「あれ?獄寺?」
「あ゛?なんだ、じゃねえか」
「なんだとはなんだ。なんだとは。モスキートボム如きが」
「モスキートじゃねえって何度言や分かんだよ!!」
「あんたなんかモスキートで十分でしょ」
音楽室に行けば、いつものようにふけり、
煙草を吹かす獄寺が其処に。
「煙草吸うなら屋上行きなよ。鬱陶しいから」
「お前な・・・・」
こいつは、オブラートに包むなんて優しいことしやしねえ。
思ったことをそのまま口にする。
勿論、社交的場所では別なのだろうが。
「そういや、なんでいんだよ。今は授業中だぞ?」
「あんた頭大丈夫?」
「そろそろ果たすぞ?」
「さ、ぼ、り。あんたと同じ理由」
ピアノの椅子に座り込んで、
持っていた包みを開けた。
「なんだそりゃ」
「ザッハトルテ」
「見かけによらねえもん作んな」
「うっさいわ」
そういえば、今日、女子がチョコレート菓子の調理実習だと、
男子共が騒いでいたのを思い出す。
綺麗にコーティングされた其れは、
本当にお店に並んでいそうで。
「教室に行かなかったのかよ」
「絶対、入りたくないね。あんな教室」
殺気立っていたのだろうか。
とりあえず十代目も、
こいつのチョコレートを狙っていたようないないような。
「上出来」
こちらに何の興味も示さずに、
実習室から取ってきたのだろうフォークで、
食べていく、。
金粉なんて、誰が用意したんだよ。
わざとではないのかもしれない。
けれど、獄寺の視線は、の口から離れない。
つやつやしたチョコレートケーキが、
彼女の口に運ばれていく様が、
なんだか艶めかしくて、いつものような口悪さもなく。
窓から吹き込んだ風が揺らす髪が、また・・・・。
「あのさ」
「あ゛?」
「欲しいなら言えば?」
「は?」
「ほら」
「っ!!!」
フォークに突き刺さった、一口サイズのザッハトルテ。
甘いモノは嫌いな筈だ。
いや、そもそもそのフォークは、
つい先程までが使っていたもので。
「ちょっと、食べんの食べないの?」
「いや・・・」
「落ちるんだけど」
そりゃあ、それだけフォークを振っていたら落ちるだろう。
そういうことではなくてだ。
頭の中がパニック状態で、何が何やら分からない。
「フォークが喉元に刺さるまで突っ込むぞ」
もう少し、女らしい言葉は出ないのか・・・。
あたふたしている自分が阿呆らしくなってくる。
吸っていた煙草を消して、窓際から立ち上がった獄寺は、
さっさかの目の前に来て、
の手の上からフォークを包むと、
そのまま自分の口の中へ、甘い塊を放り込んだ。
「甘ぇ」
「殺すよ?」
「ま、にしちゃ上出来だな」
「お返し、楽しみにしてるから」
「一口じゃねえか!!」
「じゃ、もう一口食べる?」
「貰ってやるよ」
「この後、珈琲奢りね」
また、口の中に、甘い甘いチョコレートが拡がった。