とどけもの
「(ここまで来たはいいものの・・・あたしまじで不審者)」
は今、伊達工業高校の正門にもたれかかっている。
ちょうど向かいに佇んでいる警備の人は、電車で拾った生徒手帳を届けに来たのだ。
と説明すれば、バレーボール部はもうすぐ活動終わって出てくる頃合いですよ。
と、丁寧な対応をしてくれた。
「(しかし・・・・若いな・・・・)」
10年前は自分もこんな感じだったのだろうか。
いや、もうちょっと淡白だった気がすると、あやふやな記憶を手繰り寄せる。
「(つら・・・・早く出て来て青根くん)」
ヘッドフォンで外界と遮断しているとはいえ、
ちょうど部活が終わって帰る時間帯。
学生でも保護者でもないに、好奇の視線は絶えない。
「あ、」
「あれ、この前の電車の、え?青根まじで?え?」
鳩が豆鉄砲食らった様に目を見開いた目的人物を見つけて、
はようやくほっとした。
警備員さんに彼なんでと視線で言って、高校の敷居をまたぐ。
「こんにちわ」
「・・・・」
「そんなにおろおろしなくても・・・落し物届けに来ただけだよ」
「・・・・?」
「この前電車で落として行ったから」
校門に佇むあの女性にあまりにも吃驚して、いつも以上に声が出ない。
すいっと目の前に出された学生証。
紛れもなく自分のものだ。
「・・・・あ・・」
「大事なものでしょ?ちゃんと持ってないと」
「・・・・ありがとう・・・・ござい・・・ます」
「いいえ。見た目によらずおっちょこちょいだね。青根くん」
「っ」
名前も、なにも知らない人だ。
なのに、名前を呼ばれて安心した。
わざわざ学生証を届けに来てくれた。
それがひどく、嬉しかった。
「お姉さん、青根のなんなんですか?」
「ぶはっwすごい聞き方だねww」
「あ・・っと・・・・・」
「なんなんですかかあ・・・知り合い、ではないな。電車で1回助けてもらっただけ」
「そうなんですか・・・」
「君が面白がれる様な関係ではないよ。残念でした。学生くん」
それじゃあ届けたからね。
と、踵を返す女性。
ダメだ。
と思った。
ここでさよならしたら、ニ度ともう、知り合えない気がしたのだ。
「あの!」
「・・・?」
声を発した青根に驚きの視線を向けるバレーボール部。
振り返った女性に、次の言葉が、出てこない。
「なに?」
「・・・・っ・・・」
「?」
優しい、人だと思った。
暇ではないのだろう。
社会人だろうし、だけど、だけど・・・。
「あの・・・な・・まえ・・・」
「あたしの?」
「(こくり)」
「聞いてどうするの・・・はちょっとひねくれ過ぎてるかな。と申します」
貼りつけた、けれども綺麗な笑顔で答えた女性。
それでも良かった。
名前が知れたそれだけで、知り合いになれたと思った。