もくもくと、部屋に充満する煙。
どうしたことか、外の空気を、暫く吸っていない気がする。
おれは航海士でも何でもない筈なのに、
ここの所、朝から晩まで海図と睨めっこだ。
それもこれも・・・・
「〜〜〜!!!!」
「お頭!それより目の前の敵船だ敵船!!」
「充電切れたんだよ!は何処だ!!」
対戦の疲れも相まってか、
いや、彼奴がこの程度の敵で息が上がるわけがない。
この頃更に磨きをかけたの毒舌でさえ、
此処は、保護者として嘆くところなのかもしれないが・・・。
もう耳には入っていない。
そろそろ本気で語学の問題集を叩き付けてやろうかと思う。
「シャンクスはなれて!!」
「嗚呼〜〜」
「ひっ!(息を吹き掛けんなこの糞変態!!)」
一生懸命にシャンクスを押しやろうとするが見える。
いつもいつも俺を捜す。
今日も今日とて、いつもなら前線に立っている筈の俺を、
その小さな眼で、必死に、
物凄く必死に捜しているのが判った。
「お頭!!」
「ああ、もう判ったようっせえなあ」
「がんばって(さっさと)い(逝)って来てね(そして戻って来んな)」
「待ってろよ!」
俺の勇姿を見せてやるからなあ!
なんて、なんとも噛み合っていない会話。
清々しく手を振るを見ながら、
あまりに清々しすぎて、涙が出そうになる。
どんちゃん騒ぎをやっていても、
負けないと判っているから、
溜息をつきつつ、また視線を海図へと戻した。
と同時に響いたノック音。
「誰だ?」
「おれだよ」
「開いてる」
「ベック、このごろお仕事たいへん?」
その小さい手にお盆を持って、
俺の好きな珈琲を持ってきてくれたが、
とてとてと入ってきた。
7歳にもなって、とてとてではないな。
先程、シャンクスへ向けた笑顔の持ち主とは考えにくい。
「どうしてだ?」
「ぜんぜん見かけなくなったから」
しょぼんっと項垂れるに微笑みを向け、
そっと頭を撫でてやれば、くすぐったそうに眼を細める。
「コーヒーもって来きたよ」
「すまんな。助かる」
「ううん。どうせ全部シャンクスのせいでしょう?」
「嗚呼。そうだな。まったくもってそうだ」
「ベックの身体が心ぱい」
ベッドに腰掛けさせて、
丁度手元にあったジュースを渡す。
滅多に飲まない甘いモノをこの頃欲しがるようになったのも、
きっと疲労の所為だ。
そしてその根源が、赤い髪の変態であることは明白。
「むりしないでね?」
「嗚呼」
だが、この船の旅路の命運は船先に託されている。
どちらに向いて進んでいくか。
航海士が感じとるのが空気なら、
自分は知識を総動員して、
未知の島への推測を立てねばならない。
「おれの・・・・せい?」
聡すぎて困ったことは多々。
今までなら、先を案じることもなく、
ただただ波の赴くままに船を進めたこともあった。
辿り着いた樹海で、
命を落としそうになったこともあったような気がしないでもない。
けれども今は、導の示すままに。
「気にするな」
「気にする」
「それじゃあ、あの莫迦をなんとかしてくれ」
「それはむり。いやだ」
「だろうな」
お互いの苦労をねぎらって、
心中お察しするよと、溜息をついた。