もし。

あの廊下を通らなければ。

リーと出会うことはなかった。


もし。

ハーマイオニーと別れなければ。

別の結果になっていたかもしれない。


もし。

──首を横に振っていたらどうなっていたのだろう?




二人は静かに待ち続けていた。

塔の階段が音を立てるのを。

は来る、という確信があった。

何故、と問われても答えられないけれど。



リーの提案を受けたのは、他でもない。

はっきりしたかったからだ。

なんでもっと早く思いつかなかったのだろう?

どちらも、自分には自信を持っていた。

だが、やはりどこかで怯えている。

どちらか1人は、諦めなくてはならないという現実に。

もしかしたら他に好きな奴がいるかも、なんて考えは頭の中から消え去っていた。




「俺が勝つと思うけど、恨むなよな」

「こっちの台詞だ」

「「が選べば、諦める」」




双方の想いは同じだった。

願わくば自分を選んで欲しい。

だけども、彼女の幸せを思えば諦めて次の機会を待つ他ない。




カンカンカンカンッ




リズミカルな音が反響する。

塔へと続く階段特有の、音だった。

──来た。




「失礼します」




重い扉をギギィーッと開けて、彼女は姿を現した。




「やぁ。突然呼び出して悪かった」

「いえ。何か御用ですか?フレ」

「あ、名前だけでね」

「もっとこっちに来なよ」

「…ッド。ジョージ。」




ジョージに言葉を遮られ、言われた通りにする。




「じゃあ、早速だけど。」

「本題に入るよ」




双子は息もピッタリだった。

ごくりと唾を呑む。




「「俺は、が好きだ」」




真剣な表情で、二人は確かにそう言った。

頭の中でリピート再生する。

すぐには信じられなかった。




「ま・・・またまたぁ。からかってるんでしょ?」




笑いながら鎌を掛けてみる。

二人は、冗談が好きだから。

いつもだまされていたから。

だけど、彼らの表情は変わらなかった。

───本気なんだ、と瞬時に悟った。




「見てわかる通り、俺達二人ともが好きなんだ」

「でも、の隣りに並ぶのは1人のほうが都合がいいだろ?」

「「だから」」

「選んでもらいたいんだ」

はどう思う?」




くるくると展開していく話の流れ。

あたしの頭は、整理するのに必死だった。

まさか、ハーマイオニーとの話が現実に起こるなんて。




『二人に告白されたら・・・・・・はどうするの?』



ハーマイオニーの言葉が、頭の中で蘇る。

あの時あたしは。

──答えを出せなかったのだ。




『双子といっても、個々の人間。まるっきり同じ人間なんて、この世には存在しないもの。
二兎を追う者は一兎をも得ずって言葉があるでしょ?今のままだと、きっと後悔する日が来るわ。
きっかけがあれば、答えは出せる。だから焦らないで良いのよ、。』





自分の気持ちがわからないなんて悔しい、そう言ったあたしを彼女は慰めてくれた。

まさに今が、そのきっかけなんじゃないだろうか。

ごめんなさい、ハーマイオニー。




「あたしも、好き」




ハッと顔を上げる双子。

黙り込んだの言葉を、待っていたのだ。




「二人のことが同じくらい大好き。──選ぶなんて出来ない」




二人に好きだと言われたことが、こんなに嬉しいなんて。

どちらかの気持ちを切り捨てるなんて出来ないの。



その瞬間。

フレッドが、感情に走って理性を失った。









身体が壊れてしまうんじゃないかと思うくらい強く、抱きしめる。

こんなにも彼女を愛しく思ったのは初めてだった。




「ごめんなさい。ごめんなさいごめんなさい!!」




俺の腕の中で、泣きじゃくる




「二人の覚悟を台無しにしてごめんなさい!」




どうやら、選べなかったことに対して負い目を感じているみたいだ。




「正直ホッとしてるよ」




俺の本心だった。

さらさらの髪の毛に指を通しながら続ける。




「ゆっくり考えていいからさ」

「少しでも長く、側にいたいけどね」

「今回は、の気持ちが聞けただけで大収穫さ」

「・・・ありがとう。」




は、極上の笑顔で笑った。

この顔が、俺達は大好きなんだ。




「ほらフレッド。いつまでそこにいる気だ」

「え」

「平等だ平等」

「・・・わーったよ」




渋々の身体から離れる。

即座にジョージと入れ替わる。

その時、ニッと笑ったのを見逃さなかった。

!?何か企んでやがる!

ジョージを引き剥がそうとしたときには、遅かった。



の細腰に妖しく手を回して。

身体をこれでもかというくらいに密着させる。




「これからは、こんなことも堂々と出来るんだよな」




そう言って。

と唇を合わせた。



一瞬の出来事で、声も出せなかった。

唯一理解できるのは・・・あたしが、ジョージとチュウしてるということ。

しかも。




「んっ」




何回も角度を変えての。

キスの嵐。

体中の力が抜けていく。

その隙を狙って。




「!」




ジョージの舌が入り込んできた。

嫌いじゃない。

抵抗できない。

受け入れてしまっていた。




「んんっ」




息が出来ない。

荒く、短くなってゆく。

ちらりと目を開けると、ジョージの目は真っ直ぐにあたしを見ていた。

ジョージの舌があたしを舐め回す。

唾液が、口の端を伝った。



ただ呆然と、目の前の光景を見ていた。

俺への当てつけのように、わざと大きな音を立てるジョージ。

時折こちらへ視線をやることから見ても、確実にわざとだ。

の顔は、紅くなっていた。

息が出来ないのか、目を細めていて、流れる唾液にそそられる。

───やばい。




「ストーップ!!!」




自分の興奮を抑えるように、大声で叫んだ。

ぴたりと。音が止む。

ゆっくりと唇を離すジョージ。




「はぁ・・・ん」




紅潮した顔で大きく息を吐く

くったりとした身体は、ジョージに支えられていた。




「ジョージ!やりすぎだっての!ももっと抵抗しろ!」

「ほら、こういうのって早いモン勝ちだしさ」

「や・・・突然のことすぎてどうも反応が鈍って」




あははと笑うはさておき。




「お前なぁ・・・」




ふつふつと沸き上がるこの気持ち。




「初○は俺だからな──!!」

「何言ってンの。そんなことさせるわけないだろ」




放送禁止用語を交えた二人の会話。

あたしは早くも、選択を間違えたかもと後悔し始めていた。




「え。やだもうこんな時間じゃない」




時計を確認して焦る。




「早く行きましょう!フレッドさん、ジョージさん!・・・あ」




言ってしまってから気付く。




「「せめて敬語とさん付けだけはやめてよね」」




同時突っ込みに、あははと笑う三人だった。




──好きな人が双子ならどうするかって?

どうするもこうするも、双子と言えど二人の別人。

ただどちらかを選ぶだけ。

自分の気持ちに、正直に従うだけ──。