濛々と立ち上る煙。

片腕が無くても、その笑みは変わらない。

生きているのは、心の臓とその顔だけ。




「取り乱さないんだね。流石ボクのだよ」




ふとよぎるのは、あの優しそうで、少し子供っぽい微笑み。

たとえ、裏切られていたとしても、

自分が、あの人を好きだったという気持ちは変わらないから。



あまりのの反応の無さに、少し怪訝な顔をする。

ぽたりぽたりと流れ落ちる雫はホンモノかニセモノか。

さっと切られていないほうの腕を上げると、一斉に兵たちが銃を構える。




「むちゃくちゃにして、ボクだけのにしてあげる」




1人ただ話す姿はとても滑稽で、顔をそちらに向けていても、

瞳は何も映していなかった。

手を振ると、ザざっとを囲む兵士。

死んでしまった筈の駒。

それと同時に聞こえるへりの音。




「腐ってる」

「なんとでも言えばいいさ。全て君のためなんだから」




を殺して、へりで逃げるつもりでいた。

出来なかった。

その後ろにいる可哀想なロボットたち。

ココロなど再生されないまま、銃を持たされて立たされて。

ただ、人を殺める為だけに。




「翔平、裕也、沙耶さん。ここから一刻も早く出てください」

『まさか失敗したのか!!』

「違うわ。ただ、機械を壊すのは、私独りで十分だと言う事」

『再生・・・・そして、あの子達の友達なんだね?』

「そういうこと。出来れば、この光景も見ないで欲しかった」




バラバラと後ろに風を巻き起こす3体のヘリコプター。

苦虫を噛み潰したような表情になったのはの方だ。

殺したと想っていた邪魔者たち。



命令されなければ動けぬロボットは、拘束すると言うコトを知らない。

円から軽々と飛び出したは、ナイフを振り上げ、の首を切った。

ゴトリと落ちる首。

手に残るのは違和感。




「貴方一体、何で生きてるの」

「さあね。考えられればそれでいいのさ」




生首は喋る。

口を動かし、さも、当たり前のように。

今度は形勢逆転だ。

の身体がを拘束し、その周りをロボットが囲む。




「さあ、ボクの所においで」




きつくなった腕の締め付けに顔を歪めながら、辺りを見渡す。

ああ、なんて悲しい。

本当に、心をなくしてしまった獣達。

その一体が倒れたのは、すぐだった。

上からの攻撃。

あれは・・・・・。

さらりとなびいた銀髪と共に、ぐらりと傾くその塊。




「幸村!!なにやってんだよ!!」

ちゃんを助けるんだ」

「あれは仁王なんだぞ!!」

「死んだ人間は・・・・生き返りませんよ」

「判ってる!!判ってるよ!!」




そう。皆判っているんだ。

生き返る者などいないこと。

彼等の命が尽きたこと。

目の当たりにしてきた現実。

その中に混じっているいくらかの命も。



3体のヘリから聞こえる討論。

上がっては下がり、上がっては下がり。

これでは脱出できるものも出来なくなってしまう。

は想った。

罪は自分が被ればいい。

彼等を巻き込んでしまった自分の責任。




「本当にさよなら。兄さん」

・・・・ボクの・・・・・妹」

「最後にその言葉が聞けてよかった」




顔に向かった銃弾は、頭蓋骨を貫き、脳を辺りに散りばめる。

拘束力の無くなった体を振り払い、イングラムM11を構えると、周囲に向かって発砲した。

マシンガン特有の発砲音が辺りに響く。

叫びなど、聞こえない振り。

瞳から零れる雫も、気づかない振り。

たった一人の、肉親・・・・。




「3人とも何してるの!!さっさと上昇しなさい!!」

!!今から下に降りるから!!』

「来ちゃだめよ!!もう、遅いの」




島の奥から聞こえてくる爆音は、木々を倒しながら、こちらに向かってくる。

押されたボタンは、元には戻らない。




「私の分まで、生きて・・・・・ね?」




生きることに執着しなくなった自分が、

彼等と共にいることは許されない。

顔だけはよく見知ったもの達に囲まれて、

うずく背中と肩をかばいながら、基地へと戻る。

殆ど大破してしまったそこ。



今考えれば、嫌な事だけじゃなかった。

政府に疑問を持っている人はいた。

洗脳にかからなかった人々。

慰めて、一緒に頑張って。

手元にある、ヘリのコントロールスイッチ。

押せば急速に遠ざかる声。



船もあの島に向けた。

逃げようと誓った。

生きようと誓ったあの場所。

地図上に無い島なんて、沢山ある。




「どうか・・・・彼等に幸多からん事を」




抱きしめるのは、キラリと光るピアス。

目の前に広がるガラクタの山々。




「どうか、来世ではいい夢を」




の意識はそこで途切れた。

片腕を水につからせて。

すぐ近くで炎上する死体。

死は・・・・・・・・・・。


















幾年かの年が過ぎた。

名もない島には家が出来、彼等の戦いは幕を閉じたように思える。

あれから、何度か日本政府のPCに進入しているが、

変わったことはないようだ。



至上最悪の支配者の死と、幾千という兵の損害。

どうやら本部の方に立て篭もっていたらしく、地雷で跡形もなく消し飛んだという。

この島で、一際高く聳え立つ建物。

廃墟のようだが、中はそれほど汚くはない。

普通に生活していける程度だ。




「ちょっと英二、何してるの?」

「え?いや、ちょっと・・・興味が・・・」

「その手を今すぐ離さないと蜂の巣にするよ?」

「おっおちび・・・?助けて」

「嫌ッすよ。自分で何とかしてください」




部屋中に響き渡る絶叫と、机の上に置かれたピアス。




「あんたんとこの猫、なんとかならないの?ウザイんだけど」

「同感っすよ」

「ケンカも大概にしといた方がいいんじゃないかな?」

「「どうでもいいじゃん」」




かなり開けたスペース。

そこに集まっている生きていない筈の人たち。




「それ以上煩くしたら海に落すぞ?」

「裕也、彼等に脅しは通用しないよ」

「まあ、そうだが・・・」

「鶴の言葉は、聞くかもしれないけどね?」

「ったく!アイツはどこでなにをやってる!!」

「さっき表に出て行くの見ましたよ?」

「そういや今日は・・・・」




白い花束が風にそよぐ。

無人島の丘の上。

立てられたお墓は全部で3つ。

そこに眠るのは幾千もの命。

なびく髪は、誰のもの?

扉を開けばみんなの視線が集まる。

オッドアイの・・・・。




「ただいま」




〜FIN〜