「生きたいなら殺しなさい」
「でっでも!!」
「貴方達だって命は惜しいでしょう?」
「・・・っ!」
「そうですね。ペア番号10番なら近くにいますよ」
「なっ!!10番は!!!」
「殺せないなら、貴方達が死にます。良いんですか?」
それは、この世界では当たり前で、それに屈する者は多い。
いや、もう既に、精神力など皆無なのかもしれないが。
ペア番号2番の喜多と新渡米は、震える手の中に銃を収め、
同じ区域にいるターゲットを目指した。
己が生きるために。
昔仲間と呼ばれた者を手にかける。
「のっている者は少なからずいるでしょう。
放送がないところを見ると、禁止区域がないという事」
「とりあえず、武器が1つ減るわね」
「皆さんの知りうる限りで、のっていそうな人って判ります?」
「・・・・・・・観月はのってると思うよ」
「相方が千石だぞ?」
「だからこそだよ」
不二の言った答えはすんなりと心に落ちる。
千石だからこそ。
だからこそ、強大な力になり得る。
こんな所で未来を諦めるような2人じゃない。
「ペア番号1番ですね。他には?」
「判りませんね」
「いえ、結構です。ここに入れば、誰だって狂ってしまいますから」
「、これからどうする気?」
の指示で、円になった反政府軍。
橘のカバンから抜き取ったペア表に、あの時と同じく罰印を入れていく。
今回に至っては、お互い銃を向け合う可能性が高い。
脅されたり、この状況下どうしようもなくのっているとしたら、
こちら側に引き込む事が出来るかもしれないからだ。
「5人さん、大丈夫ですか?」
「とりあえず、戦えってことだよな!」
「戦えるなら構いませんが、銃も撃てないようなら、今すぐ別の島へ行って頂きますよ」
「俺達だってムカついてるんだけど」
「馬鹿な子が多いわね」
「なっ!!」
冷たく投げかけられた視線。
この世界を少なからずも知ってしまった者達にとっては、
銃の撃てない輩は・・・・・使えない。
「邪魔なんですよ」
「橘さんの復讐をするって誓ったんだ!!」
「その動機自体がおかしい。復讐というのは、所詮誰かの為どまり」
「どういう事だよ!」
「自らの憎悪をぶつけるより、はるかに弱い力だって言ってるんです」
「・・・・・・・・打てる。オレ」
「祐太の腕はボクが保障するよ」
「使えるか否かは私が決めます。今ここで打ってもらってもイイですか?」
「俺らの話が終わってないだろ!!」
「邪魔なんですよ。重荷。不必要。
ココにいられたら迷惑。ココまで言っても判りませんか?」
判ってたんだ最初から。
ココにいられない事。
自分たちとは、違う世界に生きる人々。
以前とは違うその表情も、体つきも。
「裕也、この4人をあそこまで送ってやって。ヘリ使っていいから」
「判った」
「おい!!」
「不動峰組は使えない。佐伯さん、貴方も・・・・・打てないでしょう?」
「うん。悪いけど、あれを目の当たりにしちゃ・・・・」
「構いませんよ。それが普通の感覚です」
悔し涙を流す、伊武、神尾、石田の3人。
だがそれも、彼らにとっちゃなんでもないこと。
悔し涙を流すくらいなら、どこかで引き金を引けばよかった。
何をしようと、無力な事には変わりないのだから。
だから少しでも、醜くても、もがけば良かった。
あの、光の見えない檻の中で。
「それじゃあ不二さん、打って貰えます?」
「判った」
「そうですね・・・・・あの練習用の的でいいでしょう」
鞄の中からS&W500マグナム・カスタムを取り出すと、
的に狙いを定めた祐太。
乾いた銃声と共に飛び出した銃弾は、的の丁度真ん中を貫いた。
コレにはも驚嘆するほかない。
「凄いですね・・・・これからよろしく」
「ああ・・・・でさ、あんたと俺同い年だろ?
兄貴とも紛らわしい、下の名前でいいし、敬語もいらねぇ」
「クスッ・・・・判った」
「なっなんで笑うんだよ!!」
「別に深い意味はないから」
一瞬、緊迫した空気が解けたように思えた。
だが、そこに響いた翔平の声が、あまりにも様変わりしていたから。
またも一瞬にして空気が張り詰める。
「」
「どうしたの翔平」
「おかしい」
「何が?」
「コレ見て」
そう言って差し出してきたのは、探知機。
勿論、今のBR用に作り変えたもの。
そこに見えているのは、1箇所に集まった5つの点。
「どうして?ペア制なら偶数の筈・・・・・まさか!」
「そのまさかだと思うよ。ココにアイツがいるんだ」
「なにをする気なの・・・・あの人は」
「判らない。だけど、向こうも戦力不足なのは確かだからね」
「それなら好都合。菊丸先輩、忍足さん、丸井さん、外で1人でも多くの人を救って下さい」
「判った」
「射撃なら任せときや」
「押さえるのは俺の役目だろ」
「菊丸先輩、もし不安なら、ココに連れて帰ってきて下さい」
「だいじょうぶい!!強がりじゃなくてさ、ホントに」
「そうえですか。頼もしい言葉です(あの人がココまで爆破を遅らせるとは思えないし・・・・)」
じっとしていたって始まらない。
ヘリの音を聞きながら、鬼達は1歩を踏み出していた。
が走り回れないという、最悪の事態だけれど、
だからこそ、今までやってきた甲斐があるというもの。
にだけ頼ってなどいられない。
コレは自分たちの復讐だから。
「喜多も新渡米もどうしたんだよ!!」
「顔青ざめてる」
「殺らなきゃ・・・死ぬんだ」
「ゴメン・・・・」
「おい!!」
「なんで・・・なんで俺たちが・・・・・」
「ゴメン!ゴメン!!!」
パアンッ
「東方!!」
「無駄だよ。死んでるよ」
「喜多!何で泣くんだよ!!泣くくらいなら何で打つんだよ!!」
「ばっば・・んじいが・・・・殺したら、生かしてくれるって・・・・」
「くっそ!!!卑怯者ぉ!!!!」
既にカウントダウンを始めた首輪。
少しづつ、少しづつ、点滅の速度が増していく。
涙がとどまる事はなく、手に持った銃にも、土にも、流れ落ちていく雫。
殺したくなかった?
本当にそうなのか・・・・。
どちらにしても、最後に、選択したのは彼等だ。
「・・・・・絶対生きろよ」
ドッカァン
最後に微笑んだ南の顔は、吹っ飛んだ。
ごろりと転がってきた生首に、嘔吐する2人。
物陰で見ていた腐った大人。
にやりと笑ったその顔は、もう、以前の彼ではなかった。
「よく頑張りましたね」
「うっっぇ・・」
「南・・・ゴメン・・・・ゴメンっ」
「さて、こっちです。着いて来て下さい」
かしゃんっと音を立てて、さも普通であるかのように転がり落ちた首輪。
それにさえも気付かぬくらいの悲しみが、2人を襲っていた。
ああ・・・・・もう、戻れないんだ。と。
解放者壱拾六名。
内、永眠者八名。
内、狂者参名。
内、逃亡者泗名。