扉の方を振り向くと、フォークスが飛び込んで来た。

続いて、ハリーの上に何かが落ちて来る。




「組分け帽子?」

「お笑いだなハリー・ポッター。
ダンブルドアが遣わしたのは古ぼけた帽子と、役に立たない鳥だけ」




リドルが笑っているのが見える。

確かにそうだ。どう使えばいい?

そうこうしている内に、フォークスが辺りを飛び回り、の肩に舞い降りた。




「だ・・・・・れ?」

。どっちが正しいのか、強者なのか判っただろう?」

「・・・・・・・・・・・」

「早くこっちに・・」

「言ったでしょう?新しい幸せを守っていると」




フォークスの羽根に覆い隠されていたが姿を現した。

飛び立ったフォークスからは、滴がポタリ。

の濁った瞳は消え、藍色の瞳が輝いている。




その鳥を噛み殺せ!!忘れていた。癒しの力・・・くそっ!!」

「私が見える様になったらそんなに不都合?」

「!!・・・・・っ昔の面影にほだされただけさ」

・・・・大丈夫なの?」

「ええ。ありがとう。今まで守ってくれて」

「僕・・・・何もしてない」




初めて見た、満面の笑み。

赤面して俯く事しか出来なくなってハリー。

は、その夜色の瞳を、リドルに向けていた。




「フォークス?この子達を医務室に運んでくれる?」

「やっ・・・・・・ヤメロ・・・・」

「そんな身体で何が出来るの?」

が死んだらっ!!」

「その時は、また後で・・・・ね」




眼を見開いたのはだけではなかった。

ハリーは杖を折らんばかりの勢いで手を握ぎりしめている。

叫ぼうとした2人より先に、が呪文を唱えていた。




「頼むわね」




その言葉を合図に、フォークスは舞い上がった。

大きな鳥が見えなくなるまで見送って、はリドルと向き合う。

リドルは大きく目を見開き、声なき声を発していた。




「トム。彼方は知らないでしょう?私とこの子の関係を」

「なっにを・・・」

「1対1で闘ってあげるわ。それが、彼方にできる最初で最後の愛よ」

「認めたね・・・・いつでも僕なんか見てなかったくせに」

「気づいて一緒にいた貴方も貴方ね」

?ボクは諦めていないよ。君と共に堕ちる事」




最後の台詞を聞き流して、はゆっくりと宙に手をかざした。

そこから現れた一本の杖。

それをリドルの方へ飛ばすと、も杖を構えた。




「本気・・・・なんだ」

「彼方の時は、もう止まっている筈だもの。自然の摂理に従ってるだけ」

「・・・・・・ボクを愛してないの?」

「言ったじゃない。愛してたって」




リドルはゆっくりと足元の杖を拾うと、に向かって呪文を唱えだした。

飛び散る閃光は、辺りを照らし出す。

リドルはバジリスクを使う事を諦めたようで。

どちらにつく事も出来ない巨大な蛇は、

まるで、今はいないかの者に助けを求めるように、視線を宙にさ迷わせていた。



飛び交う呪文の数は半端じゃない。

その中には翠の閃光も混じっている。

本気なのだ。どちらも。

生死をかけたとか、命のこととか、そんなことでなくて。

ただ、愛していたから。

それは、叶わぬ愛だったから。




「ぐぅぁあああ!!!!」

「トム!!!っ・・・・」




何度目か、あの呪文を唱えようとした時、いきなりリドルの胸に穴が開いた。

駆け寄ろうとする自分の身体を必死に抑えて、は辺りを見回す。

一体誰が。どうやって・・・・・

その答えはすぐに見付かった。




「・・・・・・・どうして・・・」

貴女は沢山シアワセをくれた、あの人の大切な人。だから・・・・

「ありがとう」

「・・・・・っ・・・ぅぁ・・・」

「・・・・・・・・・・・」




バジリスクの牙に突き刺さった、彼の日記。

そこから滴り落ちる黒い液体が、目の前の幻影を染めていく。

はバジリスクにそっと触れると、リドルの方へと足を運んだ。




「・・・・・・・・・・ぁ・・ぁ」

「ゆっくり眠って。私は彼方を忘れない。トム、愛していたから」




消える寸前に交わされた、触れるか触れないかのキス。

跡形もなく消えてしまった彼の後を撫で、ゆっくりと立ち上がった

その頬を、涙が伝った。




「サラザール・・・・・・トムの事、お願いね・・・」



その子は、貴方と違って、憎む事しか知らなかったから。

そう言ったは、バジリスクの傍へと歩いて行く。

もちろん視線は下を向いて。




「もう苦しまなくて良いから」




そう言って杖先をバジリスクの眼にあてがうと、ゆっくりとなぞった。

濁っていく瞳。

数秒後、バジリスクの瞳は閉ざされ、は顔をあげていた。




「私を医務室まで運んでくれる?」




その時、バジリスクが頷いたように見えたのは、きっと気のせいじゃない。

成り行きを見守っていた組み分け帽子を抱えて、は医務室へと急いだ。








「っ!!なんですかそれは!!」

「バジリスクですよ。本で見たことないんですか?」

「ありますけれどでもっ・・・・」

「もう、怖くはないわね」




こっくりと頷く蛇は、至極可愛らしい。

そこに静かに佇む姿は、まさに王様。

バジリスクだけが知っているパイプを通り、医務室に来た

ベッドに入っている3人。

記憶を無くしたロックハートを入れるなら4人だが・・・・

声をあげたのはマクゴナガル。

他の先生方は、声にもなっていない。




「ハリー・ポッター、大丈夫そうね」

「僕・・・・何も出来なかった」

「どうして?私を止めてくれたのは貴方よ?
あのまま発作を続けていれば、何も判らないままに彼を殺していたかもしれないわ」

「・・・・・・・・・・・・・でも」

「もう終わったことよ」




はゆっくりともう一つのベッドに近付く。

どれだけ殴られたのだろう。

どれだけ耐えたのだろう。

ずっと、ずっと・・・・・




「無理しないでよね・・・」




魔法で眠らせているの身体に近付き、手をかざす。

放出される淡い光。

見る間にの傷は塞がっていく。

ゆっくりゆっくり自分の魔力を浸透させて。

医務室にいる全員が、一寸も動かずに、事の成り行きを見詰めていた。