「・・・遅ぇ」




何本目か分からない煙草を灰皿に押し付けた。

を迎えに来たまではいいが、ちっとも姿を現さねぇ。

「たまには迎えにきてほしい」なんて言いやがるから、

わざわざ来てやったっていうのに・・・。




新しい煙草に手を伸ばして火を点けた。

紫煙を吐き出して再び外に視線を向ければ、

漸くを見つける。

いくつか文句を言ってやろうと思いながら

テーブルの端にあった伝票を手に取って動きを止めた。

の隣に知らねー男が見えたから。

付きまとう男が何度か腕を掴んではは足を止め、

困った顔して一言二言話しては腕を外して歩き出す。

それの繰り返し。




まさか、ここまでずっとああやって来たんじゃねーだろうな?

大学に入学したアイツの周りには、ボンゴレの連中はいない。

そのせいか、アイツは男に絡まれることが増えた。

しかも、今まで父親と野球馬鹿に

過保護なくらい大事に守られてきたから、

男のあしらい方が下手すぎる。

最終的には箱入りで押しに弱いのがバレて、

今みたいにアホな男をつけあがらせる。

舌打ちして点けたばかりの煙草を銜えたまま伝票を握り潰した。




「おい、コイツになんか用かよ?」

「あ?話しかけんな。見て分かんだ、ろ・・・?」

「分からねーから聞いてんだ。言ってみろ」

「あ、いや・・・すみませんでした!」




俺の顔を確認した男は、怯えたように走って逃げた。

チッ・・・つまんねー野郎だな。

完全に消えるのを見届けてから、

呆然と俺を見上げているバカにチョップを振り下ろした。




「いたっ!」

「痛いじゃねー!毎回、言ってんだろうが!
馬鹿共に絡まれてんじゃねーよ!」

「だって、サークルの勧誘を断ったら‥」

「その代わりに付き合えだろ?
何回同じ事を言われたら気が済むんだ、てめーは・・・!」

「ほっへひゃ、ひっひゃんひゃいれふりゃひゃい!
(頬っぺた、引っ張らないでください!)」

「ったく・・・帰るぞ」

「うぅ・・・ひどいです、隼人さん・・・」




俺が伸ばした両頬をさすりながら涙目で不満を訴えてくる。

コイツ、他でもこんな事してんじゃねーだろうな?

惚れた欲目を差し引いても・・・・・・コイツは可愛いと思う。

あのアホ女みてーに煩くねーし、

その辺の女みてーに飾り気がねーけど楚々として、

側にいてくれるだけで落ち着く・・・姉貴とは大違いだな。




「帰るぞ」

「はい。あ、スーパーで買い物したいです。お米がもう無いので」

「は?この前、買いに行っただろ?」

「隼人さんが出張中に、
お兄ちゃんが泊まりに来て全部食べちゃったんです」

「・・・前に言っただろ。俺がいない時は、誰も家の中に入れるなって」

「だ、だって、お兄ちゃんですし、終電ないって困ってて‥」

「実家が歩いてすぐの距離にあんだろ!
お前は危機感とかねーのか!」

「なっ!?そんなことないです!あります!
それにお兄ちゃんだから危ないことなんてないですよ!」

「やっぱり危機感ねーな、お前は・・・!この、バカ女が!」

「むぅ・・・(今日もバカ女って言われた!)」




唇を尖らせたにため息をついて頭をかいた。

知り合いにも警戒してくれ、頼むから。

あの野球馬鹿が一番危険なんだよ。

まだ、二週間くらいしか一緒に暮らしてない俺はすでに限界なのに、

と10年近く一緒に住んでた時に山本が手を出さなかったのは、

ある種の奇跡だ。

親がいようと、手を出そうと思えばいくらでもチャンスはあるってのに、

ずっと我慢してたんだもんな・・・。




まぁ、あの親父じゃ無理もねーか。

俺がに彼氏だと紹介された時は、

いつもの気さくな様子が一変して山本の時雨金時を抜いたから、

思わず俺も匣で対抗したし・・・

つーか、ほんとに寿司屋か?殺し屋じゃねーのか?

