「その辺適当に座って」
「あっうん」
ガーゴイルが動いた事や、蛇語の合言葉。
のこのこ着いて来たは良いが、
さして親密でもない彼女と、何を話すべきなのか。
そもそも、何の話をしてくれるのかすら判らない。
「紅茶がいい?珈琲がいい?」
「じゃあ、紅茶で」
「さて、パーセルマウスの事は聞いた?」
「蛇語を操れる人だよね?・・・・希少な」
「そうよ。ちなみに私もそう」
「うん」
「何故、ヴォルデモートが貴方を狙うのか」
「判らない」
「いい答えだわ。けれど狙われている事も事実よ」
「うん」
ことりと置かれた紅茶は、全てを見透かすように笑う。
「私の昔話も一緒に聞いてもらいましょうか」
「へ?」
唐突に言われて、なんとも間抜けな声を出してしまった。
滑りそうなカップを慌てて持ち直して、
まじまじとを見やれども、真剣な眼差しは変わらなくて。
「信じる信じないは自由だけどね?」
「・・・・・・・・判った」
「そう。じゃあ先ず、私の体質から話すわ」
昔々の記憶まで、ストックを続けるこの脳は、
いったいいつになったら破裂するのだろうか。
思い出してと叫んでも、主は何も思わず。
今日もまた、誰かのシアワセの為に命を投げ打つ。
気づいて気づいて。
ココロが叫ぶ。
「理解できた?」
「うっうん・・・」
「ちなみに、今の私のもう1つ前は、貴方の両親の時代よ」
「え?・・・・・・・はや過ぎない?」
「そうね。意識的に自覚をはじめたのは、既に5歳ほど年を取った後だったわ」
「そんな事・・・・」
「言ったでしょう?信じる信じないは自由だって」
ありありと思い出される記憶の中にある自分。
明るい記憶も、暗い記憶も。
時計の針は、既に12時を過ぎており、
ハリーの集中力は途切れかかっていた。
けれど、険しくなったの表情を読み取るくらいはまだ出来て、
何故だか、この先を聞きたくないような、そんな気がしてならない。
「ハリー・ポッター。貴方にヴォルデモートの記憶はない」
「そりゃ、赤ちゃんだったし・・・・」
「だから、貴方の両親を、本当にヴォルデモートが殺したのかすら判らないわけね?」
「え?どうゆう・・」
はたっと思い至った結末を、ハリーは飲み込むしかなかった。
切れ長の夜に見つめられて数秒の沈黙。
重たい唇を押し上げて、の口から出た言の葉は、
ハリーをどん底に突き落とすのには十分すぎた。
「貴方の両親、ジェームズ・ポッターとリリー・エヴァンスは、私が殺した」
「・・・・・・・・・っ!」
「抗う隙も与えずにね?」
「そっそんな筈・・・」
「あるのよ。貴方も発作を見たでしょう?」
「あっ・・・・」
「役立たずをみるとね、殺さなきゃいけないって思うのよ」
「パパもママも役立たずなんかじゃない!!
まれに見る立派な魔法使いだったってハグリットが!!」
「ヴォルデモートにとっては役立たずだったわ」
だから、殺さなくちゃいけないと、頭の中で響いたのだから。
煩いほどに時計の針の音が。
淡々と語る彼女に覚えたの怒りか絶望か。
立ち上がって叫んでいたハリーは、
力が抜けて、再びソファーへと腰を沈めることになった。
「だけど、ヒカリを思い出したのも事実よ」
「え?」
「だから私は、死の呪文を彼に向けたんだから」
過去差し出されていた、今は動かぬ腕を見ながら、
振り返って杖をかざし、口から告いでた望み。
けれど、伊達に君臨しているわけではないのだ。
それ相応の力があって。
「じゃっじゃあ、この傷は!?」
「彼の呪文が流れでもしたんじゃない?死んだから判らないわ」
「ごッゴメン!!」
「何に対しての謝罪かしら?」
その睨みに、少し怒気が含まれていて、ハリーはびくりと強張った。
死んだという言葉。
その瞬間すら覚えている呪われた自分。
機械だったら、壊せた筈なのに。
「は、どうしてボクにその話を?」
「パーセルマウスだということが判って、
あちらさんと何かつながりがあるのかもしれないと思われてる今、
狙われやすくなっているのは勿論の事。だから・・・・」
少しの間。
冷たくなっていく視線に気付かざるを得なくて、
頬をつうっと冷や汗が流れる。
「自分が無力だという事を知って、あまり1人で出歩かない事ね」
自分は英雄でもなんでもない。
の今までの話を信じるならそれは、陽を見るよりも明らか。
ヴォルデモートを倒したのは自分ではないから。
「ああそう。貴方のお友達と出歩くのも同じ事よ?」
「え?でも・・・・」
「無力なもの同士が固まって何の意味があるの?
実際貴方は、下衆に骨を抜かれて、少しの間動けない状態だったでしょう?」
「そう・・・・だね」
「考えなさい?魔力もあまりない貴方が、彼から逃れる方法を」
そして、生きなさい。
「もう1つ、聞いてもいい?」
「どうぞ」
「ボクに、忠告してくれたのはどうして?」
無力だという事は判った。
けれど、そんな自分を心配・・・したのかは不明だが、
身を案じるような今までの言葉。
彼女が言うように、親しい友達でもないのだから。
「シアワセは生きなければいけないからよ」
「シアワセ・・・?」
「貴方は2人の幸せ。私に手を伸ばしてくれた2人の幸せ」
「2人って・・・・パパとママ?」
どこか、どこか悲しそうな瞳は、いったい何を見やるのか。
自分でないのは確かだけれど。
懺悔でも贖罪でもなく、ただ、幸せを・・・・。
それ以上言葉を発しなくなったに別れを告げ、
ガーゴイル像の外に出たのは、
丑三つ時を回ったころだった・・・・。