ゆっくりとしたクラシックが流れる朝のキッチン。

愛しのダーリンは昨夜遅かったせいで

(それはまあ、俺も同じなのだけど)まだベッドの上。

寝ぼけ眼にキスを落とし、

いつもはヒソカが立つキッチンに今朝は俺が代わるからと告げると、

嬉しそうな笑みと麗しい寝顔を披露してくれて、

あやうく朝から悶え死にそうだった。




その麗しい寝顔を思い出しているうちに丁度フライパンが温まって、

ボウルから一掬いした生地をパンダの型の中へとゆっくり注ぎいれた。
しばらくすると表面がフツフツしてきて、

生地が安定した所で型を外し、

スグにフライ返しでパンダの顔のホットケーキをひっくり返した。




「とう!」




右手と左手、フライパンとフライ返しを同時に動かす。

形が崩れることなく裏返ったホットケーキは見事な狐色をしていて、

我ながら上出来な出来具合に、

今の今まで緊張に言葉を失っていた子が嬉しそうに口を開いた。




「スゴイ!!上手!!パパン上手!!」

「アハン。ヒソたんパパに手取り足取り教えてもらったから当り前でしょン?」

「あ!でも焦げちゃう!!パパン!!早く上げて!!」

「ハイハイ。ワカッテマス。ホラ。ヒーたん。お皿準備して」

「ウン!!」




少し離れた場所で踏み台に乗ってフライパンを覗き込んでいた小さな体が、バタバタと幼児特有のドン臭さを披露しながら食器棚へと走っていく。

お気に入りのピエロのプレートを取り出すとスグに戻ってきて、

期待に満ちた水色の眼差しでパンダケーキを催促した。




「ハ〜イ!!パパン特製パンダケーキできあがりん♪後はチョッコでオメメとオハナ描いて出来上がりだよん♪」

「スル!!ボクがスル!!」

「ダ〜メ!ヒーたんの任務はヒソたんパパとユウたんを起こす事!!パンダケーキはパパンに任せなさい!!」

「ウ〜!!」




三歳になったばかりのヒーたんがヒソカにソックリの顔で俺を睨むけど、
頬を膨らませたその顔は可愛いとしか言えない。

髪の色までヒソカのコピーなヒーたんの、

そんな殺人的に可愛い顔に犯罪的な感情が浮かぶ事もあるけど、

さすがにまだ三歳児に手を出すほど危なくは無かった。




クリンクリンの水銀色の髪をワシャワシャと撫でて、

オヤの愛情でもって膨らんだホッペにキスをする。




「任務を果たして戻ってきたらユウたんのパンダにチョッコさせてあげる!!」

「ホント?!」

「ホ〜ント!!お手伝いしてくれたゴホウビ!!」

「スグ起してくる!!!」

「ハイ!!イってらっしゃい!!」

「イエス!!」




敬礼してみせるとミニヒソカが生真面目に背筋を伸ばして真似をする。
愛らしすぎるその姿にまたまた萌えまくりながら、

とりあえず理性を保ってユウたんの分のパンダケーキに取り掛かった。




ヒーたんより一つ下の、碧の瞳と銀の髪を持つ俺ソックリなユウたんは、

ヒソカにそっくりなヒーたんに比べて朝に弱く、

自分の身の回りの事も一切しないというまさしく俺の子と言うに相応しいコで、

時々その踏ん反り返りぶりに血管をブチぎれさせるとヒソカとヒーたんが『似たもの同士ダネ』と二人一緒に呆れられてしまっていたりする。

それでも可愛い我がコには違いないんだけど




パパン!!」

「?」

「ユウたんが!!またヒソたんパパとネンネしてる!!!」

「なぁんですって!!!コラ!!ユウたん!!!」




俺と同じくヒソたんパパを溺愛しているユウたんは俺の目を盗んではヒソカに引っ付いていて、

それを許せるほど俺はオヤでもオトナでもなかった。

フライパンとフライ返しを放り出し、

ヒーたんが指差す寝室に『浮気の現場を発見した妻』の如く鼻息荒く殴りこむ。

起きていたらしいヒソカに髪を撫でられてウットリしているユウたんにスグさま走りよって首根っこを掴んで後ろに放り投げた。




「ア〜!!パパン!!じゅるい!!ヒショパパはユウたんイイコイイコちてたのに!!」

「ヤ〜カマシ!!ヒソたんパパとパパンのベッドに入るなって何回言ったら分かるの!!」

「ワカリマチェ〜ン。ユウはヒショパパがちゅきだからヒショパパといっちょにねんねしゅるだけでしゅ〜」

「ヒソたんパパはパパンのもの!!オネショするガキがいっちょ前に色づいてんじゃない!!」

「アイをちゃちゃやくのにトチはカンケーないも〜ん」

「さしすせそも言えないオコチャマがアイなんか囁けるか!!」




負けじとベッドにとって返してきたユウたんの頭を押し返しながら、

もう片方の手でヒソカを死守する。

