さくさくとバスケット一杯の食料を抱いて、

叫びの館へと歩いていく。

新聞を咥えた奇妙な黒犬が、

びくりと固まって、新聞が口からポロリと落ちた。




「可愛らしくて頭のイイ犬ね?」




目を見開いて、耳と尻尾をピンと立て、

背筋をしゃんと伸ばしたまま、

が歩いてくるのをじっと見つめている。




「貴方が人語を話せるところまでご案内くださる?」




力なく吼えた黒い大きなワンコは、

しゅるんっと、途端に力なくたれた耳と尻尾をぷらぷらさせながら、

自分が今寝床にしている場所へと移動した。




「何か言いたい事はないの?」




腰を落ち着けて、バスケットをこれ見よがしに開きながら、

人型に戻ったシリウスに問う。




「・・・・・・・・すまん」

「それだけ?」

「ゴメンナサイ」

「ねえ、これでも心配してるのよ?」

「・・・・・・悪い」




一生懸命に笑おうとして引きつった口元。

歪んだ瞳が、もう、止められなかった。

優しく腕に収まった彼女は、とてもとても小さくて。

謝罪の言葉しか、口をついて出てこなかったのだけれど。




「許してなんてやらないわ」



「もう、本当に、死んで欲しくないの」

「オレは死なない」

「・・・・・っ!」




ぽろぽろと汚れた服にシミを造っていく涙。

彼女の涙なんて、学生時代でさえ、見たことがなかった。

を包む何かが、きっと沢山の変化をもたらしたのだろう。

少しでも感情をさらけ出せるのなら。




「これからは無闇に動かないようにする」

「あなたの無闇は死に直結するのよ?」

「嗚呼」

「去年もちゃんと忠告したでしょう?」

「嗚呼」

「莫迦、大莫迦」

「嗚呼」

「生きてよ」

「お前もだ。




君の笑顔が見たいから生きる。

だから、君も死なないで。

生きて。




「さて、お腹減ってるでしょう?」




尻尾を千切れんばかりに振っているに違いないシリウスに、

バスケットを差し出す。

がつがつとシリウスが中身を平らげる間、

は今、課題に立ち向かっているであろうハリーの事や、

眉間のしわを増やしているだろうスネイプのことを思った。




「絶対に、死なせない」









シリウスに食事を渡した次の日の朝。

3人と騒がしい大広間で食事を取る。

一ヶ月に一度、あるかないかの光景だ。

何せ、も、騒音が憎いから。



そんな時に飛んできた、大量の梟。

いつも新聞を購読しているハーマイオニーを知っている所為か、

流石のもポカンとして、

スープをスプーンに乗せたまま、空を見上げている。




「・・・・・・・・餓鬼臭い事この上ない手紙ね」

「同感だ」

「ハーマイオニー?」

「いいわ。気にしてないもの。それよりあの女!!絶対尻尾掴んでやるわ!!」

「すげえな」

「そうだ!の造った盗聴器なら、ホグワーツでも使えてる!!」

「私がそれをあの糞婆にあげるという思考にたどり着くところが、
まだまだ子供ね?ウィーズリー?」

「ちょっちょっと思ってみただけだよ!!」

「それより、素晴らしい人気だと思わない?ハリー?」

「やめてよ。嬉しくない」




振ってくる手紙たちを一気に燃やし尽くしたは、

こんな馬鹿な女に好かれたって。

と、後に続いた台詞ににっこりと笑いを帰した。

ハーマイオニーはと言えば、

物凄いスピードで大広間を出て、

自分の為に、情報を集めに行ったところだった。




「賭けるか?後何日でグレンジャーがあの婆の尻尾を掴むか」

「見ものね」

は知ってるの?」

「目星が付いているとだけ言っておくわ」

「いつもそればっかり」




穏やかに笑った彼女は、

自分達に有益な資料しか与えない。

けれど、それはあまりにも膨大。

だから、自分達で見つけるのだ。

その中に隠された答えを。






「お早うございますスネイプ先生。なにか?」

「話しがある」

「直ぐ済みます?」

「一分も掛からん」




嘘付け、と内心で思いながら、

行かない方がイイと連呼する彼らを残して、

はスネイプの後に続いて大広間を出た。

丁度食事時の今。

廊下には人っ子一人いない。




「何故!!あのポッターに鰓昆布をやった!!」

「助けるって約束したもの」

「アイツとか!!」

「どうしてハリーをそんなに嫌うの?彼はジェームズじゃないわ?」

「っち!!」




過去に縛られているのは・・・・誰?




「ねえ、勘違いしないで。私は誰も憎んでない」

・・・・・」

「貴方の事も、トムのことも。勿論、ヴォルデモートのことも」




びくりとスネイプの肩が上下し、その名を口にするなと、

か細い声が返ってきた。




「私は、約束を果たしたいだけ。彼らが好きなだけよ」

「嫌な趣味だ」

「もう誰にも、死んで欲しくないの」

「我輩は、お前だけには死んで欲しくない」




だから、逃げて下さい。

かの者が近づいてきたその瞬間に。

君を、殺したくはないから。



大広間から生徒の波が出てくるのと同時。

2人は全く逆の方向へと脚を進めた。