「嗚呼、やっぱり来・・」



ばたんっ。

屋上へ続く扉は、冥界への扉ではなかった筈だ。

蜂蜜色の髪なんて見えなかった。




、開けてくれないと、俺、]バーナー使っちゃうか・・」

「死人が出るわ」

「はは。俺が調整間違うわけ無いでしょ?」

「胡散臭い笑み」




2月だとまだまだ寒い。

屋上ともなれば余計だ。

とりあえず避難して来たのだから、此処にいようと決心する。

もしかしたら、いや、もしかしなくとも、

教室に戻った方が賢かったかもしれないが・・・・。




「沢田がサボり?珍しい」

「俺がサボり?莫迦も休み休み言ってよ」

「あっそ」




こいつは本当に一言余計。

しかも、その付け足したような言葉の中に、

脅しが含まれてるから、たまったもんじゃない。

まあ、流せば問題ないことを、

この頃学んだのだが。




とりあえず、今の休息に、

沢田綱吉がいようがいまいが関係ないので、

着いて来る気配を感じつつも、フェンスにもたれて座った。




「教室帰れば?京子、捜してると思うけど?」

「後で貰えばいいでしょ。今はそれより?」

「はい?」

「それ」

「これがどうかした」




そう言いつつ、ぽいっと自分の口に放り込んで問う。

調理実習の作品。

といっても、ただのマーブルクッキー。




「あのさ、普通、男がいるのに自分で食べる?」

「欲しいの?」

「はあ」




こうゆうものは、欲しい欲しいと言って貰う物ではない筈だ。

癖の強い、数多のアプローチを、

さらりと流すだけのことはある。

かく言う自分も、そんなに手を焼く1人なわけで。




「はい」

「はい?」

「何」

「うん。もういいや」

「要らないなら、別に食べなくて良いから。私が食う」

「女の子は食べる、でしょ?」




口元に差し出されたクッキー。

まったく。

これが愛情でも何でもないというのだから、困ったものだ。

教室から、野球ボールが飛んで来そうな気配がするが、

当たるわけがないのでスルー。

だって、教室と自分の間で、がクッキーを差し出しているから。




「それ、他の人にやらないでね」

「其れって何」

「やっぱり良いや」




差し出されたものを食べないなんて、

据え膳食わぬは、男の恥・・・ではないが。

クッキーを食べるついでに、

ぺろりと指を嘗めてやれば、

目の前の顔が、真っ赤になるのは分かり切っていて。




「指とクッキーの違いも分かんないくらい、眼、おかしくなったわけ?」

程じゃない」

「毒薬仕込んどくんだった」

「そんなの俺が食べるわけ無いよ」

「ポイズンクッキング習おうかな。まじで」




そんな事したって、の料理はきっと美味しいままなのに。




「凄く美味しい」

「そりゃどうも」