もし。
この世に神様がいるのなら。
ただの気まぐれなのかもしれないけれど。
もし。
出会わなければ。
こんな想いはしなくて良かったのに。
もし。
──あなたの好きな人が“双子”なら、どうしますか?
「あーお腹空いたぁ!」
午前の全ての授業が終わり、寮へと戻る廊下の途中で。
あたし、・は叫んでいた。
「ホント!お腹と背中がくっつきそうだよ」
「大げさだなぁ」
ハリーが苦笑する。
「ロンはともかく、ってば。女の子なのにみっともないわよ」
「男も女も関係ないわよ。ねーロン」
「ねー」
大きな声で笑い合う。
これが、いつもの光景。
グリフィンドール寮生仲良し四人組のいつもの光景だった。
「いい天気だし、外で食べない?」
「賛成!」
と、いうわけで。
あたし達は小皿に取り分けた昼食を手にして外へ出た。
適当な場所を見つけてシートを広げた。
「いっただっきまーっす!」
手を合わせて、声高らかに言った。
「じゃないか!」
「ふぇ?」
骨付き肉にかぶりつきながら、名前を呼ばれた方向に見やる。
こちらに向かって駆けてくるのは。
「兄貴?」
ロンが呟いた。
「ジョージさん。フレッドさん。こんにちは」
やって来たのは、ロンの双子の兄達だった。
「やぁ。みんなで仲良くピクニックかい?」
「そんなとこだよ」
双子もグリフィンドール寮生。しかも先輩だ。
もちろん四人とも仲が良かった。
「あ、食べます?」
いっぱい持ってきたんで、とサンドウィッチを二つ差し出す。
「サンキュ。それより」
双子の片割れ・・・フレッド・ウィーズリーがサンドウィッチを頬張りながら言った。
「はい?」
「いつになったら名前だけで呼んでくれるんだ?」
「それと、敬語もやめてよね」
ジョージ・ウィーズリーもそれにならう。
「なんかもうクセになっちゃって。難しいんですよね」
「「ほらまた」」
「が・・・頑張るよ」
同時突っ込みに気圧されながら、微笑んだ。
「ねぇ。見てるこっちが恥ずかしくなるわよね」
「ホント。二人ともにぞっこんだ」
「は気付いてるんだか天然なんだか」
「そこがのいいとこなんじゃないの?」
「そうね」
「・・・二人とも何の話をしてるの?」
はてなをいっぱい浮かべているロン。
ハリーとハーマイオニーは、ウインクして笑った。
「は可愛いわねって話よ」
「げ。もうこんな時間だ」
ちらりと時計を見て、悔しそうに呟く。
「ちぇっ。折角会えたのにな」
「や、寮でいつでも会えるじゃない」
一応突っ込んでみる。
「それもそーだ。んじゃ、また後で!」
「ハリー達も!寮でね!」
なんとまぁ賑やかなこと。
まるで台風のようだ。
「私たちはついで扱いなのよね」
「恋は盲目っていうし」
「・・・微妙に違う気がするわ」
俺達がに初めて出会ったのは、廊下をすれ違った時だった。
反対側から歩いてきた弟とハリー、ハーマイオニーに囲まれるようにして彼女はいた。
一気に惹かれた。
何よりもその笑顔に。
ロンから、同じ寮だと聞いて胸が躍った。
と仲良くなりたい。
そんな気持ちから、学年は違えど暇があれば会いに来た。
早く覚えてもらいたくて。少しでも気に掛けてもらいたくて。
その成果があってか、最近では俺達を見分けれるようになってくれた。
凄く嬉しかった。
───後は。
俺達二人とも、彼女を好きになったことだけが問題だった。
「ジョージ。は俺と付き合うんだからな」
「寝言は寝て言えフレッド」
この頃は口を開けばこの調子。
親友のリー・ジョーダンは、いつもはらはらと見守っていた。
「あのさ」
だが今日は。
とうとう堪え切れて、こんな提案をしてしまったのだった。
「二人で告白して、ちゃんに選んでもらうってのはどうだ?」
「・・・・・・ぅわ」
「どうしたの?」
「わかんない。なんか寒気がしただけ」
「面倒なことが起こる兆候だったりして」
「やめてよハーマイオニー」
あながち外れてはいないのだが、そんなことは知らない二人。
「で、話って何かしら?」
ハーマイオニーが、本腰に戻そうとする。
ここは図書室の自習室。
本来ならこんな使い方は御法度なのだが、いいだろう。
もちろん、あたし達以外には誰もいない。
「まどろっこしいの嫌いだから、率直に言うわね」
「えぇ」
ハーマイオニーがうなずいたのを確認して、息を大きく吸い込む。
「あたし、好きな人がいるの」
「そう。どっちなの?」
「へ・・・えぇえ!?」
なんでなんでなんでェ!?
