「おかわり、いる?」
言葉を発する代わりに、首を振って、青根は問いに答えた。
空っぽのマグを持って俯く青年に視線を向け、
は心の中で、盛大に溜息をついた。
ヤメロ。と、先程から何度も何度も叫んでいる。
彼は、真っ直ぐな、子、だから、だから・・・。
「ねえ、青根くん」
ぶんっと擬音が付きそうな勢いで、
青根がに顔を向けた。
「ゴメン。何でもない。呼んでみただけ」
綺麗に笑ったを見て、
この人は、自分と良く一緒にいる、あの青年に、似ていると思った。
彼が、飄々とした態度で隠すように、
彼女はきっと、笑って、隠す人だと。
弱音や、愚痴やなんかを。
それなりに、生きてきた分、きっと、感情を消化する事も、自分より上手いのだろうけれど、
けれど、そうゆうのは、違う気がしたから・・・
「あの!」
意を決して立ち上がり、キッチンに入って、
自分用の珈琲を淹れようとしていたの腕をつかんだ。
「どうしたの?」
「え・・・と・・・・」
「嗚呼。雨止むの待たなくても送ってあげれば良いよね?最寄駅どこだっけ?
制服も綺麗に乾いてるっぽいし、畳んじゃっても良い?それとも着て帰る?」
気付かれるわけがないのに、見透かされたかと思った。
首をもたげた、
あさましいおもい
だから、掴まれた腕をやんわりと振り払い、早口でそう発する。
早く彼を、何処か手の届かない所へ・・・
「さん!」
どすんっ。
「・・・・・っ」
無造作に取り込んでいたタオルを早くどかしておけば良かったとか、
あそこで一度冷静になって、ゆったりと行動していればとか、
色んな事が頭をめぐるけれども、
ただ、自分が、青根に抱きとめられている今は、
人の、ぬくもり、だけが、傍に。
「さん・・・・大丈夫・・・・です・・か?」
とりあえず、床とぶつかる前に頭は守ったし、
痛いとすればお尻だけだが、そんな強かに打ちつけたのだろうか。
自分の腕にすっぽり収まる彼女は、
いくら年上で、しっかりしているからって、当たり前のように女性で、
意識してしまえば、慣れない状況に心臓が爆発しそうである。
「 」
「・・・・・え?」
の口が動いたから、何か言葉を発したのだろうと、
聞き取れなかった自分を叱咤して、の口に耳を近づける。
ぐんっ
引き寄せられたジャージの襟が、
一瞬見えた泣きそうな顔が、
まるでスローモーションのように頭で再生されて、
気付けば、自分の唇は、彼女のそれで、塞がれていた。