「貴方は誰の幸せを願うの?」





贈ったのは指輪。

けれど、判る。

あの、紅い紅い宝石。

一角獣と、彼女の血を固めて創った、たった一つの石。

自分ではなくて、彼女の、誰かのシアワセを、初めて願った意思。




「受け継がれていたとしてもおかしくはあるまい?」




高価なものだ。

家宝として受け継がれていたとしても、

筋は、まあ、通るといえば通る。



そこから長々と始まった失脚からの記憶を、

は黙って聞いていた。

の緊張は解けない。

ハリーの震える手を握りながら。



長年見てきたからか、

彼の動向が手に取るようにわかる。

に下がるよう囁いて、ハリーの手を握る力を、さらに強めた。




「生きなきゃダメよ?」

「うっうん」

「どんな事があっても」




父が、母が死んでも。

友が死んでも。

愛する人が死んでも。

ゆっくりあげられる杖が、とてもとてもスローモーション。

押された背中。

尻餅をついた瞬間飛び出した魔法は、に直撃した。




「裏切りの娘は所詮裏切りの娘か?」




声なんてあげない。

ホグワーツで感じた焼けるような痛みのように、

ただ、その時が過ぎるのを待つ。




「なかなか強情だ。だが、俺様が相手をしたいのはお前ではない」

「どうする気?私を殺す?」

「後でじっくりな」




ぼそりと呟かれた言葉。

紅い光に包まれて動かなくなった身体。




!!」

「何をっ・・・・!!」

「そのピアスに嵌まる石を付ける者は俺様の者」

「だったら外せば・・」

「触れちゃダメ!!」




響いた怒声は、まるで墓場中に木霊している様だ。




「その通り。その石には、家のものしか触れられぬ」

「触れれば、どうなんだよ」

「死ぬ」

「貴方は生きてハリーを守りなさい!!」




自由が利かず、横たわったまま、は叫ぶ。

けれどここには彼の家族と称するものが大勢いるのだ。

一斉に構えられた杖は、全て彼の元へ。




「難しい命令だな」

「クルーシオ」

「ハリー!!」



護れないの?

護りたいの。

護りたいの?

悶え打つハリーを見ながら、何も出来ない自分。

まただ。また。

いくら生を繰り返しても、止まぬ過ち。




「苦しいか?いやだと言えばやめてやるぞ?」




そう言って飛び出した服従の呪文は、またもハリーを苦しめる。




「イヤだと言え」




木霊する声が、脳の中で反響して、

それだけで頭を破壊されてしまいそうだ。




「イヤだと言えばイイ」

「シアワセは生きなきゃダメよ」





知ってる。

知ってる。



はっきりと示した意思表示は、決して、死なないと言う事。

死ぬかもしれない。

けど、まだ1つも呪文を使っていない。

自分が生きるための呪文を。




「エクスペリアームス!」

「アバダケタブラ」




紅と翠が交差した。

その瞬間解けた呪縛。




「そいつらを足止めして!!」

「了解!!」

「ハリー!その手を離しちゃダメよ!!」




走ってくる。

自分の大切な人。

金色のドームに滑り込んできたは、

ハリーの手に自分の手を重ね、杖をさらに強く握った。




「これは・・」

「帰ってから説明してあげるわ。前を見なさい」

「うん」




押し返されていく翠の光。

彼の者の杖から出てきた灰色の物体。

死して彼を想い続ける者達。

怒り。

憎しみ。

嘆き。

悲しみ。

愛。




「ハリー、がんばれ」

「うん」

「やっつけろ、坊や・・・」

「うん」

「離すんじゃないよ!」

「うん」




一つ一つの言の葉に答えて、少しずつ少しずつ握る手に力をこめていく。

隣で、もきっとヴォルデモートを見つめてるのだ。

次に杖から出てくるのはきっと・・・・。

が死喰い人と応戦しているのが横目に見えた。



黒髪の女性の姿が見えてくる。

途端震えだしたを、ハリーはどうする事も出来ず、

の分も強く強く。




「約束を果たせているわね」

「本当に果たせているのかしら」

「そうね。これから出てくる人達に聞いてみると良いわ」

「彼らを殺したのは私の杖よ?」

「けれど、私は、貴方は繋がっていた」




ヴォルデモートを見つめる4つの夜色の瞳。

苦痛に顔をゆがめる彼は、

何がなんだか分かっていないようだ。

そんなにも強い絆。

そう、もっと昔から。

貴方をはじめて想い、風に吹かれた栗毛を掻きあげた、あの日から。



見えてきた赤茶に、今度は別の意味で、

は震えを強くする。




「お母さん・・・・」

「お父さんが来ますよ。大丈夫。頑張って」

「・・・・・っあ」

ね。髪の色は変わっても、私達は友達でしょう?」

「リリっ・・・っ!!」

「息子を支えてくれて有難う」

「ジェームズ!!」

「少しの時間なら稼げる。移動キーのところまで走りなさい。
も一緒に連れて帰るのだよ?」

「はい。父さん」




まだ、気付かないのね。

涙が溢れて、それに問いを返す事が出来なかった。

何に。

其れが、答え?

自分と同じ瞳を見つめ返す。




「今だ!!」