上半身裸の逞しい体に抱きついているとムラムラしてくるけど、

その体についさっきまでユウたんが引っ付いていたかと思うとムカムカもする。




「ヒソカも!!ユウたんと一緒に寝ちゃダメって言ってるでしょ!!」

「そんな事言われてもねえ。可愛い我がコをムゲには出来ないだろ?」

「可愛いコほど旅をさせろって言うでしょ!!獅子は我が子をも谷底に突き落とすんだよ!!ユウたんにも厳しくしなきゃ!!」

「ならキミはヒーたんを谷底に突き落とせるの?」

「まさか!!そんな事できるわけないでしょ!」

「・・・・パパン・・・」

「アハン。パパンはオバカでちゅねえ」

「うっさい!!俺の真似してアハンなんて言うな!!ユウたんが女の子の真似しても全然可愛くないんだから!!」

「パパンだってひしゅてり〜でカワイクないでしゅ。ねえ。ヒソパ〜パ」




自分で選んだ女の子用のパジャマを着たユウたんが俺とは反対の位置からヒソカに抱きつく。

二歳児の癖に上目遣いで同意を求める小悪魔要素は褒めてあげたいけど!

それがヒソカに使われるなら断固許さない。




「ヒソカは俺の!!ユウたんはヒーたんがいるでしょ!!」

「ええ?!ボクパパンがいい!!」

「ヒーたんよりだんじぇんヒソたんパパがいい!!」

「ダメ!ダメダメダメダメ!!!ヒーたんのキモチは嬉しいけどパパンはパパの!!パパはパパンの!!決まっているの!!一口だってあげないの!!」




腰にしがみ付いてきたヒーたんはしっかり抱き返し、

ヒソカに更にきつく抱きつこうとするユウたんの頭は必死で押し返す。

両手を我がコ達に塞がれて、

ヒソカの体の上で死闘を繰り広げていると、突然




「わっ?!」

「うわっ!」

「きゃん!」




俺の体がグルンと回ってヒソカの下に組み敷かれ、

突然手を離されてバランスを崩したヒーたんとユウたんの体をヒソカがいつのまにかつけていたバンジーガムで体勢を立て直させてベッドの傍へと腰を下ろさせた。




「ヒーたん。に抱きついちゃダメって言っただろ?」

「・・・・・・だって・・・」

「だってもダーメ。ユウたんも。ボクの一番はだって言ったはずだよ?」

「・・・・・・ちらない・・・」

「ちらなくても関係ないよ。ボクは言ったはずだから」

「「・・・・・・・・・・・・」」

「それと。

「・・・・・・・・・・・ハイ」




パパになっても相変わらず麗しいヒソカ。

ニンマリとした笑みの不気味さもそれはお変わりなく健在で




「ボクの前で子供達とイチャつかないでって言ったよネ?」

「・・・・イエ・・・ソレは・・・ソノ・・・イチャつくというか・・・何と言うか「言う事を聞かないコには罰を与えなきゃネ」・・・・・イヤ〜ン・・・・」

「キミがいつも子供達に言ってる事だろ?オヤがしっかり子供の見本にならなきゃどうするんだい?」

「んあっ!」

「「・・・・・・・・・・・・・・」」




ニコニコニコニコ。

眩い笑顔を大量放出しながら子供達がいるのも気にせず元気な下半身を押し付けてくるヒソカ。

子供が生まれたからってまさかヒソカのヒソカたる『ヒソカ』が変わるはずもなく、それはモチロン俺も同じで




「ヒーたん・・・・っ・・・ユウたんのパンダ・・・シてあげてねん・・・・」

「・・・・・・・分かったよ。パパン・・・」

「ユウたん・・・ヒーたんの言う事ちゃんと聞いてイイコにしていて・・・」

「・・・きょう・・・おかいもの・・・」

「ちゃんと行くから。心配しないで」

「・・・・・あい・・・・」




聞き分けのいい愛らしいヒーたんと、

何だかんだ言いながらもやっぱり可愛いユウたん。

だけど俺の一番もやっぱりヒソカで、

とことん俺達に似ている二人もそんなリョーシンをヨーク理解している。




「ユウたん。パンダケーキ一緒に食べよ。ボクが焼いてあげるよ」

「ユウ。ウシャしゃんも」

「分かってる。ホラ。オイデ」

「ん」




俺には甘えてもユウたんといる時は吃驚するくらい大人っぽいヒーたんが、

これもまた口では邪険にしながら、

いざヒーたんを前にすると可愛らしくモジモジするユウたんの手を取って、

恋人握りまでした二人が仲良く寝室から出て行こうとする。

その後姿を俺にイタズラしながら見送っていたヒソカが何か思い出したように『あ』と口を開いて、

扉の方で足を止めた二人にクスクス笑いながら『注意』した。




「ヒーたんも。ユウたんも。ボク達に似るのも、ボク達を真似るのもイイけどネ。裸で触りあいっコだけはダメだよ。アレはもうちょっとカラダがオトナになってからじゃないと。ネ」