あの殺気は本物だろ。

思い出してげんなりしつつを見ると、

いまだにふてくされた顔で俯いてる・・・仕方ねーな。

の小さな手を掴むと驚いたように顔を上げた。

そのまま、歩き出すと何事かと俺の名前を呼んでくる。




「隼人さん、どこに行くんですか?」

「スーパーに寄って帰るんだろ?付き合ってやるから、早く来い」

「!・・・えへへ、晩御飯、何がいいですか?」

「なんでも・・」

「何でもいいって言ったらダメですよ?」




さっきまで機嫌が悪かったのが嘘のように嬉しそうに笑って、

俺の指に自分の指を絡めてくる。

くっ付き過ぎだと言っても離れようとしねー。

顔赤くするくらいならしなきゃいいのに・・・

そう思いながらも、の好きなようにさせてやる。

俺も甘い・・・

だが、そんなに喜んでるのも事実だから何も言えねーけどな。



繋いだ手を少し強く引いて顔を上げさせ、

触れるだけのキスした。




人通りが少ないとはいえ、まさか、

俺が道路の真ん中でキスするなんて思わなかったのか

は耳まで真っ赤になった。

驚きのあまり声も出ないようで俺を見上げたまま口をパクパクさせて、

やがて俯いた。

相変わらずの初々しい反応に口の端が上がる。

無防備すぎるコイツの為にも、

たまにはこうやって

コイツは俺のものだって見せ付けるのも悪くねーかもな。








ragazza

(コイツは俺の大事な・・・)







オマケ


「遅かったね、獄寺君。俺、待ちくたびれたんだけど」

「じゅ、10代目!?ど、どうしてこちらに!?」

「うん、仕事が早く終わったからね」

「・・・隼人さん、入ってもいいですか?」

!?まだ入ってく・・」

「なんで止めるの?、入ってもいいよ。
あぁ、こんな重いもの持たせたまま玄関に放置するなんて・・・
どういうつもりなのかな、獄寺君?」

「(ブリザード・・・!)い、いえ、そんなつもりは・・・」




「あ、綱吉さん。もしかして、綱吉さんが家の鍵を?」

「鍵?」

「いえ、帰ってきたら家の鍵が開いていたので、
もしかしたら泥棒なんじゃないかって・・・」

「あぁ、そういうことか。ごめん、
鍵が開いてたから勝手に入らせてもらったんだけど迷惑だったね」

「そんなことないです!むしろ、綱吉さんが来てくださってよかったです」

「そう言ってもらえると嬉しいよ。コレ、ここ?」

「はい。ありがとうございます」

「たくさん買ってきたね」

「隼人さんが一緒だったから、たくさん買ってきたんです」

「ふーん、そうなんだ」

「(え、笑顔が痛い!)」




「綱吉さん、座っててください。今、お茶を用意しますから」

「ありがとう、。獄寺君も座ったら?」

「は、はい!失礼します」

、獄寺君に苛められてない?」

「え?ふふっ・・・隼人さんはそんなことしませんよ。あ、でも・・・」

「でも?」

「(おい、何を言うつもりだ!?
その一言で、俺の生死が分かれるんだぞ!?)」

「さ、さっき、道路の真ん中でキスしてきたんですよ!
信じられないですよね(恥ずかしかったけど、嬉しかったなぁ・・・)」

「(アホか!そういうことを言ったら・・・!)っ!?」

「獄寺君、公道でになにしてんの?(俺に対するあてつけ?)」

「10代目、落ち着いて・・・うおっ!?(炎が!死ぬ!)」

「今、凍らせてそこのベランダから落としてあげるよ。
落としたら粉々かな・・・
あ、心配しなくてもは俺が幸せにするから安心して死んでね」

「!?」