それから30分。

達は待ち続けた。

むやみに動いても、首輪を外せないのなら意味が無いからだ。




さん・・・・大丈夫ですか?顔色が・・」

「私より、コマとして動かされてる人の方がよっぽど辛いですから」

「・・・・・そうですか」




だが、は昨日も一昨日も何も食べていないのだ。

は、なるべく多くの命を救いたかった。

たとえ自分の命が尽きようとも。

食べなくても平気。

救った人達が満腹になるならそれで。

そんな時、トランシーバーから翔平の声が響いた。




。聞こえる?』

「聞こえてるよ。紫董は?」

『紫董には片付けを頼んだんだ』

「・・・・・そっか。ゴメン」

は悪くないよ。で、蛇の事だけど』

「判ったの?」




2人が使っている『蛇』というのは首輪の事だ。

誰に聞かれてもいいように。




『BとCを陽極で繋げて、FとGを切る。
D1・D2の順番で抜いてB・Cの陰極を繋いでからAを押す。かなり複雑にやってくれてるよ』




トランシーバーから漏れる翔平の声。

頭の良い手塚や柳生でも、さっぱり理解出来ない。

だが、の頭の中では、首輪の回線が3D画像となって回転していた。




「一度上を剥がせと」

『そうなるね。しかも連結してるから』

「BとCを繋げた瞬間、カウントダウン開始か・・・・」

『沙耶か菊丸君を送ろうか?』

「いいよ。1人で充分」




折角救った命。

もう、失いたくない。




は無茶するから、ストッパー役お願いするよ』

「勿論ですよ」

「言われなくとも」

「じゃあ、紫董は・・」




ドガガガガっ




『今の音は・・・』

「私の昔馴染みだろうね」




武器はマシンガンだろう。

3人は顔を見合わせると、音のした方へと駆け出した。









「何なんだよコイツら!!」

「俺に聞かれても知らないよ」




例えばそれは、ゲームがつまらなかった時。

賭けていたコマが負けそうな時。

そいつらはやってきて、機械のようにコマを排除していくのだ。

今のターゲットは、つかえないと判った輩。



相手は10人で、しかもプロだ。

素人が何処まで逃げることが出来るのだろう。

伊武の頬を銃弾が掠めた。




「伏せて!!!」




体力もそろそろ限界に近付いた時に聞こえた叫び。

その叫びに身体が勝手に反応した。

転がるようにして床に突っ伏した瞬間。




バババババッ


パンっパンっ




病院の廊下という空間に反響する銃声と悲鳴。

瞳を開ければ広がっているであろう紅い世界。





聞きたくない。



見たくない。




だが、無情にもその音は、耳を塞いだ手を擦り抜けて、彼等の耳に刻まれてゆく。

時間にして数分後、銃声がやんだ。

ゆっくりと顔を上げれば、予想通りの紅い水溜りと、見知った3人。

手に持っている銃は別として。




さん!!」

「そのまましゃがんで動かないで下さい」

「なんでそんな・・」

「首が飛んでもいいんですか?」




すぐさま動かなくなった2人の後ろに周り、蓋を外す。

時間がなかった。

前までなかった内蔵カメラ。

あの人にも見えているのだろう今の状況。

に残された時間は、首輪の爆破装置を手動に切り替えてボタンを押すまで。

きっと3分もかからない。



中の回線を物凄い早さで操作していく

手塚と柳生は安心しきって見ていたが、は生きている心地がしなかった。

彼女が背負うにはあまりにも重すぎる、人の命。




「はずれた・・・・」

「深司、俺達助かったんだ!」

「良かっ・・」

!」 「さん!」




カシャンという音と共に崩れ落ちた

すんでの所で2人に支えられたが。




「すみません・・・・・」

「大丈夫ですか?」

「はい。御2人は・・」

「大丈夫じゃないだろう!」

「ぶちょ・・」

「人を救うのに自分の命を投げ出してどうする!!」

「手塚君、とりあえず戻りましょう」




理性を押さえられなくなった手塚を柳生が止める。

助けられたのに、何もしてやれない。

自分の無力さに腹が立つ。

ポカンと立っている神尾と伊武に、とりあえず着いて来るように言って、

壁にもたれて弾を入れて変えていたの所へと赴いた手塚。




、戻るぞ」

「御2人だけで戻って下さい。援護は2人で十分でしょう」

「何の為に残るんだ」

「死人が増えますよ?」

「っ!!だったらお前が戻れ。俺が残る!」




また少し、怒りをあらわにした手塚。

ずっと下を向いてイングラムM11を撫でていたが、ゆっくりと顔を上げた。




「!!!」

「あまりココを嘗めないで下さいね。私が何年この世界にいると思ってるんですか?」

・・・・」

「たかが1年弱ココに関わっただけで、全てを知った気にならないで下さい」




冷たい目線。

引き金を引く時の眼。

受け入れて、突き放して。

手塚も、近くにいた3人も、の気に押されて動けなかった。

流れる沈黙。

は何も言わず、振り返りもせずにその場を後にした。




「・・・・戻りましょう」

「ああ」

さんは帰ってきます。必ず」

「ああ」




助けられた2人は何も言わなかった。言えなかった。

きっと自分達が入ってはいけない話。

青学テニス部のマネージャーである彼女しか、ライバルである彼等しか知らないから。

今、眼の前で銃を握っているその姿は、始めて会った人の様。

時は止まらない。

過去には還れない。




解放者六名。

内、永眠者泗名。