はただがむしゃらに走っていた。

あの場所から逃げるために。

自分の中に住んでいる鬼に恐れて。

暴走すれば、仲間にまで平気で銃を上げるだろうその鬼に。




「・・・っはあ・・はあ」




大分前に体力など使い果たした。

何故か足は止まらずに、あの海岸を目指している。

受け止めたくなかったのだ。

自分はあの中でやって行けると信じていたかった。

だが、現実とはそう上手くは行かないもの。

無情にも、は違うのだと認識せざるをえない状態が続いている。



異様に早く回る頭。

狙いを外さぬ腕。

遥か先すら見えてしまう瞳。

いつまでも走り続けられる脚。

殺しを許してしまう心と、死を受け入れてしまう身体。

何もかもが、だけを別の世界へと追い立てていた。








その頃の海岸。




「大丈夫か?」

「悪い・・・・・これじゃ足手纏いだな」

「気にするなよ。俺を庇ってくれたんだろ?」




狙い撃ちにされてもおかしくないこのだだっ広い海岸に座り込み、

脚の治療をしているのは、不二祐太。

脇に置かれた救急箱。

きっと、どこからかくすねて来たのだろう。




「生きて帰れると思うか?」

「・・・・・どうかな」




戦場で、たった一つ光り輝いている希望。

それにすがりつきたいというキモチ。

相方になった不動峰の石田鉄。

痛いほど判るその気持ちに、言葉を濁すしかなかった。




「向こう側に行こう。ここじゃ標的にな・・」




ぱんっ  ぱんっ




足に包帯を巻き終えて、ゆっくりと立ち上がろうとした時だった。

幸いにも掠めはしなかったが、何処からか響いてくる銃声。

明らかに自分たちを狙っているのであろうそれに、2人も銃を構えた。




「だっだれだ!!」

「出て来いよ!!!」




シンッと静まり返った海岸。

痛い沈黙が、彼等を襲う。

何処に?誰が?

何もわからぬ恐怖と戦いながら、銃を持つ手は震えていた。




「ぐっうあぁぁ!!!!」

「「!!!!」」




何処からか聞こえてきた悲鳴。

いや、呻き。

2人はゆっくりと視線を合わせた。




「こんな所で何やってるの!!」

「??誰だアンタ」

「そんなことどうでもいいのよ!!標的にされる事くらい判っ・・」




バババババババっ




「っ!!!」

「おい!!」




響いたのは先ほどの銃声とは打って変わって、マシンガン。

しかも標的は今しがた出てきた少女だ。

身のこなしの軽さと、銃の腕の凄さ。

一つ一つ、敵の命を消していく。




「私のお兄様は雑魚を集めるのがお好きなようで??」

「黙れNO,002。貴様を殺す日を夢見てきたぞ」

「あら長官。お久しぶりですね」




一体何の話をしているのか。

周りには、少なくても10はあるだろう死体が転がっていた。

物陰から出てきた迷彩服の男を、長官と呼ぶ少女。

丁度その時、呆然と見詰めていた2人の首から、機械音が鳴り響いた。




「なっ!!!!」

「なんなんだよ!!」

「俺ら何もしてねぇのに!!」

「見てみろ。お前に人は救えない」

「狂ってる・・・・皆狂ってる!!!」

「オレにはお前が一番狂ってるように見えるがな」




電子音が響きだしてから、3秒。

は2人の下へと駆け寄り、肘鉄と、銃の先でみぞおちを想いっきり突いた。

気を失った二人が倒れこむ。

は首輪のカバーを半ば無理矢理剥ぎ取り、震える手で作業しだした。




「ふふははは!!馬鹿め。自分の命を投げ出すか!!」




長官と呼ばれた男は、銃を構え、一発一発打ってくる。

長官と呼ばれるほどの存在だ。

腕は確かなようで、一発一発確実にの背中へと当たっていく。

防弾チョッキを着ているとはいえ、ダメージがない訳ではない。

止めを刺さないのはきっと、彼が狂ってしまっているから。




「終わりだ。NO,002。もう少し楽しませてくれると思っていたぞ?」




首輪が落ちるのと、男がの真ん前に立つのは同時だった。

既に何発もの銃を背中に受けているは、かなりのダメージを受けている。

多分骨の一本や二本折れているだろう。

銃声が響いたのは、その時だった。




パアンっ




「おっしたりさん?」

「当たらんかったらどないしよか思たで」

「はは・・・・しっかり当たってましたけどね」

「大丈夫かいな」




咄嗟に穴の開いた服の背中を後ろに隠して、は出てきた忍足と対峙した。

転がっている2人の身体をいとも簡単に持ち上げて、忍足はを促した。

ここでもし、忍足がの傷に気付いていたら、

あんなことにはならなかったのに。

だがそれは、もう遅いのだ。

後悔は、しても無駄なもの。

時間の無駄なのだ。




解放者壱拾名。

内、永眠者泗名。