どれだけ中に押し入ろうと思ったことか。

その度にの気苦労は耐えなかったわけだ。

羽交い絞めにして、何とか落ち着かせる。



の脚で鳴らすリズムが、最高潮に達した時、

やっとこさ、無罪放免の言葉が聞こえてきた。

アーサー・ウィーズリーに気付かれぬよう、

角で佇んでいたの前に、

あの白長髭爺が姿を現したのも証拠。




「お疲れ様でした」

「顔色わりぃなあ」

「年じゃよ」

「吸魂鬼の件、本当に申し訳ないと思ってます」

の所為ではなかろう?」

「そうかもしれませんが、そうでないかもしれません」

「以後、頼む。わしは早急に戻らねば」

「無理をなさらぬように」

「そっくりそのままセブルスに言われてるじゃろ?」




ウインクをするだけの元気があるならまだマシだ。

姿くらました彼のいた場所を、

ほっと一息ついて見やる。

そんなの肘をつついたのは、他でもない




「おい、あれ」

「デコじゃないの。いい度胸ね」

「苛められてるけど?助けに行かなくていいのかよ」

「行くわ。その為に来たようなものだし」




かつかつと、嫌に靴音を響かせれば、

向こうが気付いてくれるのは必然。

そして、莫迦2人。

いや、莫迦4人の顔が蒼褪めるのも必然。




・・・・」

「結果は聞かずともね」

「うん。まあ。あのさ・・・は・・」

「怒っているのかって?」

「・・・・・・・」

「気付いたのでしょう?だったらいいわ。
ヴォルデモートも色々なモノを引き込むことに成功しているから、用心するのよ」

「うん!」




帰りましょうと、大人全員を無視して言う。

それを、あの男が許すはずがなくて。

慌てて付いてきた赤毛とは、少しばかり違うようである。

まあ、からすればどちらも愚かに変わりないけれど。




「例のあの人の片腕一家のご令嬢ではないか?」

「両親は確かにそうでしたし、私もそうだと言われ続けていましたけれど、
最終的に裏切ったのをご存知でないの?自称右腕のマルフォイさん?」

「おい、行こうぜ。腹減った」

「食事との戦いに負ける程落ちぶれた、マルフォイ家と大臣の称号もいかがな物かしら」

「黙れ!!」

「通りすがりの小娘の世迷いごとよ?
ご自分の地位を誇示したいのであれば、無視するのが妥当では御座いません?」




真っ赤になった2人の顔を睨んで、

2人は踵を返した。

勿論、慌てて着いて来る2人が追いつける程度の早足で。









「見たかよ。あの莫迦面」

「嬉しそうね」

「嫌いだからな」

「きっ君達、大人に・・なんて・・事をっ」

「あんたもすかっとしたならしたって言えよ」

「今度会ったらデコを磨いてやろうと思うんだけど?」

「ハリー!!!」

「息子の方で一度試してみたらどうかしら?」

「いい考えだね」




そうでなくちゃ。

自分の力で出来るところをくすぐる。

遊びだと思われる其れも、

向こうにとっちゃ、綻びになるのだから。

そこから崩れて行きやしないか、心配の種になる綻びに。




「無罪放免!当然です!!」

「そうか!良かった!」




賞賛の言葉のその奥に、悲しみが隠れている事を知っている。

だって、独りぼっち。






「見張ってりゃ良いんだろ?任しとけ」

「優秀な片腕で助かるわ」

「勿体無い御言葉」

「行って来るわね」




広間をそっと抜け出した彼の後を追って、

階段を昇っていく。

ぎしぎしと唸る木が、まるで彼の心を表しているかのようだ。




「シリウス」

「どうした?」

「泣いているのかと思って」

「誰がだよ」

「また独りぼっちになる貴方が」




そっと包んだ黒髪は、学生時代から変わらない。

時が時として進まない生活を知ってしまっているから。




「会いに来るわ」

「来るな。狙われる」

「そんなにやわじゃないもの」

「時々・・・」

「ジェームズと錯覚する。
死んでからの10数年、貴方の時は止まっていたのだから仕方ないわよ」

「そうなのか?本当に?俺が弱いからだ」

「そうだと思うなら治しなさい」




嗚咽は聞こえない振りをしてやる。

それが、の優しさ。




「悪い・・・」

「今更」

「いや、は、もっと長い間・・」

「それ以上言うと怒るわよ?」

「言いません」

「ほら、夕飯が始まるわ」

「そうだな」




残るのは、少し淋しそうな、バックビークの鳴き声だけ。