ゴブレットに名前を入れる期間が過ぎ、
発表日の今日は、ハロウィンだ。
甘ったるいカボチャの匂いしかしない大広間に、
顔をしかめて入ってくるのは、とくらいだろう。
「全員の嗅覚を疑うわね」
「同感だ」
気持ち悪くなっていく気分を何とか保たせて、
生徒の視線が注がれている教職員席へと顔を向けた。
今しがたご飯を食べ終わったばかりのダンブルドアが、
そりゃあもう楽しそうにゴブレットを見つめている。
「さて、そろそろ決まったようじゃの。
名前を呼ばれた代表選手は、前に出て奥の部屋に行くように」
その言葉を合図にしたように紅くなった炎。
飛び出して来た紙を一つ一つい読み上げていく。
その後に来る歓声に、耳を塞ぐは、至極不機嫌そうだ。
教職員席にも1人、そういった輩がいるが・・・・。
「おかしいわね」
「何が・・」
そう言い掛けたの眼に映ったのは、
4度目の、紅く燃える炎だった。
呼ばれた少年は、とてもとても驚いた顔で恐る恐る教壇への道を歩んでいく。
すっと立ち上がったは、其れに続いてゴブレットの方へと進んでいった。
いきなり立ち上がったにも集中する数多の視線。
ゴブレットの目の前で立ち止まり、
誰にでも判るほど、顔を顰める。
その横を、不安げに通り過ぎていく影。
「どうしたかね?」
「・・・・・・・答えない」
「は?」
「私の可愛い娘を壊したのは、何処のどいつかしら?」
「?」
「スネイプ教授、向こうで話しているダンブルドアを呼んで来て頂けます?」
「あっああ」
「それと、ポカンと莫迦面下げている生徒達を収集なさった方が良いと思いますわ?」
それだけ言ったは、の元へと一度戻った。
驚きから、警戒へ表情を変えた。
予想は付いているが、今はまだ、時期ではない。
あの、偽教師を、これからどう扱うか。
大広間から渋々といった表情で出て行く生徒達を見やって、
幕裏で行われているであろう不愉快な会話を思い浮かべたは、
溢れそうになった怒りを押し込めた。
「あ・・・・・」
「お疲れ様ハリー」
「う・・・ん」
「それじゃ・・・・またね」
「また・・明日」
隣にいたハッフルパフ生をスルーして、
疲れきっているハリーに近づく。
言いたい事などもう、判っているから。
「ま、予想の範疇ね」
「ボクの命が狙われていること?」
「そうよ。まあ、仕方ないわ。
相手は貴方じゃ太刀打ちできないような魔法使いでしょうから」
「・・・・・・・・は、信じてくれるの?」
「何を?」
「ボクが入れてないって」
「信じる?貴方が紙を入れることは無理なコトだもの。
たかが3年勉強した魔法使いが、あのダンブルドアを凌げるほどの魔法を?
有り得ないわ。天地がひっくり返ってもよ」
「そうだよね」
「頭の悪い連中なんて放っときなさい」
「うん。ありがとう」
「生きるの。どんな事があっても。
今回ばかりは少しの答えも許されるでしょうし。迷ったら聞きに来なさい」
「判った。僕、眠るよ」
「おやすみなさい」
「おやすみ」
狙っているのは十中八九あの人。
今から力を付けておく事。
自分に出来る限界を知って、さらに力を求めさせる。
その為なら、多少の誘導尋問的なことも、許される・・・・・筈だ。
月明かりの中、とぼとぼと去っていくハリーを見送って、
出てきていたダンブルドアに向き直った。
「話しがあるとセブルスから聞いたが?」
「ゴブレットが答えなくなりました」
「それは・・・・」
「最悪の事態を思い浮かべて頂ければ良いです」
「契約とは時に、無意味なまでの鎖となるのぉ」
「それは承知の上だった筈。生き残るためのハードルと考えましょう」
「そうじゃな」
「守ります。どんな事があっても」
「命を無駄にしてはならぬぞ」
「私の中で命は、数えられるものになりましたから」
嘲笑を浮かべるその姿は、とてもとても高貴な様。
まるで、菩薩のように。
いけない。いけない。
炎の消えてしまったゴブレットは、鎮座したまま、沈黙を守り続けている。
恐ろしい、闇がやってくる・・・・。
闇に紛れようとする布擦れの音が、
の耳を素通りする事はない。
「セブルス、立ち聞きは良くないわ?」
「・・・・・・・・いつから気付いていた」
「初めからよ」
「良い良い。聞かれてならぬ事ではない」
「意味不明でしょうしね」
「まったくだ」
「開き直らないの」
「セブルス、もう遅い。を寮まで送り届けてくれるかの?」
「承知しました」
おやすみなさいと頭を下げて、暗闇を進む。
こつこつと響く足音は、いつかのように淋しく響いた。
「どうした。痛むのか?」
「ずっとなの。ここの所ずっと」
腕を押さえていたに問えば、笑って帰ってくる答え。
蛇と髑髏が嘲笑う。
光を求める哀れな自分を嘲笑う。
「何故、早く言わない」
「言った所で引く痛みじゃないもの」
「だが!」
「今は考えるべき事が沢山あるのよ。
それに比べたらこんなもの、どうでもいいことでしょう?」
自分に刻まれた戒めよりも、
あの子の幸せを考えて、光のある方向へ導く方が。
苦虫噛み潰したような表情になったのはスネイプだ。
腕の傷みは時に死をも連想させる。
それは、自分も良く知っているから。
だから、言い聞かせるように笑うを、抱きしめていた。
「痛み止めくらいは作ってやれる。
次に痛んだら直ぐに我輩のところへ来い。いいな?」
「でも・・」
「いいな?」
「ふふっ・・・・・いつの間にか強引になったわね」
「」
「判ったわ。ありがとう」
やってくる。
夜の闇が、やってくる。