「で、何ですか?」

「うむ。50年前の事件についてと、それ以前のことじゃ」

「それ以前の話を今する必要はないでしょう?」

「けれど、睡眠不足の生徒を、彼女が心配しておってのぉ?」

「倒れはしませんのでご心配なく。まあ、50年前の事なら」



笑顔を向けてくるむさ苦しい写真達から逃れて、

隠し部屋まで来た5人は、

椅子に落ち着いて、珈琲を口に運んでいた。




「少し失礼かもしれませんが、マクゴナガル教諭?」

「なんですか」

「席を外して下さい」

「なっ何故です?!」

「私の体質を知らない方に、これからの話を聴かれたくはありませんので」




口先だけのお願い。

本質は、命令。

貴方が出て行かねば、私が出て行くと、

眼で訴えているのがはっきりとわかる。




「判りました」

「すいませんね」





気を悪くは、そりゃあするだろう。

ばたんといささか大きな音がした扉を見やり、

残った2人に眼を向けた。




「50年前の話と言っても、ダンブルドアは見知っている筈ですが?」

「見てのとおり老いぼれじゃからな、ちいとばかり記憶が薄れているようじゃ」

「ご冗談を。で、セブリンは・・」

「誰がセブリンだ。誰が」

「空気を和ませようとしただけじゃない」

「見た目と中身のギャップは変わってないのだな」

「そりゃそうよ。だって、中身が同じなんだもの」




ずっと、ずっと。




「良い事を思いついたぞ?」

「・・・・あまりお聞きしたくないのは私の気の所為ですか?」

「もちろんじゃ」

「(胡散臭い・・・・・)」

「それより以前の話と引き換えに一人部屋。どうじゃね?」

「そういうのなんていうか知ってます?」

「知らんのう」




もうろく爺がと思いつつ、はあっと盛大な溜息をついて、

1人部屋のためなら仕方ねぇなと笑うを睨んだ。

嬉しい。主の過去を知ってくれる人。

受け止めてくれる人が、増える。増える。












「やっぱり外は気持ちイイわね?」

「そろそろ戻らないと、またサラザールに怒鳴られるぞ」

「少しの休息よ」

「どこが少しだ」




最初の灯火がともされて、彼女は平穏に暮らしていた。

ホグワーツという学校の創立者として、仲間と共に。

かれこれ3時間ほど湖のほとりに座っているだけだが・・・・。




〜〜!!やっぱりここにいた」

「ゴドリック。どうしたの?」

「いや?とお茶でもと思ってね?」

「お茶でもじゃないだろう。
呼びに言ったお前まで和んでどうする。やはり私も来て正解だったな」

「サラ?なんにせよ休憩は必要よ?」

「作業より休憩時間のほうが長いだろう」

「あら。ばれてた?」




栗色の巻き毛が揺れる。

ふうわり揺れる。

愛しい者の傍で、彼女は笑う。

至福の時だ。

そう長くは続かないけれど・・・・・。

いったん作業場所に戻って、各々の担当場所の再確認。

重そうに口を開いたのは、

マグルからの眼晦まし術を城にかける筈だったオンナ。

狂い始めたのは、その一言から。




「なんだって?ロウェナ?」

「だから、壁を作るために贄がいるから、私が行くって言ってるの。
術はそこに書いてあるからそれで誰かがかけてくれればOKよ」




どんな気持ちで笑った?

つくり上げていたモノが、脆く、儚く崩れ落ちる瞬間に。




「止めろロウェナ。ロウェナが行くなら僕が行く!」

「何言ってるのゴドリック!障壁の担当は私!」

「もう少し考えろよ!!5人で創り上げるって約束しただろ!」

「でもヘルガ?誰かが行かなくちゃ、この学校は完成しないのよ?夢を諦めるの?」

「誰も、そんなことは・・・・」




生涯かけて築いてきたユメを?

