「はあ」




教室からはほど遠い。

誰も気づきはしないだろう。

そもそも放課後のこの時間帯、

教室に人がいる方が珍しいというのに。




「さて」




作らされたものとはいえ、

だって勿論女の子。

甘いモノが好きなわけで。




「頂きま・・」




びゅんっ。

がっしゃん。




「・・・・・・・・・」

「わりい!!手元狂っちまって!」

「思いっきり当たりそうだったんですけど?」

じゃねえか!」




硝子の破片が辺りに散らばっている。

今が放課後で、心底良かったと思うのだ。

生徒に怪我人が出かねない。




「山本!お前何やってんだ!!」

「滑ったんすよ!片付けとくんで!」

「さっさとやれよ!」

「任せて逝っちゃって下さい!」

「(明らかに字が違った今っっ!!!)」




爽やか笑顔を崩さないこいつは、

の脳内断トツトップで、関わりたくない男。

蜂蜜色したどこぞのボスよりも質が悪い。




、何処行くんだよ」

「帰るから、手、離せ」

「その包み、調理実習のやつだろ?」

「だから?」

「俺のは?」

「は?」




あるんだろ?

あるよな?

みたいな。

未だに笑顔は崩れない。




「うわっ!美味そうなのな!」

「勝手に開けるし」




アーモンド散りばめたブラウニー。

勿論、食べやすいようバータイプ。




「味見した?」

「あのね、味見は料理の基本だから」

「そうだったな!」

「あんた、私の事莫迦にして・・ぐっ!」

「俺は半分貰うから」




わざわざ、自分の口に含ませてから、

食わなくとも良いだろうに。

触れそうになった唇は、スルーだ。

というか、襲われるより幾分も可愛らしい。




「ん!美味い!!」

「さっさと部活戻りなよ」

あんな部活どうでもいいのな

「じゃ、止めてしまえ」

「今はと喋る方が大事だって!」

「練習試合前のチーム対抗戦中ですけど?」

が応援してくれるならやるぜ?」

「さっさと逝け」

「酷いのな」




苦笑しながら、運動場へと戻っていくのを、

ホッとしながら見送る。

仕方ない。

後ろで涙を流している、善良な先輩方が、可哀相すぎるから。




「勝ったら、これ、全部あげよっか?」

「待ってろ!!」




走っていく背中に、溜息をついた。