「よっしゃ!飲むぞ!!」
そう言い捨てて、赤い髪が疾走していったのは、
もう、ずいぶん昔のことのように思える。
晴れ渡った雲一つのない青空の下で、
お気に入りのフルーツティーをあけながら、
何処かできっと、絶対に、
トラブルが勃発しているであろう事に、は思考を寄せた。
「心配か?」
「え?」
「お頭のことだ。なんとかして戻ってくるさ」
「カルバドス、ちがうよ」
「?」
「なんとかするのはベックだもん」
「そうだな」
船に残っているのは、複数の船番と、
カルバドスと自分。
遊郭が広く占拠するこの島は、
彼等にとって、一種の吐き捨て場。
無くてはならない時間なのだ。
それを、自分はよく分かっている。
「」
「なに?」
「俺と買い物に行くか?」
「いく!」
料理を習っているものの、
何故だか、あまり成長しない自分の腕。
「これとこれだとどうだ?」
「ん〜こっち?」
「理由は?」
「なんとなく」
「野菜となるとてんでダメだな」
「う゛〜・・・・」
野菜や果物、肉、水、酒。
それらの選び方から捌き方。
勿論、1回で覚えられるとは、カルヴァドスも思っていないが、
かれこれ幾月だろう。
「果物は完璧だぞ?」
「・・・・・すきだから」
「甘いものはあまり食べなかったのにな」
「カルバドスのせいだよ!」
悪かった。
そういって笑う彼が好きだ。
ベンよりも大きな手。
いつも包丁を握っている手。
くすぐったくて、目をつぶる。
荷台の上で揺られながら、
遊郭から手招きされている男たちを見やった。
きっと何処かに、彼等もいるんだろう事は明白。
「、ジュース飲むか?」
「うん。ありが・・」
「〜〜〜〜〜!!!!うえっっ!!」
とっさに身の危険を感じて、カルバドスに抱きつけば、
案の定、荷台に激突した船長が。
頭から流れているのは血だろうか。
頭も顔もやたらと赤いので見分けが付かない。
「!無事か!?」
「ヤソ、シャンクスどうしたの?」
「飲み比べでな。調子のっちまったんだよ」
「いつもよりうざいね」
「みなまで言うな。お頭が屍になっちまう」
「わかった」
そういって、
既に屍になっているのかもしれない、赤い髪を見下す。
まったくもって進歩がない。
「お頭、その辺でストップしとけ」
「ここでやめたら男が廃る!」
「廃るとこまで廃っとるじゃろ?心配いらんわ」
「なんだと!見てろよ!!」
そして、何故、
自分の腕をがっしりと掴んでいるのかお聞きしたい。
カルヴァドスは、荷物もあるため応戦不可能。
アジール、背中を押すんじゃない。
「。なんでいんだ?」
「おれもききたい」
「こっちに来てろ」
「うん」
「行くなよ〜〜酌〜〜〜」
「いやだ」
また泣く。
泣き落としは女子供だけで十分だぞ?
そして、その女共の視線が、痛い。
「ルウ」
「どうした?」
「ルウはここでもおにくのにおいしかしないね」
「肉しか食ってないからな!」
「たすけて・・・」
「どうした?」
「なんのにおい?これ・・・・なんか、すごい・・・むり」
香水とお酒と煙草のにおいが混じる混じる。
咄嗟に、嗅ぎ慣れた、豚の丸焼きのにおいへ。
ぎゅうっと、ルウの腹に顔を埋めて、
誰かが連れ出してくれること祈るしか、
今のにはできなかった。