目の前を通りすぎようとした2人の頭を貫いた銃弾。
今の今まで追い掛けられていた2人は唖然。
草影から出て来た少女にまた唖然。
「ちゃん・・・・どうしてこんな所に・・・・」
「説明は後でしますから、とりあえずそのまま動かないで下さい」
「あ゛?んで俺が・・」
「お願いします」
例えばそこが、血の海になっていたとしても、
自分にかせられた義務を果たす為なら。
佐伯も亜久津も、に好意を寄せていた。
だから悪態を付きながらも言う事を聞いたのだ。
だが、もし、彼が既に狂っていたなら。
もう、遅すぎたのだとしたら・・・・・
「さあ、これでお2人は自由の・・」
「!避けて!!」
「えっ・・」
パアンッ
「ちゃん!!亜久津、お前・・・」
「・・・・・わりぃな」
亜久津は走り出した。
優勝者達も動けなかったのだ。
無理矢理つくった不適な笑みが、掠れて消えそうなその声が、放れない。
「馬鹿!心配したのよ!沙耶も凄い取り乱して・・」
「真帆・・・・の様子がおかしいぞ」
「見せて。すっすごい熱!、防弾チョッキとるわよ」
てきぱきとTシャツを脱がしてゆく。
いつもは抵抗するも、先程から微動だにしない。
目も虚ろになり、息は荒くなっていく一方だった。
こんな状態で走っていたのだ。は。
「ひどっ・・・・」
「皆殺しにしてやる」
6人が目の当たりにしたのは、紫色に染まった形の良かった背中。
先程受けた銃弾が、肩をえぐり取っている。
血は止まらず、溢れるがまま。
彼等、彼女等は、必ず即死の状態をつくってきた。
罪のない、クラスメイト。
顔も知らない、人。
せめて、苦しむ事なくと。
「狂ってるのは、あいつらだよ」
「翔平、戻して?ココじゃ、ろくな事出来ない・・・から」
とりあえず肩の応急処置を済ませ、紫董がを抱きかかえる。
涙は枯れてしまった筈なのに、瞳からは水が溢れた。
どうして?この子がこんな。
もう、ヤメテ。
ゆっくりと歩き出そうとした時だった。
「しょ・・・へ・・・・さえきさんを・・・・つれてっ・・・て」
「。だけど・・」
「ゆ・・や?ごっえ・・・ 」
「行くぞ翔平。真帆、お前も来い。あいつらに説明してやる役だ」
「そうね。沙耶、紫董。をよろしく」
「君も着いて来て」
佐伯の腕を引っ張って、元来た道を戻る。
本当は残っていたかった。
だが、ここで組織図を壊してしまえば、今までの苦労が水の泡になる。
同じ修羅場をくぐり抜けて来た彼等だから、痛いほど判ってしまうのだ。
復讐したいという気持ちが。
今、がそれを望むなら、叶えるよ。
どんな事をしても。
「、アソコでいいわね?」
「・・・・・」
「俺達も行くぞ。同じ箇所に留まっているのは・・・」
「そうね」
弱々しく頷いたを合図に、2人は元来た道と逆の方向に消えていった。
3人がやって来たのは、あの船の中。
一応アーミーが使っていた船だから、大体の設備が整っているのだ。
明かりを付け、持って来た毛布をベッドの上にひいてを横たえると、
紫董は外の見張りに、沙耶は薬を取り出し、治療を始めた。
「さ・・・や姉・・・・ゴメっ・・・」
「馬鹿。私がやりたくてやってるのよ」
搾り出された声は、きっと普通は聞こえない。
ただ微笑んであげることしか出来ないけれど、それで貴女が救われるなら。
それが一時の凌ぎでも、君の笑顔が見れるなら。
「もう一度・・・・言ってもらえますか?」
「一回で聞いて欲しいわね」
「真帆、船のチャーター完了したよ」
「ありがとう」
「真帆さん!!」
「おりなさい。この舞台から」
「訳も判らずに、それじゃあ。なんて言えないよ!」
「説明して欲しいっす」
立ち上がっている9人。
反論せずに俯いている2人を加えるなら、だが。
それに投げ掛けられるのは、軽蔑の瞳。
顔を見合わせた3人が盛大な溜息をついた時だった。
「これくらいの気配を感じ取れないからよ」
「沙耶さん」
階段の所に立っていた沙耶。
今の今まで気付かなかった。
「さんはどうしたんです?」
「答える必要はないわ」
「沙耶、結論が出たのね?」
「そうでなければ私がいる筈ないでしょう。の変わりに伝えるわ。今すぐココを・・」
「出ていかなくて良いですよ」
「「「「!!」」」」
「どうして・・・・・あの薬は・・・・」
「ゴメンね。沙耶姉」
あの船で、沙耶が最後に飲ませた筈の薬は、強力な睡眠薬だった。
沙耶は飲んだと思っていたが、は飲まなかったのだ。
その証拠に、沙耶の後ろから現れた。人のヌクモリを知った今だからこそ判る。
沙耶の真帆の、翔平の紫董の裕也のしようとしている行動が。
「私がこうなったのは、皆の所為じゃない」
「でも!!」
「沙耶姉の言葉を借りるなら、私がやりたくてやってるの」
シンと静まりかえった基地。
まさかが、そんな言葉を発するなんて。
しかもとびっきりの笑顔つきで。
そしては、突然シャツを脱いで振り返った。
「なっんや・・・・これ」
「名誉の負傷ですよ。3人の命を救えたなら軽いものでしょう」
「大丈夫なのか?」
「いいえ。右手が上がりませんし、ゆっくり歩くのでいっぱいいっぱいです」
「僕を助けた時に・・・・・」
「どれだけ嘆いても過去には戻れませんから、タイムリミットまで3日。働いてもらいますよ?」
彼女は変わった。
変われていなかったのは、勝ちに執着しすぎた僕達。
人の命を奪う重みを知っているから、これからは手足となって動くよ。
君の願いは、僕等の願い。
解放者壱拾弐名。
内、永眠者六名。
内、狂者壱名。