久し振りに踏んだ陸地には、桜が咲き乱れてました。
ついでに、こいつ等の脳内も花片塗れです。
「は桜が似合う」
「黒髪だからな」
「ちっこい癖に、もう色気か?」
「当たり前だろ!!程桜が似合う女はいねえぞ!」
蹴り飛ばしてやろうかと、本気で考えるけれども、
カルヴァドスの作ってくれたベリータルトが美味しいので、
止めておくことにする。
そもそも、海賊がブルーシート広げて、
花見に興じていて良いのかどうかは、定かではない。
「美味いか?」
「カルバドスのつくってくれるおやつは、ぜんぶおいしい」
「そりゃあ、良かった」
口元に着いたクリームを拭われつつ、
ふと、風がざわめくから、
後ろを振り向いて、眼を、見開いた。
どうしても、そこから眼が離せない。
「どうした?」
「ん。むこうのき・・・」
「行くか?」
「うん!」
いつだって一番に、自分を見つけてくれるから、
やっぱり、ベン・ベックマンは凄いのだろう。
近くにいるカルヴァドスでもなく、
華をまき散らせて、の名前を連呼するシャンクスでもなく。
その観察眼と、判断能力。
自己、他人共に通用する分析能力。
尊敬に値する。
「ほお」
「ひかってる」
これも、グランドラインの成せる技なのだろうか。
自ら発光するその桜は、
本当にピンクダイヤモンドが咲いているようで。
「すごい・・・・ね」
感動。
という、至極簡単な言葉で済ませたくないくらいだ。
綺麗な人。
女。
宝石。
自分が見てきたモノ全ては、
綺麗。
では無かったのかも知れないと思う。
抱き上げられて、根本に連れて行かれる。
見上げれば、一面桃色。
遠くで聞こえる、自分を呼ぶ声。
抱かれた腕も、吹いてくる春風もあたたかい。
目の前のピンク色が遠退いてゆく。
「?」
規則正しく聞こえてくる寝息。
ここのところ、昼寝もせずに、稽古を付けて貰っているからだろう。
自分達が気付いていないと思いながら、
必死に努力している彼が、愛おしくて仕方がないから、
みんなずっと、黙って見守る。
「ゆっくり寝ろ」
せめて、五月蠅い船長がいない、今くらいは。
を抱っこしたまま、桜の根元に座り込む。
を捜し回る、赤髪海賊団員の声が、
此処まで響いてくるが、勿論、無視。
「ん・・・・」
すり寄ってくる彼に、
変な情が浮かばないかと言えば嘘になる。
けれども、どっかの誰かさんのように、
莫迦正直に気持ちをぶちまけて、避けられようなんて思わない。
役得はいつでもこちらに回ってくるからだ。
「もう少し大きくなったら、銃は俺が教えてやろう」
額に落ちた桜を取りのぞき、
其れを唇に当てながら、そっと耳元で呟いた。