なんだかえもいえぬ空気が、
ホームの中に渦巻いている事は、
全く持って気のせいではないわけである。
暖かい春風が吹く。
はそんなホームの事など知る由もなく、
自室で惰眠を貪っていたのだけれど。
「、入るよ★」
「ん」
まあ、ただやる事もなく、布団の中で、だらだらと過ごしていただけ。
扉の向こうから聞こえた奇術師の声に応答するくらい、
なんて事はない。
「どうしたの?」
「今日、ホワイトデーだろう?チョコレートのお返し◆」
「何?これ」
綺麗にラッピングされた小さな包み。
「開けてみれば?」
「なんか飛び出してこないよね?」
「さあ?」
胡散臭いと思いつつも手を動かす。
綺麗にリボンと包装紙を取り除いて、
ぱかりと空けた箱の中。
「何?これ」
思わず全く同じ台詞を吐いてしまうくらい。
小さな小さなヒソカが其処に。
「それでも淋しくないだろう?」
「・・・・・・・・可愛いけど、縫ったの?」
「の為だからね★」
可愛らしく鎮座している、掌サイズのヒソカ人形。
跳ね返されると思っていたヒソカは、
大分と内心驚きながらも、笑顔は崩さない。
なんだか階下が騒がしい。
一度ヒソカと目を合わせて、降りてみようとが腰を上げた時だ。
扉が勢い良く開いたのは。
「先越された」
「何してるの?」
「お返し」
「イルミも?いいのに」
「あげたかったから」
「そ。ありがと」
「なんだかボクと扱いが違わないかい?」
「気のせいじゃない?」
先程と同じ行為を繰り返して、
先程と同じようなヌイグルミが出てくれば、
溜息をつくしかない。
「作ったの?」
「まあね」
「イルミ兄様!!」
「カルトまで」
「それはボクが作ったんです!姉様にあげるなんて知らなかった!!」
「一言も言ってないし」
「姉様、そんな呪われてそうな人形2つとも捨てて下さい」
その代わりにこれを。
そう言って渡されたのはカルト人形。
「皆大切に持ってるよ」
ありがとうと、頭を撫でる。
感謝の気持ちは、どんな形であれ嬉しいものだから。
「気に入ったの?」
「可愛いから」
「そうですか」
「下、行こっか」
「はい」
「なんで君がと手を繋いでるのかな?」
「ボクは姉様の弟だから」
「だったら、オレのお嫁さんだよね?」
「違います」
そんな攻防を続けつつ降りれば、待ってましたとばかりに群がってくる旅団員。
「いつ降りてくるかと思ったよ」
「皆気が気じゃなかったんだからね?」
「私のために?」
「そうゆうこった」
「それより、何そのヌイグルミ」
「貰ったの」
自分にとっては、可愛い可愛いヌイグルミ。
その笑顔を作り出せたことに対してだけ、団員はぐっじょぶと頷いた。
皆から渡される包みを、1つ1つ開けていく。
女性3人からは、新しいコルセットと、ヘッドドレス、チョーカーなんかの小物類。
両親からは、アンティークバック。
侍からは、浴衣。
拷問快楽者からは、手錠型ピアス。
福耳からは、アイアントルソー。
運動莫迦からは、パズル。
機械オタクからは、ノートパソコン。
「・・・・・・・・」
「どうしたの?」
「なんで、こんな高価なものばっかり?
あたし、凄い安い手作りのチョコしかあげてないのに」
それが何よりの贈り物だなんて、気付いてないのだろうし、
いくら言ったってきっとそんなと言いたがるだろう事が判っているから、
その事に関して団員達は、何も言わない。
「似合うと思ったのよ」
「これなんか、今の服にもあいそう」
「は帽子似合うからね」
「クロノスしか持ってないでしょ?」
「1つあれば事足りる」
「持ってないんだよな?」
「付け易いとおもたね」
「欲しいと言ってただろう」
「これしか思いつかなくてよ」
「便利でしょ?」
ただ、有難うと笑うしか出来ないけれど。
「団長は?」
その声で、みなの視線が扉口へ向かう。
1人座り込んですねているクロロを見て苦笑したは、
行ってくると眼で言って、そちらへと歩を進める。
「クロロ?」
「なんだ」
「何か用事がありそうだったから来ただけ」
「お返しを期待してるのか?」
「一緒にいてくれるだけであたしはいいけど」
「・・・・・・」
みんなの存在そのものが、あたしにとっての幸せ。
「ものじゃないがな」
「え?」
ふわりとオーラを感じて見渡せば、
一面粉雪舞う銀世界。
「雪が、好きなんだろう?」
この世の何よりも、大好きで大嫌い。
あたしが一番感じていたい、狂わせてくれるほどの白。
隣に佇む黒に、今日一番の微笑を返す。
そうだよね。
今日は、
真っ白な日。