は保健室により、医療品を盗った後、工具室へと歩を進めた。

この学校は、皆が出発した10分後に禁止区域となるはず。

もう既に5,6分は経過している。



工具室に来たが手にしたもの。

それは、ドライバー一式。

それを自らの首元に当てる。

10分経過を知らせる鐘が鳴った時、の首に、死を告げる首輪はなく。




「待ってて。必ず助けるから」




そう言い残したは、学校を後にした。






学校を少し離れた森の中。

気配を鎮めて動く人影、その右手には、鈍く光る鈍器。




「だれ?僕があそこを出た時からつけてるよね?」

「・・・・・不二。ゴメン。驚かせたくなかったんだ」

「タカさん。良かった誰かに会いたかっ・・・・・・えっ?」

「ゴメンよ?警戒しないと思ったからさ」




つけられていたのは25番、不二周助。

つけていたのは、22番、河村隆司。

ダブルスも組んでいた仲間だったから、

なんの警戒もせずに近付いて来たそれを受け入れたのが間違いだった。



ここでは日常は通用しない。

皆狂う。正気を失い、殺人鬼になってしまうのだから。

いや、それが正常なのか・・・・。




「タッカさん・・・・・どうっ・・・して」

「生きたい。それだけだよ。よく避けたね?流石、不二。でも・・・・」




不二の肩から流れる紅。

咄嗟に避けて、致命傷にはならなかったものの、溢れる紅は、止まらない。

白いポロシャツは、既に紅一色に染まっている。




「もう、動けないだろう?楽に死なせてあげるよ」

「タカさん!!っ・・・仲間・・・だったじゃない・・・なの・・に・・・」

「仲間?ココまで来てそれを言う不二が信じられないよ。ここじゃそれは通じない」

「っ・・・・!!」




友達が、仲間が、狂っていく。

もう、戻れない日常を夢見て、死んでいく。

ここはそういう場所だ。



河村が再び、自分の武器である出刃包丁を振り上げた時だった。

乾いた銃声が鳴り響いたのは。

直ぐに痛みが来るだろうと思っていた不二は、きつく閉ざした目をゆっくりと開いた。

そこに倒れていたのは・・・・。




「タカさん!!」




うつ伏せになって、紅い水溜りの中に顔を浸す、自分を襲った者。

先刻の銃声はなんだったのか、誰が打ったのか・・・

その時、直ぐ真横の草むらが掻き分けられ、そいつが姿を現した。




「っ・・・!!!」

「静かにして貰えませんか?
他の人に気付かれちゃ、こっちもまずいんで」




出てきたのは、

その手には、支給品であろうイングラムM11・ヘビーウェイトが握られている。

銃口からは、白い煙。

打ったのは、十中八九だろう。

出てきたは、叫ぼうとした不二の口を塞いで、後方に回った。




「まさか不二先輩が、まだ仲間だのなんだの言っているとは思いませんでしたよ」

「ん〜〜ん〜〜っ!!」

「肩、痛むんでしょう?直ぐに楽にしてさし上げますから」




ガシャンっ




「???!!!」

「ほら、楽にしてあげましたよ」




首に巻きついた爆弾をはずし終えたは、

ある箇所にドライバーを当てたまま、喋り続ける。

意味が分からないと言った風に、不二は開いた口が塞がらない様子。

その間にも、肩から流れる血は肩を這い、地面に小さな水溜りをつくってゆく。




「どっどうして??」

「どうしたもこうしたも、彼方はまだ生きてる。
まだ使える。私の指示通り動く人形になって頂きます」

ちゃん?本当にのったんじゃないよね??」

「私はのっていますよ?その証拠がソコにあるじゃないですか」




倒れている河村の方を顎でしゃくり、

銀の塊にあてがっていたドライバーを、そのまま下に突き刺した。




「手当てが必要ですね・・・大丈夫ですか?」

・・・・ちゃん?」

「私達の会話は筒抜けなんですよ。その首輪でね」




眼で示したソコに転がった銀色。

機能は全て壊されてしまったようで、もう、会話は聞かれていないのだろう。




「のって・・・ないんだね」

「あの時は、ああしないとダメだったので」

「そう・・・・」




河村の首輪も壊してから、不二の肩を治療してゆく

驚きを隠せないわりに、不二は状況を理解していた。

彼女の過去に何があったか知らないが、今のっていないのは事実。

不二にはそれだけで十分だったのだ。




「終りましたよ」

「ありがとう・・・・・で・・・」

「私は確かに、前回のコレで優勝しました。前々回、その前も、私は優勝しています」

「どっどうして・・・・」

「家族ですよ。人質にとられて、ずっとコマとして殺してきたんです。
名前も知らない、何の罪もない人達を」

「今回、殺す気がないのはどうして?」

「人質がこの世にいないからです」

「いない?」

「殺されていたんですよ。連れて行かれて直ぐ」

「まさかっ・・・」

「彼等にとって、私がコマであれば人質など不必要。私は、死人の為に人を殺めて来たんです」

「そっか」




ただ咄嗟に、肯定の言葉しか返せない自分を憎んだ。

あそこに居るのは、どちらにとっても気分のイイものではない。

河村の手から出刃包丁を奪い、

鞄の中から食料品を取り出したは、

不二を連れて、学校近くの空き地に移動した。



初めて自分を見てくれた存在が、

自分達だったと、は話した。

紅い血で染まっていく自分の手を切り落としてしまいたかったと。

それでも、自分が同じ学校にいる限り、

必ずアイツラはやってくる。

狂ってしまった自分に出来る事、

それは、ゲームの中で、自分達を助ける事。




「ココから生きて出られても、逃亡生活が続くと思います。
それでも、生きたいですか?」

「どうして、そんな事聞くの?」

「生きたくないなら、ココで殺してあげます」

「生きたいよ。ココから先、どんな生活が待っていても」

「そうですか・・・そう言えば、不二先輩の武器はなんだったんですか?」

「僕はコレ」




そう言って取り出されたのは、鍋の蓋。

何の役にも立たない、言わばハズレ武器だ。




「・・・・・・コレ、護身用に持っていて下さい」

「どうしても?」

「私も無敵じゃありません。
不二先輩を守りきれるという保障はどこにもないので」

「判った・・・・コレはどうするの?」

「貸して下さい」

「なにする・・!!」




鍋蓋を放り投げたは、鞄から取り出した銀の塊を再生させ、鍋蓋めがけて投げつけた。

爆発音と共に、粉々に砕け散ったソレ。

唖然としている不二の横で、またもがしゃべり出した。




「もうイイでしょう?首くらいは、河村先輩と並べておいてあげますよ」




片手には、のであろう、首輪。

赤いランプが点灯しているという事は、まだ生きているという事だ。

そう喋り終えたは、またもドライバーで、ある部分を押さえた。




「さ、コレで不二先輩は死んだ事になりました。危険が少しは少なくなるでしょう」

「・・・・・・・・・あっ・・・」




そこまで考えて行動していたに唖然。

まだゲームは始まったばかり。

のったヤツは、少なからずも居るという事。

そんな時、海が見える灯台で、また一つ命が消えようとしたいた。




永眠者弐名。

覚醒者壱名。