遡ろう時を。
アソコから生きて出られた、あの時まで。
「大丈夫?」
「なんとか。すみません。ご迷惑を・・・」
「なぁに言ってんの?ちゃんのおかげで俺等、生きてんだよ?」
「その事で、皆さんに少しお話が」
戦場を出て、今は波一つ立たぬ海の上。
帆をたたみ、スクリューの力で動いている船は、行く宛てもなく進み続けていた。
甲板に出ているのは、青学メンバーと、忍足。
他のメンバーは、食料を探しに船内を探索中だ。
「ここでもいい??」
「はい」
「お〜い。結構あったぜ保存食」
「水分なども豊富に。これなら2週間ほどもつでしょう」
「有り難う御座います。これで全員ですよね?」
両手に缶詰やら、ミネラルウォーターを持って帰ってきた探索組。
それを一人一人に配分すると、円陣を組んだ。
「聞いた人もいると思いますが、もう一度聞きますね」
波の音しか聞こえぬ甲板に、の声が響く。
「これからは生きる事が厳しくなります。追手も来るでしょう。それでも彼方達は生きたいですか」
「野暮な事は聞かないで?」
「そんなん、答えは決まっとるわ」
『当たり前』
「そうですか・・・・それで、これからどうするかなんですが・・・」
「アイツラに復讐したいよ!!」
「思い知らせてやりたいね」
「・・・・・・・・・・っく」
いきなり笑い出した。
そんなに青学メンバーは唖然。
が笑った・・・・日常では有り得ぬ事。
「ごめんなさい。私はこれから、政府を潰しにかかります」
一通り笑い終えると、また真剣な顔付きになって、皆を見渡した。
唖然としていた青学メンバーも、伝わってくる緊張感に背筋を伸ばす。
「はっきり言って、死ぬ確率のほうが高い。
皆さんには他の場所で生きて欲しい・・・・と言いたい所ですが」
「ダメって言われてもついてくから」
「そやな。ちゃんだけに任せられんし」
「オレも!オレもちゃんと一緒に行く!!」
「降りたい人は降りて下さい。これから向かうのは無人島です。以前、BRが行われていた場所」
誰も降りようとはしなかった。
腐敗した日本政府を崩せなくても、自分達の想いをぶつけたい。
何のために。
自分のために。
ゲームだとかでなくて、そうただ、子供みたいに、悔しくて。
あんな奴等の良いようにされたのが。
「こっちです」
2時間ほど走り、ある島に上陸した9人。
自分達が戦って来たところとは違う筈なのに、
同じ所に戻ってきたような感覚。
それはきっと、過去に流された血達の叫びが聞こえてくるから。
森を抜けて、3時間くらい歩いただろうか。
見えて来たのは古びた建物。
どしゃっ
「いってぇ!!なんなん・・・・っ」
「4年前の残骸でしょう。多分死体の回収が行われてないから、そこら中にあると思います」
「狂ってますね・・・・」
「その狂ってる集団に、喧嘩を売りに行くんですよ?」
丸井が躓いたのは、頭蓋骨。
眼の辺りの骨は潰れ、頭の天辺に穴が開いていた。
それが示すのは、ココでも殺人ゲームが行われたと言う事。
「部長、見えますか?」
『ああ。その下に止めればいいんだな』
「お願いします。後でロープ下ろしますんで、もう少し待っていて下さい」
『判った』
トランシーバーで、未だ船を操縦している手塚と連絡を取り合った。
崩れかけたその建物に、ゆっくりと足を踏み入れた。
「ボロボロだにゃ・・・・・」
「ココが私たちの本拠地です」
「武器とかはどうすんだ?今のまんまじゃ到底無理だぜ?」
「当てがあります。判りませんか?こんな政府を悪く思っているのは私たちだけじゃない」
「歴代の、優勝者・・・・・」
「そうです。今も身を隠しているでしょう。皆さんより5,6歳年上の」
「そいつ等に手伝ってもらうんだな!!」
「その人達に賭けるしかないんですよ」
自嘲しながら、先を急ぐ。
もし、その人たちが協力してくれなければ、この復讐劇は呆気なく幕を閉じてしまう。
そんな事したくない。
もっとも、は独りでも政府に乗り込んでいく気なのだが。
それを言ってしまえば、こいつ等の性格上必ず着いて来るだろう。
「これ以上・・・・死なせたくない・・・」
「なんか言ったか?」
「いえ。とりあえず、寝食の場はココです」
いつの間にそんなに上ってきたのか、見晴らしのいい3階建て。
9人がいるのは、3階の開けた場所だった。
と言っても、3つくらいの部屋があったであろうところの壁が崩れているだけなのだが。
「私は屋上に行って来ます。その間に、この見取り図を見て置いて下さい」
そう言って、一枚の紙切れを広げたは、左手にある梯子を上って、屋上へと消えた。
その後、その見取り図を囲んで、話し合いが合ったとかなかったとか。
屋上に出て、見渡す限りの海を前に、
西の方角を向くと、すたすたと壁に向かって歩いた。
壁の真ん前で止まったは、その壁の窪みをそっと押す。
するとどうだろう。そこに壁はなく、下に通じる梯子が現れていた。
「部長、これを登って来て下さい」
「大丈夫なのか?」
「心配いりませんよ。それは長年、特殊部隊が使ってきた代物です」
不安げに見上げる手塚。
それもそうだ。本拠地から見えるのは、断崖絶壁。
尚且つ、4階もの高さを上って、そこから降ろしている梯子だ。
風に吹かれてゆらゆらと揺れるそれを伝って、
登って来いと言われても、素直に登れる奴はそういない。
「判りました。私が一旦降ります」
「なっ!!」
出来た穴を通り抜け、するすると降りてくる。
その途中途中で、何かを岩に引っ掛けている。
が船に降りて来た時には、梯子は完全に揺れなくなっていた。
「これなら昇れるでしょう」
「あっああ・・・・それにしても、慣れているな」
「通いなれた学校の様な物なので」
哀しげな笑みを浮かべる。
ココで受けてきた訓練の成果があらわれたという意味。
そしてそれは、にとって苦痛な過去以外の何ものでもない。
「すまない・・・」
「どうして謝るんですか?」
「嫌な過去を思い出させてしまって」
「その過去がなければ、皆さんを救うことは出来なかったんですよ?」
「・・・・・・そうだな」
揺れなくなった梯子を昇る事は、手塚の運動神経からして容易い。
あっという間に上まで昇った。
「今、下で見取り図を見せている所なんです」
「急いだ方が良さそうだな」