翌日、少女のことが頭を占めながらも、
いつものように、仲良し3人組は一緒に朝食を食べ始めた。
これまたいつものような胃もたれ率最高の朝食が並べてある。
そして、ハーマイオニーは逆さになった本を1ページも捲らず読書中。
などという器用というか変人まがいのことが出来るはずもなく。
他の生徒の視線を浴び続ける事に耐えかねた2人が、
ようやく彼女に声をかけたのは、
そろそろ朝食の時間が終わりを告げようとしているときだった。
「ハーマイオニー?どうかしたの?」
「え?あ、なんでもないから大丈夫」
「うそつけ」
「何かあったんでしょ?本、さかさまだよ?」
真っ赤になって本を持ち直し、
ゆうるりゆうるり話し始めた。
昨日ベッドに寝ていた見知らぬ少女のこと。
色々と妄想を膨らませていたらあまり寝られなかったとか。
なんだそんな事といいそうになって、
慌てて口をつぐんだけれど。
「侵入者かもしれないけど、もし違ったら失礼じゃない?」
「先生に言えば良かったんだよ」
「夜遅かったし、迷惑かけると思って」
「そんなの気にすんなよ。なぁ?ハリー。ハリー?」
「その子、どんな子だった?」
「え?あおい髪が特徴のカワイイ子。眼の色はわからなかったけど」
あの子だ。
ダイアゴン横丁で見かけた。
自分でもココまで執着しているのはビックリだが、
気になるのだからしょうがないだろうと自己完結し、
吼えメールだと騒いでいる隣のロンを静めたり、
モリーおばさんの怒声に耳をふさいでまた赤毛を沈めたり、
少し嬉しかったから、当社比2倍くらいは優しかったように思う。
吼えメールが叫び終わり、再び広間がシーンとなったのを合図に、
教職員席に座っていたダンブルドアが立ち上がる。
「え〜もう少しの間座っていてくれるかの」
ダンブルドアの低くやさしい声が、大広間に響く。
それに従わん者はなし。もう一度綺麗に椅子に座りなおした。
「実は、今年から新しい仲間が加わることになった。
本当は昨日紹介したかったんじゃが・・・・ちょっとした野暮用で全員揃っていなかったのでの」
そう言ってダンブルドアはハリーとロンの方を向いてにっこり笑った。
ハリーとロンはお互い顔を見合わせて苦笑する。
昨日言っていたのは、この事だったのか。と。
「組み分けはまだだったのでの、
とりあえず昨日はグリフィンドール塔で休んでもらった。おいで」
期待に違わぬその姿に、ハリーはさらに微笑を深くした。
仲良くなりたい。
でも、少し、怖いとも感じるのは何故だろう。
「昨年は色々と手違いで、今年2年に編入することになった」
「・と申します。これからよろしく」
切れ長の瞳。
淡々と口にした自らの紹介文。
丸めが根の所為で膨れあがる知的さ。
悪くない容姿。
ホントに同い年かと疑いたくなるような物腰。
・と聞いて動揺した2人の論点が、
そのようなものでないのは確かであるが。
「では、これをかぶって」
そう言ってマクゴナガル先生が持ってきたのは、
もうボロボロになってしまった組み分け帽子。
は椅子に座り、懐かしそうに眼を細め、それをかぶった。
「お久しぶりですな」
「元気そうでなによりだわ」
「現役帽子をなめてもらっては困りますぞ?」
「別になめてないのだけれど」
「それより・・・・家とはまた、因果」
「因果なんて、もう意味のない言葉よ。必然だか偶然だか」
「しかし、命を投げ出されるには・・・・」
「ほらほら、あんまり長いこと被ってると、生徒にあやしまれるわよ?」
「申し訳ない。今世はなにかご所望でも?」
「あの子を守る約束を果たすのだから、ゴドリックの寮でしょうね」
「なるほど、それなら・・・グリフィンドール!!!」
グリフィンドールのテーブルから割れんばかりの拍手が起こった。
その他のテーブルは心なしか暗い。そう、あのスリザりンでさえも・・・
はしっかりとした足取りでグリフィンドールのテーブルに向かい、
そして、壇上から近くで空いていた、ハーマイオニーの前に腰掛けた。
握手をせがむ方々を真っ向から無視して、
持ってこられた時間割と見つめ合っているだけ。
「久しぶり・・・だね。ボクのこと覚えてる?」
「ノクターンにいた子でしょう?」
「あの時はありがとう。ずっとお礼が言いたかったんだ」
「そんなの良いわ。今後気をつけることよ」
「あ。うん」
「例のアイツも貴方の力を欲しがっているわけだし?」
「アイツって・・ヴォル・・」
「ハリー!!その名前を口にするな!!」
「アイツだって魔法使いに変わりないのに。
そう。ヴォルデモートに命を狙われてるのだから、
むやみやたらとあんな所に出入りを繰り返すのは頂けないわ」
自前の本に時間割をはさんで、
座ったばかりの席を静かに立ち上がったは、
そのまま大勢の視線を受け流して、大広間から出て行った。
「なんだよアイツ」
よろしくする気はない。
つけこまれでもしたら厄介だから。
冷たい廊下を歩きながら、複数部屋にした校長を恨まずにいられなかった。
「発作が出た時どうしてくれるのかしら」
「オレがかけつけてやるから安心しろ」
「、貴方女子寮の意味わかってる?」
「判ってる。オレがわかんねぇのは、が孤立する理由だ」
「孤立してるつもりはないわ。深く関わらないようにしてるだけで」
「一緒じゃん」
自嘲的な笑みは、足音だけが淋しく響く廊下に吸い込まれてゆく。
隣に立つ男は、満足のいかない返答に、いささかイラついているようだ。
しかし、彼の主は素知らぬふりで、
与えられた共同生活場所へと身体を滑り込ませた。
もちろん、途中で男は梟になったわけだが。
5つあるうち、おもむろに引かれたカーテン。
それは、拒絶の証。