ざあざあと、鬱陶しい程の雨が降る、
新学期初日のキングスクロス駅は、やはり、
妙な荷物を持った連中でごった返していた。
まあ、9と4分の3番線に入れば、どうってことないのだけれども。
「お疲れ様」
「なんか俺、休暇過ごした記憶がねぇ」
「正常よ。貴方が休暇に当てられたのは最初の2週間。
其れも課題こなしの為につぶれてしまったしね?」
「生徒なんかになるんじゃなかった」
「強要はしなかったわよ?」
「知ってる」
見張りだったりまあ色々、やつれ顔のと共に、
まだ空いているコンパートメントから1つを選び、
鍵をかけ、窓を閉め、完全に外界から遮断した。
もちろん、安眠するためである。
まあそれも、窓の外の騒がしさに、
顔をしかめる結果に終わるのだけれども。
からりと窓を開ければ、
眼を細めたくなる赤毛の集団が其処に。
「今生の別れでもないんだから、もう少し静かに出来ないの?」
「!久しぶり。これお土産」
「ありがとうハリー。私昨日も眠れてないから寝たいのだけど?」
「そんなことより姫!!!」
「あの時一体誰とデートなんか!?」
「デート?」
「ええ。ドレスローブを買いにね」
「誰と?」
「今に判ると思うわ」
「誰だい?」
「グリフィンドールの姫さ!!」
「紹介になってないし」
「・と言います」
「・・・・?」
彼ほどの年代なら、
必ず顔をしかめる名前。
伊達に闇の陣営で先陣を切らされていたわけじゃない。
其れを見て自嘲気味に笑うに、
至極心配そうな目線を向ける。
過去から切り離した今を見ようとしているのに、
どうして、どうして。
わざわざ結び付けてくれやがる輩。
そんなもの、大嫌いだ。
「そうやって脅えた瞳を向けられるの、とても胸糞悪いので止めて頂けません?」
「あっああ。すまないね」
「こっちがチャーリーで、こっちがビル」
「僕らの兄で、とっても出来がいい!」
「出来がいいだけではつまらないこともあるわよ?」
窓枠にひじを乗せて、第一印象最悪のレッテルを貼る。
嗚呼。なんだか、眩しい。
「それより姫!!相談したい事があるんです!!」
「ハリーとの話が終わってからでもいいかしら?」
「もちろん!!」
「?」
「聞いて欲しい事があるっていっていたでしょう?」
「あ・・・・うん。それじゃあ、行って来ます」
そう赤毛に手を振って、覚えていてくれたのかと、
少しばかり機嫌の良くなったハリーは、
2人を放って、のいるコンパートメントへと足を伸ばした。
ロンはずっとぶちぶちハーマイオニーに愚痴っている。
どうやら、赤毛ファミリーに対するの印象も最悪らしい。
再び窓に鍵をかけるのと同時くらいに、
ハリーがコンパートメントの扉を叩いた。
鍵を開け、中に促す。
どうやらトランクは別のところにおいてきた様子。
「それで?」
「・・・・・・休暇中、傷が痛んだんだ」
「だから?」
「この間、傷が痛んだときは、ヴォルデモートが近くにいた時で・・・・」
「まるでヴォルデモート発見器ね」
「・・・・ボク、真剣に話してるんだけど?」
ドコからともなく珈琲を取り出してすすりながら、
全く親身に受け取らない。
「何を?ヴォルデモートがプリベット通りに出たんじゃないかって言う危惧?
それとも、この痛みをどうにかして欲しいと言うお願い?
私にどんな答えを求めているのか判らないから流しているのよ」
「え・・・っと・・・」
「貴方が私に相談・・・と言うより質問に来るときはいつもそうね?」
しゅるりと音を立てて消えたカップ。
シリウスに書いた手紙でも、どうしたんだろう。
何を聞きたかったのか判らない。
頭が真っ白になっている。
「ヴォルデモートが力を付けている事は判っている筈でしょう?」
「うん」
「復活も間近なんでしょうね。闇の印が打ち上げられたとするなら」
「うん」
「それらを踏まえて私に聞きたい事は?」
「・・・・・・ない・・・と思う」
「そうね?」
「ごめん・・・・」
「かまわないわ。
それより、其れが判っているなら、去年よりを警戒を強めなさい」
「判った」
「ほら、表で御2人さんがとても心配そうに見守っているわよ?」
「え?」
俯いた顔をあげれば、
本当に心配そうに見守っている2人の姿。
まあ、道を通る人達の邪魔になっているのは置いておいてだ。
お互いに笑顔を向けて、
は文庫本に、ハリーは2人の友達に目をやった。
「いいのかあれで」
「いいも悪いもそのとおりでしょう?」
「腕、痛むんだろ?」
「そうね。あれからずっと」
「もう、復活してんじゃねぇか?」
「なら、仕掛けてこないのはおかしいもの」
「力が足りねぇ・・・・か」
ぱたんっと読み始めたばかりの本を閉じて、
窓の外に目をやる。
何度も見た飛ぶように過ぎていく景色は、
少しだけ、の心と体を癒す。
「多分、眠っているだけでは取り戻せないのよ」
「どういうことだ?」
「これは憶測でしかないけれど、
ハリーをかすった傷跡に、少しだけ魔力が感じられる」
「そりゃ、呪いの傷だからな」
「そう。呪いよ。あの傷から流れ込んだヴォルデモートの魔力のね」
「・・・・・・・・・・まじか」
「考えられなくはないわ。もしこの仮説が本当なら、
ヴォルデモートは、ハリーの血を飲むか、ハリーごと吸収するかしないと、
元の力の半分も取り戻せない事になるでしょう」
だから今も生きている。
もし、襲えるだけの戦力がヴォルデモートの元に集結しているのだとしたら、
三大魔法学校対抗試合が行われて、
お祭り騒ぎの続く今年こそ、
ハリーを生身で捕らえる最高の機会だ。
「どうやら、休息する暇はなさそうね」