去年と同じく、
チョコレートをテンパリングしながら、
ふと、目がいったのは、レシピの切れ端。
みんなに御礼をする中で、1人くらい、特別がいたって・・・。
焼き上がったクッキーにデコレーションをし、
1つ1つ、キャンディー型に包んでいく。
其れを籠に入れて、配る準備が出来上がれば、
次のお菓子へと取りかかった。
「はい」
「ホント、毎年よくやるよ」
「今年は、シンプルにクッキー」
「ありがとう御座います。姉様」
「ハッピーヴァレンタイン」
「お返し、何が良い?」
「要らないよ」
「去年はノートパソコンだっけ?」
「要らないってば」
「拷問のやり方教えてやるね」
「絶対に要らない」
「!!オレには?オレには!」
「ないよ」
「なっ!!」
「日頃の行いだな」
「もう良い!!!」
このクッキーはない。
という意味だったのだが、
そうとは取られなかったらしい。
言葉足らずなのも、考えものだ。
「?どうかしたね」
「ううん。なんでもない」
キッチンに眠る気持ちを、
渡しに行かなければならない。
窓の外をちらつく雪が、自分を急かしている気がする。
「団長はいつもの事だからな」
「夕飯になったら降りてくるよ」
「そう・・・かな。あたし、片付けしてくる」
そう言って、口実を作らないと、
勇気がない自分が嫌いだ。
キッチンに駆け込んで、包みを持つと、
外から回って、彼の部屋の前に立った。
自分から呼びかけるのが怖い。
答えてくれなかったら・・・・。
不安ばかりが募る。
「クロ・・・ロ?」
「なんだ?何か用か」
「入って良い?」
「開いてる」
相当ご立腹の様子。
は、そのように酷い事を言った自覚が皆無なので、
何に怒っているのか分からない。
中に入っても、
活字に目を落としたまま此方を見ないクロロを、
不審に思うのは当然だ。
「クロロ」
「だからなんだ」
「これ」
「どれ・・は?」
「甘いモノ、嫌いじゃないでしょう?みんなのよりも・・・えっと・・・」
言葉が出てこない。
語彙は少なくないはずなのに、
どうしても、どうしても言葉が出てこなくて。
顔を真っ赤にするしか、なくて。
「」
「?」
「オレの為に、作ってくれたのか?」
こくりと、出会った頃のようにうなずいた。
そうか。
そういって、包みを開けていくクロロを瞳に映す事など出来ず、
ただただ俯くばかり。
目の前に来たのが分かる。
抱きしめられたのが、分かる。
「、顔をあげろ」
ふるふる。
「あげて欲しい」
ふるふる。
「オレの味覚、考えたんだな」
こくり。
「甘いモノ好きだって、教えたか?」
こくり。
「今度一緒に、オススメのケーキ屋へ行こうな」
こくり。
「ありがとう」
こくり。