流石に、獣語は、理解できない。
「えっと、とりあえず、ありがとう」
「がるるるる」
「おなかすいてもたべないでね?」
「がる」
「うん。ぜんぜんわかんない」
とりあえず、
首の皮が繋がっているだけでも有り難いのだろうけれども、
其処に転がっている、今し方焼けた化け鳥の肉を、
美味しそうに食べている豹に、
抱きしめられている時点で、
死亡フラグはまっすぐ立っているのだから。
「(どうすりゃ良いんだよ)」
「お前、見てただろう」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「隠さなくても分かる。俺は目が良いからな」
「ひょうさん、しゃべれるの?すごいね」
「俺が人だと分かっていても尚言うか。面白い餓鬼だ」
「(興味持って欲しくねえ!!)」
「危害は加えない」
「(いや、めっちゃ不安。凄い不安)・・・・え?」
ぬるりと触ったのは、
あの青い海で見た、反対色の紅。
「けがしてる!!」
「大したことはない」
「ある!」
何も出来ない自分が歯がゆかった。
そこに在りたかったのに、
何処か遠くで見ている自分が、大嫌いだった。
きつく巻き付いていた太い腕をどけて、
近くの湖へ走る。
とにかく洗って、それから、それから・・・。
「・・・・・・・」
「しみる?いたい?ホントはあついおゆのほうがいいんだけど・・・」
「大丈夫だ」
「かのうどめになりそうなやくそうさがしてくる」
「問題ない」
「ある!あるったらある!」
ああ、また身勝手に餓鬼みたいな言い分を。
分かってはいる。
頼むから、自分が自分であるために、
痛みを忘れないで。
「ここにいて」
「・・・・・分かった」
は、それだけ言い残すと走り出した。
そうだ。
彼なら本当に問題ないのかも知れない。
だけどだけど、痛いよ。
痛いんだよ。
片腕を食いちぎられて、平気なわけがないように、
銃弾で二の腕を持って行かれて、平気なわけがないんだ。
「(貫通してるだけマシだ。後はなんか縛るものだな)」
短い腕一杯に薬草を摘んで、
磨り潰す木の棒も一緒に。
前なんてもう、殆ど見えないけれど、
ただ、痛くなくなって欲しいから。
「ねえ、ひとになれるんでしょう?」
「まあな」
「ひとになって」
「痛みが拡がる」
「ちりょうにならない」
「しなくとも・・」
「よくない」
「・・・・・・・・・・」
人型になった彼は、
自分が見知ったよりも幼げな顔立ち。
目の前にある真っ紅な真っ紅な痕に、
そっとタオルを這わせて、
締めるものなんて無いから、
自分のシャツを破いた。
「お前、何歳だ」
「6さい(推定)」
「何故こんな医療を・・」
「ならった」
「誰に」
「アジール」
「?」
「でき・・・た・・・」
ふらりと倒れてきたその子供を、
抱き留めてやる。
化け鳥に攫われつつも、冷静でいる此奴に目が行って、
豹が喋り出してもただただ普通で、
挙げ句の果てに、大量に殺しているのを見ている筈なのに、
必死になって治療をするなんて。
「気に入った」
引っかかることのない艶やかな髪が、
真っ黒な服と被る。
白い彼のシャツだけが、夜の訪れを告げていた。