「・・・・・・大丈夫かしら」
「どういう意味で?あれ、なんだったんだ?」
「あなた知らないの!?」
「なんだよ」
「あれは禁じられてる呪文。しかも、死の呪文よ」
「・・・・・・・うそ・・・だろ?」
「そうだよ。間違いない」
あの時散りそうだった翠の閃光。
忘れもしない、この傷をつけたあの・・・。
そして、タイミング良く現れた彼女の梟。
まるで、あの後何が起こるか知っていたかのように。
「ハリー顔色が悪いわよ?大丈夫?」
「あっあうん。大丈夫」
ヴォルデモートと繋がっているのか。
だとしたらグリフィンドールに入るのはおかしい。
いや、本当にそうだろうか。
似ているといわれた自分はどうなる。
1人で悩んでも仕方ない。
明日に直接聞こうと決めた。
きっと、答えを返してくれるという変な確信があったのだ。
けれど、次の日も、その次の日も、
彼女は大広間どころか、授業にすら顔を見せなかった。
の動向を知るには、2日前に時を戻さねばならない。
発作が起きたあの日に。
ひたひたと響く足音は、
まるでココに来たとき2人で歩いた廊下のようだ。
向かっている先は、まったく違うのに。
その肩には、いつ舞い降りたのか、が落ち着いている。
見えてきた古いガーゴイル像を、
愛おしそうに撫でれば、門番達も、嬉しそうに身じろいだ。
「久しぶり・・・・ね」
「主もお変わりなく」
「気が、乱れておりますぞ」
「少し腕が痛むから」
「なんの、因果でしょうな」
「それ、組み分け帽子にも言われたけど、もう私には、定めなの」
「そうでしたか・・・・。無粋な真似を」
「いいの。心配してくれて有難う」
輝る2対の瞳は、
彼女の心を見透かそうと懸命だ。
これ以上、何も背負えないくせに、
一生懸命に囲もうとしている彼女の心を。
「ところで、レモンキャンディだっけ?あのころから変わってないわね」
「今の校長に用がおありか?」
「彼は出払っていておりませんぞ」
「そう。じゃあ、待ってるわ」
「これは珍しいものを見たのぉ」
「ダンブルドア・・・・」
「うむうむ。友は持つべきじゃよ。」
「それ、嫌味ですか?」
困ったように笑って、空いた階段から奥へと進んだ。
話しがあること、きっと判っていたのだろう。
彼は、自分のことを、きっと一番見知っている。
他の、誰よりも。
心許しているとなると、別の人がいるかもしれないが・・・。
「さて、まぁ座りなされ。立ち話もなんじゃろて」
校長室に入った2人は椅子に落ち着いた。
どこからか、屋敷僕が紅茶のカップを2つ運んでくる。
その隣をフォークスが飛び、の肩に落ち着いた。
は面白くないのか、怒ったように鳴いている。
「?黙りなさい」
「ホー」
「後、この人の前ではその姿は無用だから」
「ちぇっ」
2人はソファに座りなおすと、
今学期最初の夜と同じく、すみれ色の帽子を被った、
茶目っ気たっぷりな校長と向かい合った。
「何故、複数部屋にしたんです」
「このホグワーツの規定での?知らんかったなら謝る・・」
「ダンブルドア、私は冗談を言いに来たわけじゃありません。
2度目の私の姿から見知っている貴方なら、もう、判っている筈でしょう?」
横になっては眠れない自分。
それは、過去の遺物。
事情は話していないにしろ・・・だ。
「こちらからも質問してよいかの?」
「ええ。答えられる範囲内ならば」
「何故、編入しようと思ったのかね?」
「彼らとの約束を守るためです」
幸せだとしか感じなかったときを、
思い起こさせてくれた彼らの願い。
守らなければならない。
血の海で、微笑んだ彼の、彼女の、たった一つの希望。
「このお話しはしたはずですが?」
「うむ。聞いたかもしれん」
「怒りますよ?」
「でわ、ココにいるのはジェームズ達のためか?」
「もちろん」
「それは嘘じゃな」
「はい?」
「嘘じゃよ。ジェームズのためなどではないはずじゃ」
君には、もっと大事なものがあるはずだから。
「この学校に来ずとも、守ろうと思えば出来たはずじゃよ?」
「2度も過ちを犯したのに・・・ですか」
「人は過ちを犯すものじゃ」
「私はもう、人ですらない」
涼しい顔で紅茶をすすり続ける目の前の校長。
ことりと置かれたコップに、怒気が含まれていたような気がする。
それは全く持って気のせいではないのだが。
「私の発作のことをお話しますね」
「発作?」
「家、いえ、ヴォルデモート直属配下が代々受け継いでいる発作です」
「それは、初耳じゃな」
「話してませんでしたから。それを思い出したのも今日なんですけどね」
少し悪戯っ子っぽく笑って、話を進める。
握られた手から伝わるヌクモリ。
「弱い。役に立たない。そう脳の中で確定付けてしまった者達を、
殺さねばとしか考えられなくなり、無意識に死の呪文を唱えてしまう発作です」
「それを、が受け継いでいる・・・と」
「ええ。今日もDADAの授業で」
「・・・・・・・そうか」
「1人部屋にしてください。いつ犠牲者が出るか判りませんから」
それを言いに来ただけなんです。
笑って階段を下りていく彼女の姿を、
ダンブルドアですら、ただ見つめるしか出来なかった。
その背中に、どれだけの時を溜め込んでいるのか。
いや、もう、1つの時しか見ていないのかもしれない。
「ん・・・・・」
見慣れた天井。窓。机。
起きたら、自分の部屋に戻っていた。
もちろん真夜中に帰ってきたので気づく者などおらず、
いつでもカーテンを閉めているのが幸をそうしたか、
皆が皆、が中にいることなど知る由もなく、
朝食の席に立ったのだろう。
「あれから何日経った?」
「2日だよ。ココに来たのは昨日の明け方」
「が運んでくれたの?」
「当たり前だろ?オレ以外にお前を触らせてたまるか」
「ありがとう」
誰も見たことのない、
満面の笑みの彼女がそこに。