「!!」
「お早う。ハリー・ポッター。随分早いのね」
「、今まで何処にいたんだい?」
「貴方には関係のないことよ」
そう言われてしまうと、そうだよね。としか返せない。
ただ、寮と学年がたまたま一緒で、
夏休みに一度、偶然助けてもらった程度で。
「ボク、聞きたいことがあって」
「朝食とりながらでもかまわない?私、騒がしい大広間好きじゃないの」
「え。うん。もちろん」
「それで、聞きたいことって?」
テーブルの上においてあるゼリーとフルーツを取りながら、
は問うた。
なんとなく、彼の言わんとする事は判っていたけれど。
そして、それに自分が答えないことも。
「ヴォルデモートと、何か関係してるの?」
ほら。来た。
彼が覚えてなかろうと、
脳は反応したのだろう。
あの、翠色の閃光に。
当たり前といえば当たり前か。
「どうして?」
「この間、ロックハートの授業で見かけた魔法で」
「あれが何だか知ってるの?」
「間違いじゃなければ」
「言ってみて」
「ボクの両親を殺した魔法だ」
「ご名答でしょうね。それで、それがヴォルデモートにつながる何の要素に?」
え?とパンを落としそうになったのはハリーの方だ。
ヴォルデモートが使っていた呪文を使っていた。
それだけで十分だと思ったのに・・・・。
「死の呪文は本に載っているし、
スリザリンの家庭なら、浮遊呪文よりも早く習うところも多いと思うわ」
「えっと・・・・・・・」
「そうね。後は、臆する事無く彼の名前を言っているところ?」
「そっそれ!!皆・・・・怖がるよ」
「同じ魔法使いなのにね」
その瞳はどこか、
恋人を懐かしみ、悲しむような、そんな・・・・・。
「?」
「貴方が知らなくても良い問いね」
「え!でも!!」
「自分はヴォルデモートから生き残ったから、そう言いたいの?」
「違う!!ボクは両親の・・」
「仇を討つなんて莫迦な真似は止めた方がいいと思うけど?」
「莫迦な真似なんかじゃない!!」
真っ赤になって叫んだハリーは、
ここが大広間だということを思い出すには、
冷静さを欠きすぎていたといえよう。
そんな彼を涼しい眼で見ながら、
いつの間にか終えたのだろう食事。
立ち上がったは、とても冷たく笑っていた。
「じゃあ、実力に見合わない行動は止めた方がいいと言った方が良いかしら?
英雄のハリー・ポッター。貴方の魔力は彼の足元にも及ばない」
「でも!実際、ヴォルデモートは敗れたじゃないか!」
「其れを証明できるものは何一つ無いわ。
生き残ったからと言って、貴方が彼にダメージを与えた証拠には、これっぽっちもならない。そうでしょう?」
「そっそれは・・・・」
「あまり周りの言葉にのまれないことね」
それは、貴方を守るすべにもなるでしょう。
過去につけこむ言葉は、
とてもたやすく心をえぐり、そして癒しを求めてしまう。
それは、死の呪文よりも恐ろしい呪縛。
「言い過ぎたかしら?」
「いや、言いなさ過ぎだろ」
「ホントにゴドリック気質な人が嫌いね」
「あのへらへら顔がむかつく」
「でも、ハリー・ポッターはああ見えて、しっかりジェームズの血を引いてるわ」
「どの辺が?」
「腹黒いところ?」
「ああ・・・・。成る程」
決して、箒の腕ではないらしい。
珍しくも校外に出たは、その脚で禁じられた森の方へと歩む。
には手紙を持たせてお使いだ。
深く深く入り組んだ森の深部へと歩を進めつつ、森の声が揺さぶる。
嗚呼。思い出させないで。
「か?」
「相も変わらず」
「もう、老い先短いがな」
「蛇が縮めてしまったかしら?」
「判っていたのか」
「愚問でしょう」
もう光を映さない蜘蛛の瞳を撫でながら、
周りにかさかさと集まってきた子供等に、微笑を投げかける。
這いずり回る音が、
夜毎響くたびに、震え上がるこの子達。
けれど、もっともっと昔から、たった1人を待ち続けたもう1人は?
「止めはせぬのだろう?」
「私には無理よ。彼を殺せないもの」
「知っている。知っていて問うた」
「悪趣味」
「この森は、主の帰還を待っておる」
「魂になって過ごすこと?それとも霊として戯れること?」
「どちらも違う」
「じゃあ何?」
「主が主のためなれば」
「意味がわからないわ」
「今はな」
幾分、生意気になったのかもしれないその蜘蛛をぺちんっと叩いて、
来た道を戻り始めた。
ざわざわと、森が謡う。
たゆとう髪は海色。
昔は栗色。
「もう、何もかも変わってしまった」
水に映る自分の姿。
最初はあった面影も、もう・・・・・。
あるといえば、彼が好いた藍色。
夜の帳が降りる刻の色。
彼が好いた夜の匂いの色。
「サラザール・・・・」
この両の瞳を差し出して、貴方にもう一度会えるなら、
私は喜んで差し出すのに。
差し込んでくる光に少し眼を細めて、聞こえてくる喧騒に溜息をついた。
またあいつ等か・・・・。