うとましいあめ
スコールの様に降り出したそれに、
はワイパーを最大限に動かして、帰路を急いでいた。
洗濯物を、軒下とはいえ外に出して来てしまったからだ。
「朝はあんなに天気良かったのに!」
ごうっと風が唸る。
久々に何もないオフ。
最近色んな事が張り詰めていて、悪い方へ悪い方へ行こうとしている気分を変えようと、
買い物に出て、店の扉を開ければこれだ。
誰にか分からぬ苛立ちをこぼしてしまうのも仕方ないだろう。
「嘘でしょ・・・」
強まる一方の雨足に、アクセルを強く踏む事も出来ず、
制限速度で走っているの目に、外を走る人影が映る。
「莫迦じゃないの」
当然のように口に出た言葉、もうすぐ自宅マンションへ続く路地だ。
左折をしようと歩道に近寄り、ハンドルを切ったは、
徐行している車体にブレーキをかけねばならなかった。
何故なら、そのありえない莫迦が、見知った顔をしていたから・・・。
「乗りなさい」
この雨の中、走っていた莫迦、もとい青根は、
今、自分の目の前で起こっている現実を受け止めきれずに、
ただ茫然と、赤い車体とを見ることしかできない。
夢を、見ているのだろうか・・・。
「聞こえないの?早く乗りなさい」
怒気を含んだように聞こえるの声に、身体が反射行動をとる。
濡れ鼠になった自分の体を車内に滑り込ませ、ドアを閉めると同時、
がアクセルを踏んだ。
あれからどうやって彼女の自宅に来て、このようになってるのか、全く思い出せない。
ずぶ濡れの制服は乾燥機にかけられ、ハンガーに吊るされている。
シャワーを浴びさせてもらったのか、身体はあたたまっていて、
乾いたジャージを身に付けた自分。
モノトーンとさし色の青でまとめられたリビング。
「どうぞ」
「あ・・・ありがとう・・・・ございます」
渡されたマグには湯気の立つ、透き通る琥珀色。
ぼやぼやした頭で角砂糖を放り込み、ミルクをたっぷりと入れていると・・・。
「ぶはっ!」
「!?」
そとのどんよりとした空気とは裏腹に、部屋にこだまする笑い声。
知らず知らずの緊張で、手先が震えていたようで、
それは多分、彼女にとって、とても面白い、出来事だったのだろう。
「そんなに怯えなくても、取って食べたりしないから」
「あ・・・・・」
「放り出したりしないし、雨が落ち着くまで此処にいれば良いよ」
違う。
そうじゃなくて。
そうゆう事じゃなくて。
自分は、自分は・・・。
「雨、止まないね」
会話を、途切れさせては、ダメだと思った。
なんとなく、この子は自分を好いてくれているのだろうなんて、
浅はかな考えが、首をもたげたのは、
彼の今までの行動を見たからなのだけれど。
今目の前で、強面からは想像も出来ないくらい可愛らしく、
両手でマグを抱えている男の子よりも幾分か、長く生きている自分だから、
そういった人の感情の変化には、少し、敏感であると自負している。
「雨、止まないね」
壊れたレコーダーの様に、は同じ言葉をもう一度、口にした。