「っ!!てっめぇ・・・」
「わりぃな。俺もこんなトコで死にたかねぇんだ」
「くそっ・・・」
「じゃあな」
響き渡る銃声。
物陰から見える、狂った友達。
友達?
声が出ない。息が詰まって、震える身体。
カバンを弄るそいつを凝視しながら、
嘔吐を堪え、必死に足を動かして、その場を離れた。
「ブーメランかよ。使えねぇ」
「・・・・っぐ・・・」
「なんだ、まだ死んでなかったのか」
心臓に当たったと思っていたが、少し急所から外れたらしい。
ボーガンの矢を、そこから抜き取り、何度か付く。
人の身体とは、何とか弱い物だろう。
グチョグチョと言う音が、灯台の小さな部屋を支配していた。
「はぁ・・はぁ・・・・っうえっ・・・・」
灯台から少し離れた場所。
と不二が隠れている木からそう遠くない所で、
息を切らした人影が嘔吐していた。
先程の現場を目撃してしまった、23番・菊丸英二。
滴る紅。
ソレと共に飛び散った肉片は、
はたして人であったと言っていいモノなのだろうか。
震える足を何とか動かして、ココまで来たはイイものの、
いつアイツがやって来るか判らない。
とにかく逃げなければ。
ココからなるべく遠くへ・・・・。
「こんな所があったんだね」
「いい隠れ家でしょう。前々回で見つけたんですよ」
「ちゃんは、これからどうするの」
「とりあえず、助けられる人は助けたいです。でも・・・・」
「のってる人は容赦なく殺す?」
「そうですね」
河村の死体を離れ、
が前々回見つけたという、木にやってきた2人。
そこには、大きな窪みがあり、中もかなりの広さ。
人なら5人程度入っても大丈夫そうなものだった。
「とりあえず、ココを拠点に・・」
「どうした・・っ!!」
今までの瞳と違う、厳しい目つきで辺りを見渡す。
静かに、と口だけ動かして言うと、
不二の口を押さえていた手を離し、音のした方へと静かに移動した。
には聞こえた物音だが、
それが聞こえていない不二にとっては状況が飲み込めない。
ゆっくりと歩を進め・・・・そして・・・・。
「・・・ん〜〜〜ん〜〜〜!!!」
「私の後をつけるなんて、イイ度胸ですね。褒めてあげますよ」
木の陰に隠れていた菊丸を押し倒し、口元を塞いだ。
声色を変えて菊丸に話しながら、顎で自分のカバンを指す。
“ドライーバーを出して”と。
「っち・・・・」
不二がドライバーを放り投げようとした瞬間、
は菊丸のほうに向かって、発砲した。
必死で逃げようとしていた菊丸の身体が、静止する。
それと同時に、何かが割れたような音が、前方で響いた。
「不二先輩のように、首を吹っ飛ばしてあげますよ」
「・・・・・・・・・・・っ!!」
「せめてもの情けです。今までどうも有り難う御座いました」
ガシャンっ
「にゃっにゃに・・」
「伏せて下さい!!」
ドカンっ
「うわっ!!」
「っく・・・」
はずされた首輪。
それを遠くに放り投げたと同時にする爆音。
あれがココで爆発していたら・・・・。
間違いなく、首から血が吹き出ていただろう。
それはまるで、1つの芸術作品のように。
爆風がおさまるのを待って、
菊丸に覆い被さっていたがようやく動いた。
「2人目・・・・・」
「英二!!大丈夫!!」
「ふっ不二??オレ、どうして・・・何が・・・」
混乱する菊丸を、一先ず木の所まで誘導し、穴の中に押し込んだ不二。
は直ぐに菊丸のカバンを拾い上げ、その後に続いた。
「菊丸先輩?とりあえず、落ち着いて下さいね」
「ちゃん!!良かった・・・やっぱりのってなかったんだ」
「もう少し、声を落として下さい」
「あっ、ごっゴメン・・・」
「いいえ。それで、なにを見・・」
『楽しく殺し合いしている?第1回目の放送だよ。
聞き逃しても再放送はしないから注意してね?』
明るく響いた放送。
死者と、禁止区域を告げる1日2回の放送。
やたら明るいその声が、ココが現実なのだと、再度確認させてくれる。
『とりあえず、死んじゃった人だけど、
9番・向日岳人クン。11番・真田弦一郎クン。
20番・大石秀一郎クン。21番・海堂薫クン。
22番・河村隆司クン。23番・菊丸英二クン。25番・不二周助クン』
木の洞の中で、名簿に斜線と、丸印をつけていく。
勿論、明かりはつけている。
支給されていた蝋燭とマッチで・・・。
5人中3人が青学だったというコトに驚嘆している2人を差し置いて、
放送はどんどん進められていく。
事情を知らされていない菊丸は、
自分の名前が入っていた事で、開いた口が塞がらなくなっていた。
『6時間で7人なんて、結構殺るね!これからも期待してるわ!!