「な?!」

「・・・・パパとパパンだけズルイ・・・」

「じゅるい」

「オトナはイイノ。ホラ。早く朝ごはん食べてオイデ。キミ達が食事を済ませる頃にはコッチも終わらせるから。ミンナでお買い物に行こう」

「ウン!!イク!!ユウたん!!イコ!!」

「アイ!!ごはん!!いきましゅ!!」

「イッテラッシャイ」




ヒラヒラと子供達に手を振るヒソカを俺はマジマジと見上げる事しか出来ない。

子供達が触りあいっコしているなんて初耳で、

しかもそれを笑って見過ごすオヤというのはさすがにマズイのではないかと思ったりするのだけど・・・・




「ン?どうしたの?。変な顔して」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・触りあいっコ・・・って・・・・」

「ああ。ソレ。毎日セイ教育を目の当たりにしてるから興味を持つのも早いんじゃない?サスガにナニをドコにドウするのかまでは分からないみたいだけど」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」




いいんですか。ソレで。コのオヤとして。イエ。マズ。人として。




「いいんじゃない?別に悪い事してるわけじゃないし。そんな事より。コッチに集中しなネ」

「んあっっ」




一体ヒソカのラインでの悪い事とは何ぞや!!

そう声を大にして聞いてみたくても、口から出るのは愛撫される体が生む嬌声ばかり。

それに結局没頭してしまう俺も『まあ、イイカ。俺とヒソたんのコだし』と納得してしまったりして




「ヒソたんパパ・・・。このペースだとまた子供出来ちゃうかも」

「別に構わないケド。キミがキミなら」

「アン」




子育ても子作りも、

偏ってはいても躾だってバッチリなヒソカのいつまで経っても変わらない変態的で優しい愛撫に、

俺は身も心もトロトロに奪われていくだけだった。



















「という何ともハッピーな夢を見た」

「また変な夢を。しかも何が有り得ないって。キミがパンダケーキを上手に焼いてるってのが絶対に有り得ないよね」

「・・・・真顔で即答する所がソコですか。ヒソカさん」




ご丁寧にヤレヤレと首まで振ってくれたヒソカの夢と同じ上半身裸の体に抱きつく。

途端に抱き締め返してくる逞しい腕にスリスリと頬寄せるとこれも夢の中と同じ笑い声が頭上から降ってきた。




「だって。これだけ毎日セックスしてるんだから似のコドモもボク似のコドモも生まれそうじゃない?そのコがボク達と顔だけじゃなく性格までソックリってのもありえそうだし、何よりボク達がボク達のままってのも、ネ。疑いようが無い」

「イヤ。それらの前に俺達が子供を生むって事が有り得ないから」

「そうかな?異世界から飛んでくるくらいだから何かどうにかしたら生めそうじゃない?」

「・・・俺が?」

「ボクが出してるのはキミの中だからネ。ミゴモルのはキミしかいない」

「・・・・・・・・・・・・・・・」




一瞬お腹が膨れた自分を想像して、

夢に出てきたヒーたんとユウたんの顔を思い出す。

そうすると何だか本当に生めそうな気になって、

生んでみたくもなったりして。

仰向けに体勢を変えたヒソカの体に乗り上げ、

髪を撫でる指にウットリと目を細めながら話してみた。




「ヒソカ似の息子とか溺愛しそう」

似のムスコもイイネ」

「娘だったらどうする?」

「ムスコがいいからムスコで生んで」

「アハン。なら、産み分け方法をシャルに調べてもらわなくっちゃネ」

「組合い割引き利くかな?」

「アハハハ!それいいね!!後は産休とか!クロロに申請したりして、二人でデートしたくなったら子守もお願いしてさ!!」

「確かに。団長なら子供達のいい玩具になってくれそうだ」

「でしょ!!」

「後はイルミに絵本読んでもらうのも忘れちゃダメだよ」

「イルミオニイサマ張り切りそう!!」

「ゾルディックの軟弱な弟君達と違ってボクとキミのコならイルミのおどろおどろしい絵本朗読だって大丈夫だよ」




クスクス笑いながらありえない話を続けてまた笑いあう。

そうしながらお互い触れあうのもヤメなくて『じゃあ子作りしようか』という落ちの元、ヤル事はイツモと同じで




「キミといると本当に退屈しないよ。




そう言ったヒソカの本当に愉しそうな口調と瞳の輝きに俺まで愉しくなって、結局。

これも夢と同じに、

俺はヒソカの変態的で優しすぎる愛撫に身も心もトロトロに奪われていくのだった。