森の中を歩き、カメラを壊しながら、脳裏に浮かび上がるのは紅。
どこに転校しても、独り。
必ず来るその時を、静かに待つだけ・・・・。
そして、自らの手は紅く染まり、私は血に餓えた亡者となる。
「本当に嬉しかったのよ・・・・」
彼方達は違った。
青学に来た時も、誰とも関わらず、じっとしていようと思った。
独りでいて、また、いつもと同じように。
「ちゃんだよね?」
「俺たちテニス部なんだけどさ、マネージャーやんにゃい?」
「私からも頼むよ。テニス歴もあるそうじゃないか」
「僕らとしても、マネージャーは必要だし」
勿論、最初は断った。
物静かな、堅物娘を演じていたし。
何度も来たわ、毎日毎日、人数も増えて、いつからだったかな。
レギュラー全員が、毎昼休み訪ねてきたのは。
「俺からも頼む。乾にばかり仕事を押し付けているわけにはいかん」
「頼むぜ〜〜〜」
「何度もお断りしたでしょう。それに私なんかより、ファンの子達の方がよっぽど・・」
「あんな奴らに、仕事なんて任せられるか」
「そ〜そ。厳しすぎて、1日も持たないしね?」
「ですが、私とは何の関わりも・・」
「今からつくって行けばイイじゃない。僕らは、ちゃんでイイんじゃなくて」
『ちゃんが良いんだよ』
「・・・・・・・・・・・」
その時は思ったわ。どうして、私なんかって。
でも、いつからか、彼等が隣に居る事が普通になって、日常になっていった。
女子からの呼び出しは増える一方だったけど、その都度誰かが守ってくれた。
「巻き込みたく・・・・なかった」
ココに来たら、誰もが壊れる。
それが普通。それが正常。
「出来るだけの事をするって決めたのに、何弱気になってんのかな?」
まだ、誰にも見せた事がない本当の自分。
忘れかけていた、真実。
コレが終ったら、いや、全てが終わったら、彼等の前で笑おう。
「ココね」
が来たのは、灯台。
桃城の事だ。海堂の武器を置いて行った可能性がある。
は階段を上ると、静かに扉を開けた。
「・・・・・・・・・・海堂先輩・・・」
無残に飛び散った肉片と、黒ずんできた紅。
その傍らには、海堂の武器であろう、ブーメラン。
「やっぱり置いていってたか・・・」
しゃがみ込み、首輪をはずした。
音声の機能を壊した後、持ってきていたぬいぐるみに、それを詰め込んだ。
まな板の上においてあった包丁を使って・・・・。
「ゴメンナサイ・・・・」
どさっ
海堂に謝り、灯台を出ようとしたその時だった。
何かが倒れた音が聞こえ、パリンッとガラスを踏んだ音。
勢いよく振り返ったの眼に映ったのは、綺麗な紅で染まった桃城の姿と・・・。
「乾先輩・・・・・」
「やぁ。まさかココで君に会えるとは思ってもみなかったよ」
「彼方が、殺したんですね」
「この状況からしてそれ以外は考えられないだろう?」
手にアイスピックを握り締め、ポロシャツを返り血で染めて。
つんっと鼻を突く、薬品の匂い。
常人には判らないそれ。には、嗅ぎ慣れた匂い。
「青酸カリですか・・・・大石先輩あたり・・・」
「ご名答。どっちも正解だよ。放送がなるぎりぎりでね」
「という事は、それは大石先輩の武器ですか」
「桃のとは考えなのかい?」
「海堂先輩の傷は、そんなに細かくない。大方ボーガンの矢か何かで付いたんでしょう」
「それも正解だよ。流石、」
一歩も動かず、相手の目から己のそれを外した方が負け。
負け。すなわち死を意味する。
「!伏せろ!!」
「なっ・・・・!!」
いきなり出てきた第3者。
の鞄からはみ出していたブーメランをとり、乾に投げつけたソイツ。
最初の声で、瞬時に動けたと違い、あまりの事に動けなかった乾。
ブーメランは、乾の手首に命中し、アイスピックを落とした。
そのチャンスを、が見逃すわけがない。
アイスピックを拾い上げ、乾の心臓目掛けて投げつけた。
それもまた、命中。
だが、心臓に当たったといっても、たかがアイスピック。
死ぬまではいかない。
「っ・・・くそっ!!」
「死に際って、誰しも足掻くもの。それが、どれだけ醜いかも知らずに・・・・」
「っうわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
気でも狂ったように、アイスピックを抜き取り、目掛けて突進してきた乾。
それを避ける事など容易いもので。
勢いあまった乾は、そのまま部屋の外へ。
乾がこちらに向いた瞬間に、銃声が一発。
「コレで、邪魔者は消えた。一応、助けてくれた事にお礼を言うわ」
「・・・・」
「けど、それとコレとは話は別。ココは戦場なんだから。覚悟はいい?リョーマ」
同い年で、クラスが一緒で、席が隣で、一番身近だった存在。
は、自らの武器をリョーマに向けた。
ぱあんっ
どかん!!
弾き飛ばされたそれは、海の上で爆発。
それを見届けた灯台の上の、4つの瞳。
「大丈夫?」
「殺されるかと思った」
「殺さないよ。それより、そこに落ちてる鞄の中に、ボーガンが入ってる筈だから・・」
「捨てとく。海に」
「ありがとう」
隣の部屋に入ったは、乾の鞄を広げ、食料を探した。
入っていたのは、ワルサー・PPK。
乾の青酸カリは、大石を殺すときに全て使ってしまった筈。
大石のアイスピックは、さっき乾が持っていたから・・・・。
「まだ、殺してたんだ」
「、これどうする?」
「リョーマの好きに使えばいい」
「ん・・・」
名簿を広げ、乾の横に丸印をつけ、同時に斜線。
桃城のところにも斜線をし、武器名を書き込んでいく。
そして、越前リョーマの名前を、丸印で囲んだ。
「ついてきて」
乾の鞄と、桃城の鞄。そして海堂の鞄を海に投げ捨てた。
扉の前に立ち、リョーマを促す。
「悲しいの?」
「いや。桃先輩も殺したんだって思って」
「・・・・・それが現実だよ」
「判ってる」
「来て、誰かに見つかったら面倒だから」
桃城と海堂だったモノの真ん中で立ち尽くしているリョーマ。
それが、受け入れなければならない現実。
踵を返したの手をリョーマが掴んだ。
「汚いよ?返り血で汚れ・・」
「泣きそうな顔してる」
「っ・・・・」
「支障ないんだからイイじゃん」
永眠者仇名。
覚醒者参名。