こんなにも過去に感傷的になるのは、

彼に会ったからか、それとも、

醜いまでの、崇拝心を感じたからなのか。

光も当たらない地下室は、今のにとって、落ち着く場所にしかならない。




「紅茶だ」

「ありがとう」

「明日には向こうへ戻るのだろう?」

「そうね。彼の裁判が待っているし。
まあ、今の私ではなんの発言権もないでしょうけれど」

「そうか」




何も聞かずに、転がり込んできたを、

スネイプは受け入れていた。

聞けば聞くほど笑顔で誤魔化されてしまう。

そんな事させたくはなかったし、狭間で揺れる今は、

どちらともに理解がある彼女が傍にいることが、

スネイプにとってもありがたかったのだ。






「どうしたの?」

「いや」




ただ君の名を呼んだ。

そうと笑う君は、もしかしたら、

自分の言わんとした事が判っていたのかもしれない。

学生の頃に戻る事が出来ればいいのに。

自ら望んだ道筋の筈が、がらがらと、崩壊の音しか聞こえない。

そんな崩壊の先駆けは、いつだって君。




「腕、まだ痛むの?」

「まだましだ。去年のあの時の方が痺れていた」

「そう。やはり違うのね」

「痛むのか」

「ええ。ずっとよ。もうずっと。感覚すら既にないのかもしれないわ」




偽りにでも愛した、貴方への気持ちみたい。




、頼ってくれ。頼むから」

「ダメよ。私の中のセブは、まだまだ子供だもの」

!!」

「嘘。でも、頼りたくないのは本当。崩れていくから」




自分を取り戻さなければ。

また、わたしに罪を擦り付けるのはゴメンだ。




「無理はするな」

「貴方に言われたくないわよ」

「お前よりマシだ」

「そうかしら」




自分は何処にいたいのだろう。

何もかも捨てて、君を掠ってしまえればいいのに。

学生の頃から、なんら変わらない願い事。




「紅茶、美味しかった。落ち着いたわ」

「明日は大人しくしていろよ」

「その後はいいの?」

「いい訳がないだろう!!」

「判ってるわ。あんな、ヴォルデモートの存在すら認めない莫迦に、
私の話をしたって、世迷いごとと思われるだけなのは目に見えているから」

「そうか・・・・」

「受け入れてくれて、感謝しているのよ?」




目的すら忘れかねない学生生活の中で、

貴方の存在は、自分にとっての救い。



沢山の。

沢山の莫迦を明日は見なくてはならないから。

今だけでも、自分と価値観のあう君の事だけ。




「本当に大丈夫なのか?我輩も・・」

「着いて来て、嫌味を言うつもりでしょう?」

「それは・・」

「いいわよ。もいるし」




ぽすりと肩に乗せられた小さな頭を撫でる。

そんなヌクモリを求める時のは、

至極ココロをが不安定。

からかいでの絡みとは訳が違う。




「ホントに心配性ね」

「お前の所為だ」

「心外だわ」

「・・・・・・・もういい」




だけれど彼は気付かない。

いつもいつも、最後に付いて来る、あの言葉がないことに。

決定的な、彼女の安全が、今はもう無くなっている証に。

いつ死ぬ。

いつ生き返る。

その事ばかりが、の頭を駆け巡っている事に。




「本当に大丈夫なんだな?」

「しつこい男は嫌われるわよ?スネイプ先生?」

「余計なお世話だ」

「そっちこそ」

「気をつけろ」

「ええ」




ほら。

まだ。

言っていないのに。

気付かないの?

肯定の言葉。



閉まった扉。

向こうで待機していたのだろうと共に遠ざかる、2人分の足音。



結局、聞けないままでいることに気付かない。

それが、誰に対しての引き金を引くことに繋がるのか。

言って。合図を。




「平気。」