素敵な出会いをしたあの日から、すでに2週間が経過していた。
今日も今日とては仕事だ。
周りは結婚やらなんやらと騒ぎ出す歳になって来たにとって、
仕事が学校と同じような位置づけになるのは仕方のない事。
連絡待ちの電車に乗り込んで、
端の席を陣取ると、重たくなる目に逆らわず、
うつらうつらとしていた時だった。
「迷惑掛けるんじゃねえぞ。固まっとけ」
「鎌ち先輩部長気取りッすか??」
「うるせえ二口はったおすぞ!!」
「お前が一番煩いよ!!黙る黙る!!」
学生かなあと、ぼんやりした頭で考えながら、
耳から入ってくる大好きな音楽も聞き流す。
「青根がいると乗るトコ困らないのが良いっすよね!!」
「地味に失礼だよなお前・・・」
「いやあ、長所じゃないっすか?なあ青根!!」
「・・・・・・」
「青根?」
「何見てんの?お、良い脚じゃん」
「ささやん先輩分かる人っすね」
「おまえらっなに言っ///」
「鎌ち動揺し過ぎwww」
「笹谷うるせええ!!!」
「しっかし青根珍しいじゃん」
思春期の学生にありき発言か。
どっかに好みのお姉さんでもいたかな。
なんて、その学生達の会話にうすらぼんやりでも意識を向けている自分を心の中で笑った。
片や自分を見られているなんて、露程も思っていないを余所に、
彼らの、伊達工業高校バレーボール部の会話は続いているのだ。
ストイックを体現したような顔の青根が、女性をにらみつけ・・・失礼。
見つめているのだから、彼らにとってはこれとない話題だったに違いない。
「知り合い?」
「(ぶんっぶんっ)」
「え、じゃあまじで脚見てたわけ?変態?」
「(ぶんっぶんっぶんっ!!)」
自分を怖がらずに触れてくれた女の人を、たまたま見つけただけなのだ。
断じて綺麗に組まれた脚を見ていた訳ではないので、
初めの問いよりも強く、青根は首を横に振った。
「もう止めなさい!!」
「茂庭まじお母さんwww」
「ささやん!!」
言い争いをしている先輩達を、五月蝿いんじゃないかな。
なんて、おろおろしながらも、青根の視線はに戻る。
気付いて、くれると、良いのに・・・。
なんて思いながら、無情にもアナウンスは自分の降りる駅名を読み上げていた。
「行くぞ」
「遅れんなよ」
少し名残惜しい。
また会えると良い。
そう思いながら、の目の前を通り過ぎようとした時だった。
「あ、」
「!!」
みつめあうふたり
「青根!!」
「っ!!」
はっとして閉まりかけの扉から飛び出る。
何か落としたような気がしなくもないが、大丈夫だろう。
荷物は全て持っている。
一瞬びっくりしたような顔だったが、こっちを見てくれたことに対しての高揚が、
未だに身体を駆け巡っている。
元気だなあと思いながら顔をあげたら、あの男の子がいた。
伊達工だったのか・・・。
持っているものからしてバレーボール部かな懐かしい。
「(しかし、これ、無いと困るんじゃ・・・)」
飛び出た瞬間、彼の鞄からするりと落ちて、
今は、の掌におさまる学生証と睨めっこする。
「(青根くん・・・か・・・・)」