そんな気まずい雰囲気からの、
闇の魔術に対する防衛術の授業。
先程のことなどもう忘れたというように、
眼を瞑りたくなるくらい満面の笑みを浮かべて、
入ってきたロックハートは、
咳払いで生徒を黙らせて、自分の本を高々と掲げた。
なにやら聞こえ始めた自慢話をスルーして、
ハリーとロンは密談の真っ最中。
ハーマイオニーは放って置いたという事だけ記しておこう。
「ってさ、変わってるな」
「うん。でも、最初にノクターンで会った時は、もうちょっと優しかったと思う」
「優しい?あいつが!?」
「ちょっとしか見てないからわかんないけど・・・・」
「でも変だよ。君に突っかかったり、マルフォイに嫌味言ったり」
「自分の信じることを貫くタイプ・・・とか?」
「そりゃそうだろうよ」
昼間の台詞を反芻しながら、・考察の会は続く。
「2年で編入してるのに凄い頭いいし」
「それは勉強してたからじゃなくて?」
「ホグワーツに来れないのに?」
「それもそうか」
「しかも・・・・例のあの人のこと・・・・」
「そうだね」
臆せずヴォルデモートと口にする彼女。
まわされてきたペーパーテストも、ちらりと見ただけで机において、
今度は2人してを盗み見ることにした。
自分達の席から、丁度斜めまん前に座っているは、
ペーパーテストを見るや否や、
物凄い勢いで答えを書き出す。
どうやら彼女の頭に苦手科目と言う言葉は存在しないようだ。
「黙って視線を向けられるの、嫌いって言わなかった?」
「「っ!!!!」」
「そこ、静かにしたまえ。テスト中だよ」
「フェルメ・ダツル」
ぽそりとが問えると、
よろしいと、とても嬉しそうに他の生徒を見回るロックハート。
「君、何したの?」
「私の質問に答えてくれる?」
「えっと・・・・・」
「別に・・・・・」
「どうせ、2人共に冷たく当たる私を疑問に思ったんでしょ?」
声が出ない。
それは、の答えに驚いたのもあったし、
結構に喋っている自分達を、
普通に通り過ぎていくロックハートに驚いたというのもあった。
「深く関わるつもりはないから安心して?」
「どういう意味?」
「ぱっと見で色々と言葉にしてるだけだから、
貴方の気にするところじゃないでしょう?親しい友人の罵声ならともかくね」
たった数時間前に出会ったばかりの女の戯言。
そんなこんなしている内に、どうやら30分は経過していたらしく、
1枚1枚確認しながら用紙を集めていく。
「ミス・ハーマイオニー・グレンジャー!満点です!グリフィンドールに10点あげましょう」
やっぱりかという視線を向ける。
どうやら他の者達の回答が置きに召さなかったらしく、
またねちねちと自分の本の話を始めた。
それも長くは、続かないのだけれど。
「ロックハート先生?」
「なんだね?ミス・?」
「私、DADAの授業を受けに来たんで、帰って良いです?」
うおい!と突っ込みたくなるその会話。
まあ、このクラスのハーマイオニー以外が思っていたことだが。
「これも授業の一環だよ?経験を知ることは大切だ」
「でしたら、呪文名が1つも出てこないのは、私達を試しているからですか?」
「えっ・・・そっそうなんです!よく気づきましね」
「では、教えて下さいませんか?トロールや吸血鬼を伸した呪文を」
「そっそれを皆さんで・・」
「私の頭には既にいくつかあるので、先生の答えを聞きたいんです。
自分の答えが最高の策ではないかもしれませんし。ね?」
冷や汗だらだらのロックハートは、
さも思いつきましたというように机の後ろに屈み込むと、
覆いのかかった大きな籠をおもむろに持ち上げ、机の上に置いた。
「さあ!皆さん!ミス・の言う様に、
皆さんも少し呪文を考えておいでのようだ。
それをこの生き物で試してみましょう。いいですか?」
覆いを取り払った先に待っていたのは、
煩いキンキン声と、
わっちゃわっちゃと飛び回る、決して美しいとはいえない妖精。
ぴくりとの身体が強張る。
ダメだ。
弱者だ。
要らない。
そうだろう?
最善の策は・・・・・。
そんなに気付く者がいる筈もなく、
開け放たれた籠からは、待ってましたといわんばかりに、
ピクシー妖精が上へ下への大騒ぎ。
「さあ、さあ。捕まえなさい。たかがピクシーでしょう!」
「だったらお前がやってみろよ!!」
「もう、最悪だね。あの先生」
「ハッハリー?いてっ!!」
黒いオーラに少し怯んだピクシー妖精も、一瞬の出来事。
安全地帯から飛び出した意味のない呪文も、
逃げ惑う人も、皆皆。
弱者だ。
役に立たない、弱者だ。
「なんか、変じゃないか?」
「どうしたんだろ。!!」
「・・・・・なくちゃ」
「え?」
「ハリー危ない!!」
危うくぶつかりそうになったピクシー妖精を叩き落して、
の元へ行こうと試みるが、
あまりの多さに其れも出来そうにない。
わずかに聞こえてくる終業のベルに、
全員が扉の方へと押しかけようとした時だった。
「コロサナクチャ」
それははっきりと聞こえる音色。
マリオネットが動き出す。
伸ばした腕。
向けられた杖。
先端に光る、翠の閃光。
「アバダ・・・・」
「ホーッ!!!」
彼女が呪文を言い終わる前に、
全員の頭上をかすった黒い梟が、の持っていた杖を落とし、
顔の前で羽ばたいてみせる。
「・・・・」
「ホー」
「ありがとう」
そう、穏やかに微笑んで、
杖を拾いなおすと、今度はしっかり、石化呪文を唱えて、
見開かれた眼の間を、すり抜けるように去って行った。