「君達にさ、ちょっと殺し合いをしてもらいたいんだ」
冷たい壁に囲まれた体育館。
そこに響いた、狂人の声。
ちょっと其処まで買い物してきて欲しいんだ。
そう言うように。
今、もう一つのゲームが幕開ける。
「なんの行動も起こしてこないじゃん」
「そんなすぐに起こしてくれる訳ないじゃないですか」
「それはそうだね」
「なんでっすか?」
「どれだけ穢れて腐っていても、日本政府には変わりないって事よ」
生首を贈り届けた日から早1週間。
のんびりとした生活。
射撃訓練で鳴り響く銃声も、今では楽しい会話に聞こえる。
「嵐の前の静けさというヤツだと思うよ」
「幸村さん。終わったんですか?」
「うん。結構簡単に出来たね」
「僕の監督があったから。って言って欲しいんだけどな?」
「翔平もお疲れサマ。何か飲む?」
3階の例の場所。
日が差し込むそこは、とてもアタタカクて。
コーヒーカップの中で揺れる琥珀色の液体が、反射する。
幸村と翔平が何をやっていたのか。
島中に埋め込んだ地雷につけていたチップ。
起爆操作をコチラのパソコンで出来てしまう優れもの。
それの微調整を行っていたのだ。
「ココまで来て不発でしたなんてないよね?」
「?僕をなめないでくれるかな?一応優勝経験あるんだよ」
「ゴメンごめん」
吹く風は爽やかに。
いらぬものまで連れてくる。
笑いあってた最中に降って来た声。
驚きと不安、歓喜に満ちたその声が告げた。
「お客のお出ましだ」
その声と同時に、部屋の中に残っていた鬼達が窓へと駆け寄る。
歴代の優勝者達は笑っていたが、そう出来ない者達もいた。
良く見知った姿。
少し前までは、共にラケットを握った仲間。
それが迷彩服に身を包み、鉄の塊を抱えてこちらに向かってくる。
沈黙が流れた。
だが、冷静に判断を下せるのが流石だろう。
未だに目を見開いている彼らとは違い、は背筋を伸ばし、声を発した。
「地雷の起爆装置をオフにして、明かりも全部消す。物音は絶対に立てないで」
その声に導かれて、ビクリと身体を震わせる。
そうだ。心に決めていた筈。
それがたとえどんな敵でも、倒していくと。
それからは素早かった。
常人離れした判断力と行動力。
鋭い30の眼差しが、上陸してくる緑の服を見詰めていた。
「どういうことだ」
「BR法って知らないの?君達はそれに選ばれたんだよ」
前に立つのは。
真っ白なTシャツと、黒いパンツ。
相反するその色が、やたらと浮きだって見える。
「あれはフィクションの筈だ!!」
「アキラ、煩いよ。青学・氷帝・立海のバス事故。あれがそうなんだろ」
「なっ!!!」
「頭のいい子は好きだよ?反論は認めない。
今から移動するから、とりあえずそれに着替えてくれる?」
指差した先には、碧の迷彩服。
だが、誰も動こうとしない。
動けないのだ。震える足、定まらない目線。
「逆らったら死ぬからね。首が飛んでもイイやつだけ残ってさっさと動いてくれない」
ビクリと跳ね上がった身体。
真っ先に立ち上がったのは、聖ルドルフ学院の観月はじめ。
そして、山吹の亜久津。
碧の服を掴み、外へと歩を進めた。
「・・・・・・・・・全く。あれ持ってきてくれる」
その他は動こうとしない。
特に不動峰のメンバーは断固として動こうとしなかった。
不安げに眼を泳がせながら行こうかどうか迷っている者もいる。
そんな時に発された命令。
生徒達を囲むように円を作っていた特殊部隊の一人が、ゆっくりと外へ出て戻ってきた。
その手の中には、大きな袋。
ゴトリッ
驚嘆の雰囲気が辺りを包む。
転がり出てきた氷帝の部長。
頭はぼこぼこに壊れ、前は鮮やかだった紅が、黒ずんでいる。
それを見た途端、全員が動いた。
そして現実を見たのだ。
何故?どうして?
答えの返ってこない問いなんて、無意味なだけだと。
総勢28人のコマ達は、外に用意されていた船に乗り、無言のまま海に出た。
無機質なスクリューの音と共に進む船。
暫くしてから、の声が船の中に響く。
「今から規則を説明するよ。聞いてなかった奴は知らないから」
下を向いていたみなの目線が、一気にに集中する。
誰かが泣いていたのだろう、どこかで嗚咽が聞こえていた。
そんなもの気にする様子もなく、の説明は始まる。
「殺し合いには変わりない。今回はペアでやってもらう。ペア決めは今するから」
「どうやってだ」
「質問は後にしてくれない?途中で遮られるの好きじゃないんだ」
勇気を振り絞って質問した橘に笑みで返す。
口元は楽しげに笑っているのに、目元は無理矢理作っているように見える。
まるで、早く死んでくれとでも言うように。
「食料と地図、武器が入ったディバックはコチラから配布するよ。
3日間で終わってもらう。それ以上経った場合には皆殺し。首が飛ぶから。
ペアの片割れが死ねば、片方も死ぬ。以上。何か質問は?」
ある筈がない。
出来る筈がない。窓の外から見える孤島。
断崖絶壁に聳え立つ建物。
あそこが戦場。
回ってきたくじ引きも、無意識にひいていて。
さあ、イス盗りゲームの始まり始まり。
1番 観月はじめ・千石清純 2番 喜多一馬・新渡米稲吉
3番 天根ヒカル・樹希彦 4番 伊武深司・神尾アキラ
5番 橘桔平・葵剣太郎 6番 不二祐太・石田鉄
7番 木更津亮・木更津淳 8番 内村京介・黒羽春風
9番 森辰徳・壇太一 10番 南健太郎・東方雅美
11番 柳沢慎也・野村拓也 12番 亜久津仁・佐伯虎次郎
13番 桜井雅也・室町十次 14番 赤澤吉郎・金田一郎
彷徨者弐拾八名。