クスリと笑ったその顔は、

血に塗れて帰った時、心を無にして乗り切りなさいと、

悲しげに笑って言ってくれた、私の知っている人じゃなかった。




「どうして?どうしてですって?」




その視線の先にいるのは・・・・




「あいつが・・」

「あいつじゃないわ!様よ!!あんたがいなきゃ、ずっと私を見ててくれたのに!!」

「真帆さん?」

「馴れ馴れしく呼ばないで」

「今までは・・・・」

「不本意だけど、様は貴方の事を気に入ってるから」

「だから?」

「あんたを連れて行けば私を政府にいさせると約束して下さったのよ」




何もなかった。

ただ、信じると言う事を、教えてくれた、人だった。




「これで様は私のもの!!」




響き渡る笑い声。

掴んだ銃は、今の今まで紫董が握っていたもの。

ごめんなさい。私の所為で。

また、人を死なせてしまった。




ぱあんっ




吹き飛んだ、顔。

倒れていく身体を抱きとめる者はいない。

乾いた瞳に涙はなかった。

きっとこれからも。




、立ちましょう」

「うん」

「大丈夫よ。まだ、戦えるわ」

「うん」




手元に置いていたマウス。

もう、戸惑う事なんて、何もない。

地雷起爆のスイッチを押した。

表で次々に爆発していく地雷。

ずっとずっとずっと。



もうもうと立ち上る煙。

向こうの被害総数なんて数えてられない。

バラバラとヘリコプターの音がする。




「全員、海に潜って船の所で待機」




トランシーバーに向かって言えば、1階で水に沈む音がする。

それと同時に爆音。

空軍まで持ち出してくるとは。

手に入らないなら、全て壊してしまえと言う事なのだろうか。

目の間に横たわる死体を一瞥して、

沙耶に支えられながら、外を通って下まで降りる。

勿論はしごなど使えないので、器具を使って。



きっと、こんなもので死なない事を知っている筈。

船の上には、今まで助けて来た人が、全員揃っていた。

船内においてあるイスに腰掛け、外を見た。

爆音は止まない。




「・・・・・?なにかあった?」

「真帆さんと紫董さんがいませんね」

「上でなんかやってんだろぃ」

「違います」

「じゃあなんだ?」

「裏切り者には死を」

「なんだって?」

「あいつは裏切り者です。ユダでした。紫董は・・」

「それ以上言わなくていい」




包み込まれた腕。

鍛え上げられたそれと、落ち着けるハスキーボイス。




「・・・・・信じて・・・・・いただけ」




信じると言う事。

にとって、この上ない重圧。

それをさらりと叩き落されたダメージは大きい。

誰も何もいえなかった。

『信じて』と言うこと『信じる』と言うこと。

それが、彼女にとってどれだけ重いことなのか、

少しでも判っているのは、優勝者と、金髪だけ。




、立て。お前にしかできない事がまだ沢山ある」

「なあ、ここにいてもいいんだろ?」

「祐太?」

「ケガだってしてるし、危ねぇし」

「ボクもそれだ得策だと想うな」

「同じく」

「兄貴も言ってやれよ!」

「何を?」

「復讐なら、これだけで十分だろ!!」




歩くのもままならないまま、戦線に飛び込んでいくのは確かに危ない。

ここにいればまだ安全で、逃げ切る事ができる。

ただ、その言葉も、1度死を乗り越えた彼等の視線で消えていった。

何故なら彼等は知っているから。

裏切りの悲しさも、苦しみも。



けれど、彼女にとって十分なんて言葉が存在するのか。

それは、自分達じゃ、到底計り知れないもの。




ちゃん、君がどうしたいか」

「私たちはさんを支えますよ」

が負けず嫌いなの、僕らが一番よく知ってるよ」




裕也の腕の中で、今まで息だけをしていた

ゆっくりと顔をあげて、周りを見る。

そう、決めた筈。

何があろうと、彼等を守ると。

たとえ自分が犠牲になっても。




「兄の元に行きます」




その言葉が、どれほど無茶な事であっても、

自分達は、彼女を支えようと想う。

自分たちの未来の光。



それから反政府軍のメンバーは、

大方の爆音が止むと、また基地へと戻っていった。

中は悲惨な状態だったが、眠れない事はない。

月明かりに照らされて、まだ立ちっぱなしの兵士軍。




「可哀想な人」




先ほどからPCに映っている映像をみてつぶやく。

流石に気付かれなかったらしい小型カメラ。

大好きだった。

過去形は、未来形に変わることはないから。











そしてまた、1日が過ぎた。

今日はなんとしても状況を打破しなければならない。

長期戦になって不利になるのは、こちら側だ。




「直ぐに脱出できる準備を」

ちゃんは?」

「私がついてるわ」




唯一の扉から出て、外に向かう。

待っているのはあの笑顔。




!!ああ、帰って来てくれるって信じてたよ!」




ゆっくりゆっくり。

むかえる事はしない、あの人はいつも、待っていた。

すぽっと腕の中に納まって、俯く。




「ただいま兄さん」

「さあ、帰ろうか」

「そうね」

「君、撤退していいよ」

「兄さん?」

「ん?どうしたの

「私のことが必要?」

「もちろん。だって僕が必要でしょう?」

「うん。貴方の、死がね」




胸に突き刺さったナイフ。

勢い良く引き抜いたそれで、今度は腕を切り裂く。

背中と肩がずきりと痛んだが、気付かないフリ。

ゴトリと落ちた腕は、金属。




?」

「さよなら」

「ただで済むと思ってる?」

「まさか」

「そ」




どんッという音と共に、吹き荒れた爆風と、炎上する基地。

まさか・・・・・。




「真帆さんが仕掛けていたのね」

「少しは・・・使える奴だったから・・・・」

「心臓は代えられないわよ?」

「蘇ってあげるよ。の為なら」




歯車がまた、回り始めた。