聞こえるのは、荒い息遣いと、小さすぎる足音。

そして・・・・・・・鬼の声。




「よくココまで生き残れたね。どんな魔法を使ったの?」

「隠れてただけだよ」




追い詰められる者。片手にノートパソコン。

追い詰める者。片手にMP5A5HG。

誰が見てもわかる、強者と弱者の構図。




「僕は優勝したい。君もしたいだろうけど、無理でしょ?」

「僕の運が尽きただけの事だよ」

「怖がらないんだね」

「そういうところだから」




諦めた人生。

きっともう、2度と戻っては来ない日常。

生きたい。けど、この武器じゃ、応戦する事すらできない。




「どっちにしたって、1時間後には全部吹っ飛ぶんだ」

「ま、これも情け。楽に死なせたげるよ」




構えられる銃。

諦めたものの前では、審判を下す、ただの鉄の塊。




ぱあんッ




「どうした・・・・え?」

「間に合った。最後の獲物を盗らないで?って、聞こえてないわね」

・・・・さん?」

「彼方の武器はノートパソコン?そんなもの生き残れたなんて・・・・」

「そこに倒れてる人にも言われたよ」




放たれた銃弾は2つ。

重なったそれは螺旋を描き、一つは当たり、一つは外れた。




「早く殺してくれる?首が飛ぶのは勘弁したい」

「お望みどおりに」




イングラムM11を構え、一歩ずつ幸村に近寄っていく

高鳴る胸。これで終る。

いや、始まる?




ぱん   ぱんっ




「・・・っ!!」

「僕もいるんだけど?」

「当たったはずなのにね。防弾チョッキ?」

「ご名答」




心臓に入れたはずの銃弾が、ぱらりと地面に落ちた。

胸を押さえながら立ち上がる滝。




「もう、終わりだね?君じゃあ僕には勝てない」

「それはどうかなぁ。あまりなめないで欲しいんだけど」

「君の右手は使い物にならない」




流れる紅。

右手の肩と、肘を抉った銃弾。

ダラダラと流れるそれは、留まる事を知らず、の足元に水溜りを作っていく。




「右手が使えなくても、闘える」

「強がりはよしなよ。君だってもう止めたいんだろ?僕が変わりになってあげるから安心して・・」




ばこっ




「こっちだ!!」

「えっ・・・・」




遮られた言の葉。

遮ったのは、追い詰められていた者。

持っていたディバックで滝を殴り、の左手を引っ張って、森の中に逃げ出した。






「どうして助けたの?」

「誰も助けられなかった。せめて君だけは・・・」




森の中。唯一残しておいた水を傷口にかけていく幸村。

もう、誰もいない。残り時間半刻。




「あと少しで皆いなくなるんだ。その方がいい」

「死ぬのが怖いの?」

「怖くないよ。ここはそういうトコロ。ちゃんと判ってる」

「判ってない。現に彼方は、仲間の死を悲しんでいるもの」

「・・・・さんは何でもお見通しなんだね。参るよ」




額を押さえた幸村の瞳から、滴。

溢れ出したそれを止める術は、今の彼には無かった。

ただただ、日常を夢見て、でもそれは夢にすぎない。

今、この時が現実。

は、幸村の隣にあるノートパソコンの電源を入れた。




「何を・・・・」




打ち出していく、助けた人の名前。

半分にも満たないそれに自分を呪ったが、今のには精一杯の数字。

ディスプレイとを交互に見詰める幸村。

何が起こっているのか、何がしたいのか。

そして最後に打ち出したのは、覚醒者。




『この人達は 生きています』




驚きを隠せない。

その中にあった、同じ学校の2人の名前。

違う意味で涙を零した。



幸村はすっと、パソコンを自分の方に引き寄せ何か打ち始めた。

なぜ口で喋らなかったのか、彼女の過去に何があるかは知らないが、

現状を理解できるくらいの頭を、幸村は持ち合わせていた。




『君はのっていなかったんだね。安心した。そして、アリガトウ。仲間を助けてくれて』

『いいえ。こんな事しかできないから』

『こんな事じゃないよ。僕にとったらね』




俯き加減になる幸村。

死んだ仲間の中には、のっているヤツもいたんだろうと思うと、ため息しか出ない。

そんな幸村を見詰めながら、はディスプレイに新しい文字を打ち出していた。




『未来が無くても、過去に戻れなくても、彼方は生きたいですか?』




幸村はしばらく動けなかった。

そんな事有り得ないと、自分に何度も言い聞かせてきた言葉。

生きる。これから何が起きようと、その答えは決まっていた。

このゲームが始まった時から。




『うん』




続く会話。そして、の持ち出した計画に、不安を感じながらも賛成した。

生きたい。生き残りたい。

たとえ、未来と言う言葉に、意味なんかなくても。




「眼を閉じて、耳を塞いで。その間に全て終ってるから」

「・・・・・・・・・」




鳴らした銃声。

爆発したビデオカメラ。

自分達の位置を示すには、十分すぎる余興。




「やっと見つけた」

「残り15分。どの程度持つかな」

「生き残るよ。君を殺して」

「無理ね。彼方もう、死んでるもの」




ピッと言う音がして、数秒。

そこにあった筈の滝の首は無く、残ったのは、無残に切り刻まれた身体だけ。

忍足に貰ったピアノ線。

紅い液体が伝う。

首輪を爆発させ、幸村を森から出させた

さあ、最後の余興が始まる。




永眠者弐拾伍名。

内、覚醒者八名。



彷徨者弐名。

内、覚醒者弐名。