グランドラインを航海していれば、四季なんて関係ない。

春が来て、桃色が新緑に変わったり、

少し蒸し暑くなってきたなと、お茶を冷やしたり、

紅葉を楽しんだり、

ちらつく雪をバックに黄昏れたりなんかは、

夢のまた夢なのだ。




「どうして風邪ひかないの?」

「鍛え方が違う」

「・・・・・」




小さな小さな船の上で、

そんな穏やかな四季に慣れきったは、

案の定風邪をひいていた。




「これでもかけておけ」

「ミホークが風邪ひくでしょう!」

「鍛え方が違うと言った筈だ。風邪などひかぬ」

「いくらミホークだって風邪ひくってば。
ここはもう冬島の海域なんだよ?雪ちらついてたの見た?」

「目が見えなくなった記憶はない」

「そんなこと聞いてないから」




毛布の上からかぶせられた彼のコートと、

自分の唇に触れた、やわらかな感触。

それは、確かに温もりと、

彼の匂いに包まれた安らぎは与えてくれるのだけれども、

この寒さの中、上半身裸で居れば、

いくら彼とて体調を崩す筈・・・・多分。






「林檎でも持ってこよう」










あの時、無理矢理にでも引き留めて、

このコートを返しておけば、

こんな事にはならなかったのに。

少し、熱を持った不安な身体に、彼の温もりは優しすぎた。

触れた唇の感触への恥ずかしさと相まって、

思わずコートに顔を埋めてしまったのだから、

6割方自分の責任。

4割は、彼の莫迦さ加減だ。




「だから言ったでしょ?」

「風邪などではない」

「咳、頭痛、喉痛、鼻水。極めつけに微熱。風邪だよ」

「・・・・・・・」

「大人しく寝ててね」




素肌にそのままコートを着て寝ようとするものだから、

慌てて引き留めてコートを脱がせた。

こんな時のために、綿のシャツを買っておいて良かったと、

は自分の物持ちの良さに感嘆したのだ。




「ミホーク」




怠いのに何故か火照った身体。

戦いの後の、心地よい気怠感ではなく、

もっとこう、不快な。

道連れの言うことを聞いて、暫く仰向けになっていれば、

湯気立つお粥を持ったがそこに。




「座れる?」

「無論」

「うわ!!」




くらりと傾いた自分の身体を慌てて受け止める彼女。

自分よりもかなり小さい身体の所為で、

危うく床とご対面しそうになったことだけ記しておこう。




「もう。無理しないで」

「・・・・・・・・無理など・・」

「してるでしょ。はいお粥。食べたらちゃんと薬飲むんだよ?
横の机に全部おいてあるから。何かあったらちゃんと呼ぶこと」




びしっと音が着きそうな雰囲気で、指さされ言われた台詞に、

どうしても、

自分が病に伏せったなど信じたくないミホークは、

どこぞの餓鬼んちょよろしく、ぷいっと顔を背けた。




「・・・・・・・ミホーク」

「・・・・・・・」

「・・・・もう」




沈黙を貫いていれば、かたりと引かれる椅子。

彼女の手には、出来たてほかほかのお粥が。




「はい」

「・・・・・・・・

「何?」

「これはどうゆう・・」

「ミホークが食べないからでしょ。はい、口空けて」




差し出されたレンゲ。

熱いかな?と口を近づけて冷ますその姿に、

ほほえましさを感じてしまう。




「ほら」




素直に口を開ければ、ゆっくり運ばれてくるお粥。

乗せられた大根葉の生姜炒めが、また良い感じの塩加減で。




「美味しい?」

「主の作るものはなんでも美味い」

「嬉しいこと言ってくれるね。その調子で早く風邪治して?」

「うむ」




笑っているのに下がった眉尻。

抱えられているお粥に注意して、

そっと背中に腕を回す。

不寝番なんてしたことのない彼女が、

今日は自分の代わりに起きるのだろう。






「何?」

「もう一口」




そっと頬に触れさせた唇を、耳元へ移動させて囁く。

真っ赤になりながら、また律儀に冷まして、

レンゲを運んでくれる彼女が、心底愛しいと思った。




たまに風邪を引くのも悪くない。

かもしれない。





Thanks 3000hit. To アカリクス様.