「戦力になるといいけれど・・・・」

「みんなの事?」

「そうよ。それでなくても人数が少ないのに」

「大丈夫よ」

「あら、どうしてそんな事が言えるの?」

「私が兄さんの妹だから」

・・・・・」




船の中で、舵を握り締めたの手が、汗ばんでいく。

後もう少し、後もう少しであそこに帰れる。

誰にも話していない真実を、全て自分で背負って。




「沙耶姉さん?どうしたの急に」

「なんでもないわ」




後ろから抱きすくめられた

人肌はこんなに温かかっただろうか。

あの人の肌は、いつも氷のように冷たかった。




「どちかが先に下りないとダメね」

「外から開ける方法もあるんだよ?」

「それは初耳だわ」

「ちょっと行って開けて来る」




隠しとびらの真下に船を付けたは、そのままスルスルと梯子を昇って行く。

やはりと言うか、素早いもので。

ほんの数秒で上まで昇りつき、右の方を探り、

目当ての場所を見つけると思いっきり蹴った。




ばんっ




扉は勢いよく開き、向こう側に当たると、

失速しないままの方へ戻ってきた。

それを片手で止め、中に入る。

目に映ったのは、思いっきり銃を構えた裕也の姿。




「ただいま」

「おっ驚かせるな!!」

「だって、これしかないんだもん」

「ココにいたのが俺じゃなかったら、銃ぶっ放してたぞ!!」

「裕也だと思ったからやったの」




一つ盛大な溜息をつくと滅多に見せない満面の笑みで笑った。




「おかえり」

「裕也!!なんなんだ今の音!!」

「紫董、煩い」

「あの籠持ってきてくれる?下で沙耶姉さんが待ってるの」

じゃねぇか!!なんだよぉ。表から帰ってくると思ってたのに」

「紫董、早く籠」




まだ納得できていない様子で、下に降りていく紫董。

そこからは早かった。

持って来た籠と一緒にも下に降り、

持って来た武器を次から次へと乗せていく。

上では紫董・裕也・丸井・手塚の4人が力の限り引っ張り上げ、

乗せられた武器その他もろもろを下ろしていた。




「これで最後ね」

『了解』

「私たちも上がりましょうか」

「うん」




船に乗っていた最後の食料と医療具を乗せ終わり、

上と連絡を取ると、梯子を昇り始めた。

も沙耶も籠より先に上についていて、

屋上に残っていた小物を持ち上げ、3階へと降りていった。




「これで、本格的に射撃訓練が出来る」

「あのね、とりあえず行動を起こすのは少なくても半年後。長ければ1年後ね」

「それ位の期間は居るだろうね。あっちにも油断させておかないとだし」

「今の私たちの能力では、到底叶わないと言う事ですか・・・・」

「まあ、妥当な長さだろうな」

「部長?練習の成果はどうですか?」

「思ったより体力を使う」

「でしょう?でも、とても腕を上げられましたね」




にっこりと微笑んだ

どこにも苦痛など見当たらなく、本当に微笑んでいるんだと判った。

武器庫と証する物置きに、銃やら医療具やら、食料やらを置く仕事が残っている。

いつもより少し豪華になった夕食を食べ終わると、15人が行ったり来たり。

山積みにされていた小物類も、2時間後にはスッキリ綺麗になっていた。




「なんだか、このまま平和でもイイと思えるくらいね」

「そうですね。僕たちも、それを望んでいるのかもしれない」

「かもじゃなくて、望んでんだろ?」

「ですが、このままにしておけば、また惨劇が幕を開けてしまいますから」

「えっと?幸村君に、丸井君に・・・・柳生君ね!!名前覚えるのも一苦労だわ」

「あだ討ちなのか復讐なのか、もう判んねぇよな」

「それでも私たちは闘わなければ」

「そう言えばは?さっきまで一緒に居たじゃん」




窓際に腰掛けて、外を眺めていた真帆の周りを囲んだ立海3人。

丸井の質問に、真帆はそっと指を上に向けた。




「独りになりたいんだって。時々あるのよね」

「もうすぐ聞こえてくる。の歌が」

「あら、沙耶。向こうで話してたんじゃなかったの?」

「同じ論題に飽きたのよ」




クスクスと言う微笑みの中で聞えてきた旋律。

透き通ったその声は、向かいではしゃいでいた男組を黙らせる。

柳生が聞いたことのある旋律とは、少し違ったメロディーが。





あの日初めて掴んだ鉛色

人の冷たさ感じて立ち尽くしていた

たった一握りそれだけ

もうヒトには還れない



僕たちの未来を手に入れるために

ココロの扉閉ざして行こう

拡がってゆく紅色

月夜の慟哭

鉛色の雨が降り注ぐ夜明け



置き去りにしてきたまだ彷徨う君を

送り届ける日夢見て佇む

去ってゆく昨日



握り締めてた空色の偽り

握り締めてる紅色の真実




止んだメロディー。

幸村の顔には驚嘆の色。

コンッコンッと鉄の音がして、が降りてきた。




「もっもしかして・・・・あの人は」

「あんな事で死ぬような人じゃありませんよ」

「あんな事って!!全身に銃弾を浴びたんだよ!!」

「心臓を貫かなければ、あの人は死にません。あの人は生きています」