気付けば、あの人の事ばかり考えていた。

無意識に電車で探していたり、

何処かで、会えるんじゃないかなんて・・・。



「なになに青根、恋しちゃった感じ??」



部活仲間の二口が、にやにやしながら後ろからぶつかって来た。

これが、恋、とゆうものなのだろうか。

小動物に感じていた癒しのような感覚や、

バレーボールに対する好きとはまた違った感情。

知っては、いる。



「ってゆうかあの人どこで働いてんの?さんだっけ??」

「・・・・・」

「え、知らねえの?」

「(こくり)」

「連絡先は?」

「(ぶんぶん)」

「じゃあ、知ってるのって・・・・」

「・・・・名前・・」

「はあ?少女漫画かよ!!」



あーーもーーーともんどりうってる二口を置き去りにするのも気が引けるので立ち止まる。

知りたい。もっと。あの人の事を。

ただ、どうして良いか、分からないのだ。



「偶然出くわすとかしかないわけじゃんそれ!!」

「(こくり)」

「じゃあねえよ莫迦!!今度会ったら携帯の連絡先くらい聞き出しとけよ」



手を前に突き出して、否定の首を振る。

そんな勇気が自分にあれば・・・。







静かな音楽が流れるお気に入りの珈琲ショップ。

は、何も考えずぼーっとしながら、窓の外を見ていた。

最近、仕事に集中できない。

前向きでいたいと、隣の芝なんか見ずに、自分自身で歩んで行きたいと、

ずっと意識してはいるものの、人間感情の起伏はやはり誰しもあるもので。



無いもの強請りして、

自分を貶めるような考えに陥っている。

遺憾ながら早上がりになったバイト。

空いた時間でとりあえず頭の中をすっきりさせたかったのだ。



「っはーーーー」



まだ帰宅ラッシュには早い時間帯。

店の中のまばらな客に聞こえない溜息をついて、

はまた、窓の外に目を向け、有象無象を視界に入れて、目を見開いた。



ゆきかうひとのなかで



人きは目立つ銀髪と明るい茶色の髪。

頭一つ分抜きんでた2人組を見て、は苦笑を漏らさざるを得なかった。



「(少女漫画なら、ここで向こうも気づいてこんにちはとかなるんだろうな)」



大変リアクションの大きな明るい茶髪。

一体どんな会話をしているのだろうか。

すれ違ったって挨拶もしないだろう知り合いを観察し続ける。



「(ホント最近、よく見かけるわ)」



意図していなかったにしろだ。



「(きっと真っ直ぐなんだろうな・・・)」



若いから、重い悩みが無いなんてバカな考えを、は持ち合わせていない。

彼らだって一生懸命に生きているのだから。

だけれども、特に青根くんは、きっと真っ直ぐなんだろうと思える。

色んなものにぶつかっていく力を持っている人なのだろうなと・・・。



「羨ましいなあ・・・」



誰にともなく呟いたの言葉は、音楽の中へと消えて行った。