一気に冷める暖かい空気。

誰も、救ってなんかくれない。




「私が行くわ」




静まる場所に響いた声は、

またも静寂を生むことしかしなかった。

声を出したいのに、声が出ない。




「寮を持たなくて正解だったわね。明日の正午その時間に決めましょ」




そこまで告げて、立ち去る

あくまで凛と、そこに在って。

災いの色だと蔑まれた、貴方と同じ色の瞳。






「サラ」

「綺麗な瞳だ」

「貴方と同じよ?」

「私の瞳も美しい。そういったのはだろう?」

「そうね」




夜の、においがする。

大好きなにおい。

貴方のにおい。

持って行く。どこまでも。

他愛も無い会話。

笑い合って、叩き合って、ふざけ合って、じゃれあって。

いつもと変わらぬ友の態度。

それがやけに嬉しかった。




「それじゃあ、始めるわね」

「そんな顔しないで?折角の美人が台無しよ?」

「あらそう?」

「私の事忘れたら承知しないわよ?」

「肝に銘じておく」




死んだらどこに行くのだろうとか、

幼いころに考えた疑問がふと、頭をよぎる。

泣かないで。

泣かないで。

悲しそうな瞳で呪文を口にする貴方達なんか見たくないわ。















でも、目覚めた先は、地獄でも天国でもなく、

誰かの笑顔が飛び込んでくる、真っ白な病院の天井。

何が起こっているのか分からないまま、

つい昨日まで作りかけだった学校に通い、

彼を書物の中で見つけたの。



置いていかれたのはどっちだろう。

似ている彼に求めたものは、

泡沫のユメ。




「犯人を捕まえたんだ。すごい?」

「どうかしら」

「喜んでくれないんだ?」

「私の情報だと、貴方が捕まえたのは無実の魔法使いよ?」

「・・・・・・・・・・」

「魔力が強すぎるのも問題ね」

「・・・・・・・・・・」




抱きすくめられていた腕を払って、

睨みつけた瞳は、自分と同じ紅。

彼と同じ紅。

ダメだダメだダメだ。

私に貴方は殺せない。

だから、止めて。

それ以上、あの子に苦しい思いをさせないで。




「バジリスクを悲しませる貴方を許したくない」

「なっにを・・・・」

「貴方はいづれ、この学校も、世界も滅ぼすでしょう?」

?落ち着いて?どうしてそんなこと言うの?ねぇ?」




壊さないで。

ココだけが、彼とつながれる唯一の場所だから。

私を・・・・壊さないで。




「彼方はあまりにも内に秘めた憎しみが強すぎる。だから・・・・・・アバダ・・」

「アバダケタブラ」




何故か死ぬかもしれないという覚悟と、

もう一度生まれてくるのだろうという期待と確信。



碧の閃光が飛ぶ。

己の身体に向けられていた、もう1本の杖。

リドルに向けていた杖は、その原形を留めず・・・

が座っていた所には、黒い痕。

彼女の姿はどこにも無くなっていた。




「どうして・・・・僕は・・・・僕は本当に君を愛していたのに・・・・。

ねぇ?君は一度でも僕を見てくれていたかい?

いつも僕を見てるようで見てなかったよね。・・・」




黒い痕を撫でながら、先刻まで愛する人が座っていたそこを撫でながらリドルは呟く。

初めて、そう、初めて、愛しいと思えた存在。

リドルは気付いていたのだ。彼女が自分を見ていないことに。

他の誰かと重ねていることに・・・・




「やぁ、この前のテストは負けたよ」

「どうして笑うの?」

「え?」

「彼方の笑いは、酷く滑稽よ?」





中間試験で自分を抜いた彼女に話しかけた。

それが出会い。




「なにを・・・」

「偽善するなら、もう少し気付かれないようにやったら?」





イイ子のトム・リドルじゃなくて、はっきりと、この僕を見て彼女は言い放ったっけ・・・

その時から、僕は君に惹かれっぱなしだった。



どれだけ愛の言葉をささやいても、

どれだけ、僕の身体と一つになっても、

君は決して、僕の瞳を見てはくれなかったけれど・・・

初めて自分を見つけてくれた、自分に気付いてくれた彼女を本気で愛した。

彼女を繋ぎ止めておく為ならどんな事でもしただろう。




・・・・君がイナイノナラ、どこへ堕ちても同じだ・・・」