何度も受けた授業に、意味なんて無い。
それは、皆が傷だらけになって頑張るマンドレイクの植え替えだったり、
1年の復習と証した結構難しい変身術だったり、
ジャンルは様々。
けれど、1年間勉強していなかったことを思わせないの完璧さ。
いぶかしむ教員は少なくないが、
素晴らしいとしか言えない。
まあ、出来の悪い生徒より、良い生徒のほうがイイに決まっているから。
残すところ、午後の授業だけとなった今日。
見られている。
そんな気がしているのは、ハリーだけではなかったようだ。
は中庭でお気に入りの小説を読んでいた。
誰にも邪魔されない読書の時間は、の好きなものの1つだ。
静かな場所が、彼女を癒す。
ふと眼前によみがえった過去の記憶が、
すうっと消えていく瞬間、きゃいきゃいと楽しそうな声が響く。
「あっ」
どく気はないと、態度で示して、
一度彼らに向けた視線を、
何もなかったという風に、持っている文字の羅列へと戻す。
「ここ、いいかな?」
「お好きに」
「ヤな感じ」
「ロン!!」
「好き嫌いとはっきり言う人は嫌いじゃないわ」
ふっと笑ったその顔に、
思わず見惚れてしまっていたのは、
決して2人だけではなかった筈である。
醜い醜いと叫びながら、
それでも媚びてくる様な偽善者に比べれば。
だってほら、優しいから?
「でも、黙って視線を向けられるのは嫌いよ」
グリフィンドールの生徒だろうか。
今まで存在を気づけなかった3人が振り向けば、
真っ赤な顔をした少年がたたずんでいる。
見られているのはと言うよりハリーなのだが、
立ち位置からして、に被害が行くのもわかる。
「あ・・・・の・・・ボク、コリン・クリービーって言います!!
ハリーのファンでその・・・・写真を撮りたいんです!!いいですか?」
「写真?」
「ファン?」
思わず聞き返してしまったのも、
仕方のないことだと思われるのだ。
鸚鵡返しに眼をぱちくりしながら、
カメラを掲げて、まだ佇んでいる。
その時、今の今まで黙っていたが、
ぱたんっと音を立てて本を仕舞い、
すくりと立ち上がったのだ。
びくりと震えたコリンと名乗るグリフィンドール生は、
つかつかと歩み寄ってくるに、震えを増させるばかりだ。
「さぞかし面白いでしょうね?
普通に学校生活を送りたいと願う人を追い掛け回すのわ」
「えっ・・・・ボクそんなつもりじゃ・・・・」
「それじゃあ、誰かが貴方の写真を欲しいと1日中追いかけましても苦にはならないの?
素晴らしい精神の持ち主ね。賞賛に値するわ」
「1日中って・・・・まさか!!」
「ずっと感じてた視線は貴方だったの・・・・」
「ボクは・・・ただ・・・・・ハリーの写真とサインを・・」
「サイン入り写真?ポッター、君はサイン入り写真を配っているのかい?」
話をややこしくさせる人物が登場してしまったと3人は頭を抱えた。
コリンの隣でドラコ・マルフォイを見ていた。
またしても冷ややかな声。
鼻で笑ったその音に気づかぬほど、
彼は落ちぶれていなかったらしい。
「おい、転入生。貴様、今ボクを笑ったな」
「失礼。貴方、彼にも写真をねだったら?
ハリー・ポッターに嫉妬して、少ない語彙を駆使したようだから」
「なんだと!!!」
「もう少し色々とお勉強なさった方がいいんじゃない?
ルシウス・マルフォイの息子さん?」
「・・・・貴様やっぱり・・・」
「それ以上言うと、魔法界での貴方の立場が危うくなるわよ?
もっとも・・・・今もそんなに威厳を保てているようには見えないけれど」
「いったい何事かな?いったいどうしたかな?」
歯を煌かせて歩いてきたロックハートの隣を、
さも当然と言うように挨拶のひとつもなく歩いていこうとした。
聞きたくない変に甘ったるい声に、
嫌々振り向くことになるのだけれど。
「ミス・!」
「・・・・・・・なんでしょう?」
絶対に不機嫌だと思わせる顔に、
周りの面々は笑いを押し殺すのに必死だ。
それは、スリザリンもグリフィンドールも同じことなのだが。
「ハリーと私がサイン入り写真を撮るのでね。
貴方もよろしかったらと思いまして。貴方はとても麗しいですからね」
ばっちんとされたウインクを、
にいっこりと受け流して、
くるりと踵を返した。
映るつもりはないという意思表示。
「私は先生のように、誰かにあやかって目立とうとは思いませんので」
ぴくりとひきつったのは、ロックハートの口元だ。
背を向けたまま会釈を1つ。
脇に抱えた本が、ぐちゃぐちゃになっていたのを見た者は、
残念ながら1人もいなかった。