てっきり驚くと思ったのに。
なんで逆にあたしが驚かなきゃいけないのさ。
「あたしこれ、誰にも言ってないよ・・・?」
「見てたらわかるわよ。で?」
「───じゃあ、あたしがどっちを好きなのかもわかる?」
「・・・そういうことね」
やっぱり天才のハーマイオニー。
人の気持ちを察するのも上手い。
「ってか、こんなんじゃ好きなんて言えないよね」
最近よく喋ったりしていたから。
勘違いしてるだけなのかも。
うん。
そう思おう。
「ごめん、手間掛けたね」
「もしもの・・・仮の話よ」
席を立とうとしたとき、ハーマイオニーがどこか躊躇いがちに口を開いた。
「フレッドもジョージもあなたのことが好きで、二人に告白されたら・・・はどうするの?」
リーは正直焦っていた。
まさか、こんなことになるとは思っていなかったから。
「ちゃーん!」
校内を、名前を連呼しながら走り回る。
もちろん、双子に伝言を頼まれたからだ。
「グリフィンドールの・?確かあっちにいたような気が」
「どーも!」
何度目だろうかこのやりとり。
しかし、自分で巻いた種だからどうしようもないのが現状。
「──お。みーっけ!!」
後ろからでもすぐわかる容貌。
やっと見つけたぞ!
「ちゃん!」
立ち止まる。ゆっくりと振り向く。
「リーさん?」
困惑した表情の。まぁ当然か。
珍しく彼女は1人だった。
「ちゃん。今すぐ塔へ行ってくれ」
いつになく真剣なリーさん。
「塔・・・?なんでまた」
「ウィーズリーが待ってるんだ」
「・・・ロン?」
「いんや。双子の方さ」
瞬間、ドキッとしたのがわかった。
やだ。さっきのハーマイオニーとの話も手伝って・・・自惚れたこと考えちゃうじゃない。
「わ・・・わかりました」
気付けばうなずいていた。
リーの気迫に押された、というのもあるかもしれないが。
あたしの直感が、何より先に立ったのだった。
「んじゃ、よろしくぅ!」
晴れ晴れとした顔のリーさんが元来た道を戻っていった。
・・・何が起こるか、大体想像できてしまうんだけど。
いや、自惚れてはだめ・。
自分の目と耳で確かめなくては。
寮へと戻り掛けていた道を塔へと方向転換して、再び歩み始めた。
すると、ホグワーツでも有名な生徒の1人がやって来た。
できればあんまり関わりたくはなかった。
「・。ウィーズリーには気を付けた方が身のためだぞ」
すれ違いざまに、彼──マルフォイは言った。
隣にはもちろん、クラッブとゴイルを携えている。
「マルフォイ?どういうことかしらそれは」
「おやおや心外だな。そんなこともわからないのかい?」
いつもはすぐにこてんぱんに言い返すところだが、ぐっと耐える。
「男を甘く見るもんじゃない、ということさ」
心配してくれてるのだろうか。
いやまさか。
きっと、楽しんでるだけなのだ。
「ご忠告ありがとう。肝に銘じるわ」
適当にあしらってから、お互いに背を向けあった。
塔へと近づく度に、胸のドキドキは増していくのだった。