禁止区域だけど、1時間後にC-1。2時間後にD-2よ。
間違えると首が飛んじゃうから』
そんな、退屈な死に方はしないでね?という余計な一言で、
第1回目の放送は終了した。
シンッと静まりかえる穴の中で、
が筆記用具を走らせる音が、やけに耳を付く。
唖然としている菊丸と不二に水を差し出して、
話が出来る状態にした。
「まず、今の放送を聴いてお判りになったと思いますが、
お2人は死んだ事になっています」
「うん。あの首輪が爆発したからだね?」
「そうです。あれは、首についている筈のモノ。それが爆発したんですから」
「他の人たちもそうにゃの?」
「いいえ。そこら中に設置してあるビデオカメラで確認したんでしょう」
「ビデオカメラ?」
「私がさっき壊したんですが。至る所にありますよ。ココに来るまでも何個か壊しました」
そう言えば、何度か発砲していたような気がする。と、不二。
不二にしたのと同じ説明を菊丸にして、先程までなにやら書き込んでいた地図を広げた。
「今、禁止区域になろうとしているのがココとココ。私達がいるのがココです」
学校と、その周囲の二つの区域を指してが言う。
禁止区域の放送が耳に入っていなかった2人は、冷静に聞いていてくれたに感謝した。
「斜線が死んだ人で、丸が救出した人です。菊丸先輩?何を見たか、話せますか?」
「オレ、灯台に行ったんだ。そしたら、桃と海堂がいて・・・それで・・・・」
「桃城先輩が、海堂先輩を殺したんですね?」
また嘔吐しそうになった菊丸に水を飲ませて、名簿の桃城武の横に、バツを書いた。
そして、少し間を空けてから、自分の所にもバツをつけた。
「これは?」
「のっている人です。万が一落として、誰かに拾われた時に、怪しまれないでしょう」
「オレさ・・・武器持ってないんだ。コレだったから」
「「ぬいぐるみ??」」
「大五郎に似てたから、捨てらんなくて・・・・」
「いえ、捨てなくて正解ですよ。のっている人が見つけたら、悪用しますから」
「でもこんな物、何に使うの?僕の鍋蓋もそうだったけど」
「私なら、自分の本当の武器を隠して、コレが自分のだと偽りますね」
「あっ・・・・」
「武器がぬいぐるみや鍋蓋なら、相手も警戒しないでしょうから」
最初にそれが当たった人はハズレですが、
2番目にあたった人には、使いようによっちゃ、大当たりです。
政府の方々も、そういう人間の醜さが見たい為に、こういう武器を入れてるんですから。
ただ殺し合いを楽しみたいだけなら、全部銃にすればイイんですよ。
と、が語る。
壊れてしまった人達の物語。
「私はとりあえず、その辺りを見てきます。ココにいて下さい。決して動かないで」
そう言って、イングラムM11・ヘビーウェイトとぬいぐるみを掴むと、
は穴から飛び出した。
残されたのは、2人のコマと、支給された重荷と、一本の出刃包丁。
永眠者七名。
覚醒者弐名。