうぞ」




やたらはしゃいでいる1人が、メガホンに口を当て、スイッチをオンにした。




『ピンポンパンポ〜〜ン♪竜崎先生、竜崎先生、
昨年の優勝者がお待ちだよ?さっさと出てこないと、学校吹き飛ばしちゃうぞ』




勿論その声は拡大されているわけで。

職員室にも十分すぎるほどに響いている。

職員室では、真っ青な顔をした竜崎が、飛び出していくところだった。




「先輩・・・・」

「いいじゃん!!」

「来たっすよ」

「早いねぇ」




メガホンを荒井に手渡して、数秒と経たぬ内に、向こうから走ってくる人影。

見間違えようがない、ど派手なピンクのジャージ。




「お・・・前等・・・まさか」

「誰がします??」

「オレヤルっす」

「なんとか言ったらどうなんだい!!」




ぐさっ




「お察しの通り、僕らはココにいました」

「1年前のあの時までな」

「コートが広くなってるって事は、賭けに勝ったってことっすよね?」

「ちぇ〜。俺等はすんげぇ苦労して、やっとココまで来たのに」

「っく・・・・」

「うっうわぁぁぁぁぁぁ!!!人殺しぃぃぃぃ!!」




竜崎の胸に刺さった、アーミーナイフ。

そのナイフを伝って、紅い血液がポタポタと地面を濡らしてゆく。

それを見ながら笑っている5人組に、叫びだすのは至極当然。




「自業自得っす」

「な・・・・ぜ・・・どうやっ・・・て」

「私をなめないで頂けますか?武器の輸入リストを書き換えるなど容易い事です」

「死んでいった、狂って逝った人たちの仇」

「違うっすよ先輩。オレ達の復讐です」

「幕開けの合図。先生の首を手土産に、政府へ向かいます」




走ってきた先生達。

集まっている生徒。

5人組で一番背の高い奴がこちらに銃を向けている為に、1歩も動けないでいた。




「ふんっ・・・・出・・来るも・・のな・・・・らやっ・・・・てみろ」

「出来ると思うからやってるんですよ」

「そうそ、ちゃんの言うとおり」

「貴女には見ていてほしかったよ。僕らがどこまで行けるか」

。そろそろ行くぞ。向こうも終わったらしい」

「手塚部長?貸して頂けます?」

「弾は無駄にしないんじゃなかったのか?」

「知らせるんですよ。戦争の幕開けを」




荒井は、出てきた名前に驚嘆した。

?手塚?

1年前に死んだ筈。




「あ、そだ。荒井?俺らって、何で死んだ事になってんの?」

「菊丸先輩・・・そんなの聞いてどうするんすか」

「おちびは黙ってて」

「うぃーっす」




既に閉じなくなっている口。

菊丸、おちび。

間違いない。

この人たちは・・・・・・・亡霊。




「バスの・・・転落事故です・・・・」

「ほらぁ〜〜不二ぃぃ〜〜やっぱり俺が合ってたじゃん」

「判ったよ。帰ってからね」

「やりぃ♪」




ばんっ




そう言うと同時に放たれた、一発の銃弾。

それは、少し離れた氷帝学園にいる同志に告げる、終了、そして開始の合図。




「帰りましょうか」

「これ、このまま?」

「別にいいじゃない。首だけとってね?」

「オレがやんの?」

「リョーマがヤルって言ったんでしょ」

「言わなきゃよかった」




スタスタと、既に息のない竜崎に近寄り、アーミーナイフを抜き取った越前。

そのまま死体を横向けにすると、勢いよく振り下ろした。




「ひっ・・・・」

「どうすんのこれ」

「こうやって、血が出ないようにして、もって帰る」

がやってよ」

「はいはい。これからが本番。気を引き締めていかないと・・・・」

「そんな事、みんな判ってるよ」

「そうですね」




は、持ってきた紐で首を縛り上げた。

生首を持ち上げて、踵を返した5人。

唖然としていた人たちの中から聞こえる悲鳴と嘔吐。

くるりと振り向いたは、睨み返し、そして・・・




「もう直ぐ判るわ。その死体が何をしていたか。なぜ死んだのか」

「そして、今度はこの世界への生き残りの座をかけて戦うんだ」

「蔓延った害虫を駆除する為に・・・・」