なんて、なんて私は無力なんだろう。
走って助けに行く事も出来ず、ただ指示を出すだけで。
こうしている筈もない神に祈ることしか出来ないなんて。
どうして走れないの?
どうしてこの腕は動かないの!
守られるなんて・・・・・・イヤだ。
盗聴器から聞こえてきた聞き違う筈もない実の兄の声。
昔は恐怖で固まっていたそれ。
今は違う。
迅速に指示を出し、的確な位置へと歩を進めさせる。
あいつがいるという事が、何を意味するのか。
どれだけの戦力がこちらに向かってきているのか。
予想するのは至極簡単な事だった。
「お願い・・・・間に合って」
反逆者たちはの指示に、優勝者達の行動に従った。
それが一番の得策。
安全かつ、最も早い行動。
なんとしても、戦力を減らすわけにはいかないから。
後10秒もすれば、に一番近い地雷を爆破させる。
これは翔平の指示。
正気に戻ってくれる事を願って、はカウンターに目を戻した。
「応える気がないなら引き釣り出すけど、声が出ない?」
動けない。これはこんなに緊迫感の有るものだったろうか。
まるでそう、死神に審判を下されているような。
自分たちはこれから地獄に落ちるのだと、今にも口を吐いて出てきそうな。
そんな禍々しい緊張。
「しょうがないな。ま、どっちにしたって殺すのは変わらないから」
は後ろを振り向いた。
それに変わり、そこにいた千石と観月が銃を草むらに向ける。
目線を外されたのに、全くと言っていいほど固まった空気はほぐれない。
「仲間にはできないからねぇ」
「仕方のないことですよ。さんの良さを判っていない貴方たちが悪いんです」
銃を構え、引き金に手を添え、そして。
どかんっ
地面が飛んだ。
が起爆スイッチを押したのだ。
それと同時に3人の腕は掴まれ、草むらの中へ連れ込まれる。
そのまま人影は姿を消した。
濛々と立ち上る煙の中、は鼠を目で追っていた。
だが、途中でその気配すら消えてしまう。
そっくりの消し方で。
「さん!お怪我は!!」
「・・・・・・・・・して」
「はい?」
「なんでなんだよ!ボクよりあいつ等の方がイイって言うの!!」
「さん?」
「許さない。許さないよ。ボクよりあいつ等を選んだ事、後悔させてそして・・・・」
ニッタリと口元が緩む。
好んでこちら側に来た者たちでさえ、身震いを覚えた。
そんな微笑み。
が歩き出したのと同時に、政府側の人間は、全てその歩に従った。
「はい。ご帰還」
「菊丸先輩!忍足さん、丸井さんも、大丈夫ですか!!」
「「「・・・・・・・・・」」」
「、無理だ。あいつと目が合っちまってたからな」
「そう・・・・。あそこで休ませて。手塚部長、沙耶姉さん、ジロ先輩。お願いします」
「「「了解」」」
「紫董、裕也、真帆さん。ありがとう。3人も休んで下さい」
荒い息。揺れる肩。
対峙した者にしか判らないあの恐怖。
もう、二度と瞳を開きたくないと思わせるほどの威圧感。
一朝一夕で拭いきれるものではない。
「木更津さん」
「「なに」」
「銃は・・・撃てますか?」
「「撃てないとでも思ってるの?」」
「では、見せて頂けますか?どちらからでも構いません」
「「判った」」
銃声が2発続いて、的のほぼ真ん中に当たったのを確認すると、
事情を説明しますといって、
放心状態になっている3人を除く全員を、あるスペースに集めた。
「木更津さ・・」
「下の名前で呼んでくれないかな?」
「紛らわしい」
「判りました。亮さん、淳さん、過去の事情は他の時に誰かに聞いてください」
「それじゃあ話がつかめないと思うけど」
「いえ、あちら側と闘う意志、それだけで今は十分です」
に注がれる視線の多い事。
その思いを一身に背負って、はゆっくり口を開いた。
「皆さんが先ほど聞いた声、あれはBR法のトップに君臨する者の声です」
「あれが・・・・・・・・・」
「声を聞いただけで一瞬衝撃が走った方もいると想います」
「・・・・・・・・・・・」
沈黙は肯定。
すくなからずもここにいた面々は固まったようだ。
「それが普通なんですけどね・・・・」
「普通?」
「私はその人に飼われていました。とてもとても長い間。有能な殺人兵器として」
「・・・・・・・・・・ちゃんが」
「私の家族を平気で殺したのもその人。そして彼は・・・・・・・私の、実の兄です」
解放者弐拾弐名。
内、永眠者八名。
内、狂者七名。
内、逃亡者泗名。