「んっ・・・・」

「じっとしてねぇと落ちるぞ」

・・・・」

「意識は戻ったみてぇだな」

「あれから、どうしたの?」

「色々あった」

「そう」




説明するような事態は何1つ起こってないという事。




「自分で歩けるわ」

「減るもんじゃないだろ?」

「そうだけど・・・ストップ!!」

「ああ?」

「この気配・・・・・判る?」

「僅かだけどな」

「追って」

「へえへえ」




一度決めた事は曲げないと知っているから、

抱きかかえたまま、懐かしい香りを追う。

辿り着いたのは、マートルのトイレだった。

寝ているのか、何処かへ出かけているのか、マートルの気配はしない。

強くなっていくその気配に引かれるように、

2人は奥へ奥へと進んでいく。




「女子トイレに臆さず入る男」

「悪態つく元気があるなら心配ねぇな」

「大丈夫だって行ったはずよ?」

「あれか」

「日記?」




どうしてこんな所に。

それが素直な疑問だった。

その日記から流れ出している、を引き付けていた気配。

はそっと1ページ目を開き、フリーズした。

そこに書かれていた名は【 T・Mリドル 】かつて彼女が愛した人の名前。




「どういうことだと思う?」

「媒介にしている何かだとすれば・・・」

「霊的なものか記憶の欠片か」

「とりあえず持って帰ってみようぜ」

「そうね」




闇の魔法具の店に行けば、この様に如何わしい物は山ほどある。

だが、を引き付ける程の気配が流れ出しているのも事実なのだ。

が日記を抱え込むと、2人は急いで自室へと戻った。




「さて、どうしたものかしら」




机の上に日記を置いて、語りかける。

先程全部のページを捲ってみたが、全て白紙。




「なんかの魔法をかけてんじゃねぇの?」

「そんなこと判って・・」




がっしゃん




「「あ・・・・」」




からんからんと机の下に落ちた空のインク瓶。

真っ黒になった1頁に頭を抱えていた2人は、

異様な光景を目の当たりにする事になった。

すうっとしみこんで、数秒後には元の真っ白なページに戻った日記。




酷い事するね。誰だい?君は

「これは・・・また」

「リドルなら遣りかねないわ」

「其れ相応の力もあった」

「これで、憶測は事実に変わったわね?」




にっこりと笑ったは、

新しいインク瓶を空け羽ペンに其れを浸すと、

貴方に会って話がしたいと書き記した。




「なにやってんだよ!!」

「一度、会っておいた方がいいと思ったのよ」

「はぁ?」

「ちょっとした興味本位」

「ああ、もう!!」

「引きずられたときはお願いね?」

僕はしがない日記だよ?会いたいのは山々だけど

「しがない日記は秘密の部屋になんか興味を持たない筈でしょう?」

前の持ち主にもその事は聞かれたけど、
50年前にも一度開かれた事を知っているくらいだ。


「貴方がたきつけた、偽者の犯人によって?」




ぴたりと止まった返事。

気づいた時には、身体を光が包み込み、日記の中へと滑り込んでいった。

目の前に広がるのは、見慣れた風景。

動く階段や話す肖像画、いくつもの教室。




「見つけてごらん」




頭の中で響いた声に微笑を返す。

いるのはどこだろう。

十中八九、2人が良く使っていた隠し部屋だろうが。

は歩いていく人たちを見ながら、

ゆっくりゆっくりぬるま湯につかったようなだるさを覚える。



大広間横の天使像の羽を2回叩き、

脚のこうをするりと撫でれば現れる扉、

は静かに扉を開いた。




「・・・・・・・・君は何者なんだ」

「何者かしら。今の私の事を言うなら、
ヴォルデモートの直属配下の家に生まれた、1人娘よ」

家かい?」

「ええ」

「名前は?」



「なんだって?」

。聞こえなかった?」




愛した女と似た魂の、

同じ名前の少女が其処に佇んでいて。




「・・・・・・・・・・」

「なあに?トム?」

「っ!!」




呼ぶなと言っても、皮肉って、ずっとずっと呼ばれ続けてきた名前。

気づいた時には自分の腕の中に閉じ込めていた。

折れてしまいそうな腰も、ヌクモリも変わらない。

変わったのは、彼女の中に流れる時。




「ボクが殺したはずだ」

「ええ。あの時のわね?」

「どうゆう意味だい?」

「私は前世の記憶を持ったまま生まれ変わる体質なのよ」

「初耳だな」

「言ってなかったから」

「どうして言ってくれなかったの?」

「言ったら私を捜したでしょう?」




貴方の幸せを見つけて。

私なんかに縛られないで・・・・・。

本音は本当に?



あれから何分経っただろうか。

時の流れぬこの異空間では、そんなものは関係ないのだが。

とリドルは抱き合ったまま、

ベッドに腰掛け、無言でお互いの存在を感じ取っていた。




「さて、そろそろ帰ろうかしら」

「また、ボクの前から消えるの?」

「貴方が消したんじゃない」

「先に消そうとしたのは君だ!!」

「残念ながらトム、私ある人と約束しちゃったから」




新たな幸せを守る約束。




「僕が思わなきゃ、。君は向こうへは帰れない」

「それはどうかしら?」

「君は・・・」

「これ以上バジリスクを悲しませるようなら、貴方は敵よ」




透き通っていくの身体。

それは、現に戻る合図。

あの人たちの幸せを壊すようなら、許さない。




「それじゃあね」

!!」

「次に会う時には、彼方を葬らなきゃいけない」

!!ダメだ!!」

「さよなら。愛してたわ」




の身体は完全に消え去り、残ったのはリドルの涙だけ。




!!なんともねぇか!!」

「私の鼓膜をやぶりたいの?」

「お前な・・・」

「トムに会って来た」

「そうか」

「変わってなかったわ・・・・。悲しい事に」




憎む事しか出来ず。

狭い狭い世界の中で導き出した答えを、

彼は今も貫いて、どこかでひっそり生きている。




「そうだ。がいない間にあの栗毛が襲われたぜ?」

「・・・・・ついさっき言ってきたばっかりなんだけどね」

「確認しに行くか?」

「いいわ。彼女のことだもの。バジリスクの事もうすうす感ずいていたんじゃない?」

「ご名答」

「そうなると、心配なのはあの莫迦2人組ね」